2018 年 33 巻 3 号 p. 25-28
筆者らは,SSIを取り上げ,複数視点取得を行う能力の獲得を目指した大学生向け教育プログラムの開発を試みている.複数視点取得を行う能力とは,他者の視点を取得し,SSIについて対立しているステイクホルダー間の協調を目指した提案を行う能力のことである.本教育プログラムで取り上げたSSIは,遺伝子組換え作物であるスギ花粉症緩和米の開発の是非である.本稿では,教育プログラムを経験した学習者の複数視点取得を行う能力が,他の問題でも発揮されるかどうかを検討する.
転移課題の内容は,原子力発電所の誘致に関して学習者自身の考えを自由に記述させるものであった.評価は,記述内で言及しているステイクホルダーの意見の内容及び,記述内における提案の程度により,レベル1~5の5段階で行った.事前―事後課題間の結果の比較から,学習者の記述内容のレベルは事後課題の方が有意に高いことが示された.その一方で,事後課題においてレベル4以上に到達した学習者は全体の3割程度,特にレベル5に到達できた学習者は2割にしか過ぎなかった.以上より,学習者は複数視点取得を行う能力を転移させることができたが,そのレベルは十分でないと考えられた.