文化的コンテンツの1つであるマンガは,娯楽の文脈だけでなく,科学教育の文脈でも活用されている.ここで,マンガ内の描写は科学的事柄だけでなくフィクションを含むことから,マンガの科学教育の活用においては,読み手が科学的事柄とフィクションの境界を認識できる必要がある.本研究では,科学教育の観点からのマンガ研究の土台を整理するために,これらの論点に関して理論的な検討を行った.まず,マンガのストーリーの構成要素内における科学的事柄とフィクションの描写について検討し,作品によってその境界にグラデーションがあることを確認した.次に,グライスの推意の理論を援用して,「学習マンガ」と「学習マンガと見做した娯楽マンガ」に対して読み手が行う推定の相違を示した.最後に,これらの議論を踏まえた上で,”学習マンガ” としてマンガを位置づける際のステークホルダーの役割と,科学教育におけるマンガ研究の今後の展望を整理した.