意思決定のための素養の育成は,学教育における目標の1つである.特に,疑似科学や陰謀論につながる意思決定の暴走を抑止する素養の育成は重要な課題である.自己超越感情はその素養に位置づき得るものであり,他者に対する想像力や自然のような超人間的存在への畏怖という自己超越感情を持つことは有限性の自覚を促し,全能感や意思決定の暴走を抑止する.本研究では,この自己超越感情の育成を軸に科学教育論を整理することで科学教育の役割・意義を検討した.その結果,現在・過去の科学者に対する共感や自然・科学文化の物理的な超越性においては全体-部分の関係性が有限性を自覚されるのに対し,インターネットや生成AIのもつ認知的な超越性においては認知の延長という連続的な関係が有限性と全能感の双方を与え得ること確認した.生成AIにおいては擬人的な表象と知識・想像力の関係性の解体を指摘し,生成AIに対して養うべき感覚を提示した.