抄録
骨格筋は人体で最大の組織であり, 絶えずタンパク質の異化と同化を行う組織である. 傷害を受けた骨格筋は筋芽細胞などの骨格筋前駆細胞から形成される. 敗血症や熱傷, がん, 飢餓などの生体侵襲下ではこの骨格筋の異化, 同化, 筋新生のバランスが崩れ, 骨格筋萎縮が誘導される. 侵襲下では, ユビチンプロテアソーム経路, オートファジー経路, アポトーシス経路が活性化し, 異化が亢進する. また, insulin‐like growth factor‐1経路などのタンパク同化シグナルが不活性化する.さらに筋分化制御因子群の活性が減少し, 骨格筋新生能が低下する. これらのメカニズムで引き起こされた骨格筋萎縮は, さまざまな疾患において, 機能予後および生命予後の両方を悪化させる. 骨格筋萎縮は重要な疾患であるにもかかわらず, 既存のリハビリテーションなどの骨格筋萎縮への治療介入効果は限定的である. したがって今後分子機構をターゲットとした, 骨格筋筋萎縮の予防法や治療法の開発が期待される.