2021 年 68 巻 1 号 p. 1_21-1_28
本研究の目的はデザイン活動における推論の性質を明らかにするための知見を得ることである。科学的発見とデザインのアブダクションが異なることは既往研究に示されるが,デザインの動的なプロトタイピングにおける推論過程の説明は不十分である。そこでまず,発見された事象に対し,デザインにおいてはその事象を受け入れず解消するための推論がなされることが,科学的発見における推論に向けての態度と異なる点であることを指摘した。そしてデザイン活動のプロトタイピングにおける推論にはふたつのサイクルがあり,それらが交互に働くことを示した。双方ともパースの探求の理論に沿って,アブダクション,演繹,帰納のステップを経るサイクルである。しかし「探索のサイクル」は暫定的デザインコンセプトに基づくアイデア発散機能を担い,「解決のサイクル」はアイデア収束機能を担っており,これらは異なる役割を持つ推論サイクルとして理解される必要があることを示した。