2022 年 69 巻 2 号 p. 2_21-2_30
本稿は,苗族の伝統的服飾「百鳥衣」が苗族の人びとの生活づくりに寄与する役割を明らかにすることを目的としたものである。制作・着用・保管の文化を調査・考察し,以下の知見を得た。(1)百鳥衣は身の回りの自然から得られる竹皮・羽・板・樹尖・糠などの資源を利活用し,蚕糸布・薏苡珠・鶏の羽に意味を付与しつつ継承されてきたものである。(2)百鳥衣の着用の類型は鼓蔵節・婚礼・葬礼での着用に関する約束ごとに基づき,4つに分けられる。①鼓(男)・鼓(男)型。②鼓(男)・婚(新婦)・鼓(男)型。③鼓(男)・葬(男)型。④鼓(男)・婚(新婦)・葬(男)型。百鳥衣は,村の共同祖先を祀る鼓蔵節のために制作し着用されるが、祝いの行事である婚礼式にも着用されてきたことがわかる。(3)百鳥衣は制作者,着用者,保管者の関係から見ると,当該地域における苗族の人びとの家族の世代間,村落の人びとの交流を促し,共創意識を創出してきた。(4)以上の(1)~(3)を踏まえると,百鳥衣は,苗族の人びとが,当該地域における生活を構成するもの,人,ことといったさまざまな要素をつなげ共生・共存・共創の生活づくりの知恵を創出・継承する媒体として重要な役割を担ってきた。