2003 年 57 巻 57 号 p. 13-25
部分循環湖として知られる長野県阿南町の深見池において, 湖底堆積物コアを採取した. 全長約3mのコアには, 湖底から深度約2mまでに196枚の連続的な年縞が認められた. その年縞の層厚から求めた堆積速度には複数のスパイクが認められ, それらは過去に深見池周辺で起こった自然災害や湖岸の人為改変に起因していることが示された. また, 年縞編年に基づいて, 堆積物中の全炭素フラックスと気象観測記録との比較を行なった結果, 2月の平均気温と2月の降水量が, 湖水中の一次生産量, 有機物の分解量, および脱窒菌の活性度を規制していることが示された. さらに, 年縞の発達する層準から黄鉄鉱と菱鉄鉱が連続的に認められた. これらの鉄鉱物の形成条件と深見池の湖水環境を考慮に入れると, 黄鉄鉱は春から秋の湖水停滞期に堆積しており, 菱鉄鉱は冬の湖水循環期に堆積したものであると考えられる.