抄録
情報化や個の尊重が進む社会の中で活躍する人の育成のために、新しい学習指導要領では「生きる力」の獲得が強調され、新しく「総合的な学習の時間」が設けられた。この時間の成否を握る鍵の一つは、従来の教科学習の枠にとらわれないテーマや学習方法の開発にある。未来社会においては、身のまわりの事象を的確に捉え、考え、自分で行動できる人が求められている。この育成のためには客観的な観察力や論理性の獲得とともに、鋭い感性や自己認識力の保持が必要となる。本研究では、後者の育成に総合的な学習が役立つのではないかと考えた。従来の理科学習においては、自己を取り巻く事象に関心を向けることが第一歩であった。しかし、子どもたちにとって自分を知る大きなきっかけは、自分の体ではなかろうか。明治以降の学校教育の中での理科と保健分野の学習の役割分担や、現在の学校生活における子どもたちの体の変調の状況を調べ、子どもたちが自分の体を知るためにはどの時期にどのようなテーマで学習を設定すべきかを考察した。また、医師や薬剤師の協力によって体の仕組みの解説書の作成を手がけ、子どもたちの力で体の仕組みを追究できる教材の作成も試みた。実践に向けての幾つかの試みを紹介する。