社会心理学研究
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原著論文
評判生成規範の類型がパーソナル・ネットワークのサイズに及ぼす効果
鈴木 貴久小林 哲郎
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2014 年 30 巻 2 号 p. 99-107

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問題と目的

評判の利用による協力行動の促進

経済的取引や社会的交換など、社会的不確実性が存在する他者との交換においては、ある相手に対して協力的な行動(以後、協力と表記する)をしてもその相手から返報されないというリスクが存在する。そのようなリスクと不確実性に対処しながら適切な交換相手を選ぶためにはどのような情報が必要となるだろうか。Axelrod(1984 松田訳1998)によれば、協力関係を築くには交換相手がどのような戦略を使ってくるのかの知識が必要になり、そのような知識は評判を通して得ることが可能になる。また、Ostrom(2003)は、他者に対する信頼が互恵性を成立させることで良い評判が生成され、その評判は信頼を再び高める土台となり、互恵性をさらに強めるというフィードバック関係によって協力関係が維持されるという理論モデルを提案した。これらの研究は、評判を通じて交換相手の使う戦略を知り、協力的な相手にだけ協力することが可能になり、その繰り返しによって互恵性が成立し、協力関係が維持されることを示している。本研究における評判とは、潜在的な交換相手の将来の行動を予測するのに有効であると信じられている情報であり、二者間の交換を観察した第三者たちがその交換における行動を評価することによって生成され、共有される情報として定義される(Standifird, 2001)。また、評判の生成方法は集団全体の規範として統一されているものと考える(以後、評判生成規範と表記する)。なぜなら、評判とは対人印象などの個人的表象ではなく、社会的に共有されることで初めて意味を持つ社会的表象(Moscovici, 1984)だからである(Craik, 2008)。

評判の2つの役割と利用例

山岸(1998)によれば評判には統制的役割と情報提供的役割の2つの役割があり、これらのメカニズムが有効に機能することで協力が促進される。統制的役割とは、評判が罰や報酬として働くことで、評判を立てられる人の行動を統制する役割のことであり、情報提供的役割とは、評判を立てられた人の信頼性を判断するための情報を提供する役割のことである。そして、どちらの役割が機能するかによって、構築される関係の構造に違いが生じうる。統制的役割が機能する場合は特定の相手との関係の維持や強化ができ、情報的役割が機能する場合は未知の相手が信頼できるかどうかを判断することができるため、交換関係の拡張が容易になると予測される。

このような理論的予測に対して、現実の社会における実証的な裏付けが存在する。評判の統制的役割では関係の維持は可能であっても、関係の拡張にはつながらない例としてGreif(2006 神取・岡崎訳2009)の比較歴史制度分析が挙げられる。中世の地中海で貿易を行っていたマグリブ商人たちは、同業者の中でネットワークを構築し、その内部で評判を流通させることで、遠隔地にいる代理人の裏切り行動を防止していた。つまり、評判の統制的役割によって代理人の利己的な行動を抑止し、プリンシパル=エージェント問題を解決していた。しかし、マグリブ商人たちはメンバーが固定された集団内で評判を利用していたため、結果的にはその関係拡張性の低さが原因で衰退したとGreifは指摘している。つまり、マグリブ商人たちは、評判を統制的に用いることで既存の関係を維持することができたが、航海技術やコミュニケーション技術の発展によって貿易を行う地域が拡大したときに現地の代理人を雇うことができなかったため、取引の効率性を高めることができなかった。そして、このことが一因となって、対照的に関係を拡張しながら貿易を行ってきたジェノヴァとの争いに敗れた。

一方、評判の情報提供的役割が関係の拡張をしながら協力関係の構築に有効であることを示した例としては、ネットオークションにおける評判利用が挙げられる。インターネット上で通常未知の他者と取引を行うネットオークションでは、交換相手についての情報が少なく、不確実性が極めて高い環境となっている。しかし、こうした環境下においても参加者の評判が体系的に表示され共有されることで、詐欺などの利己的な行動は理論的予測よりもはるかに低い頻度に抑えられている(Diekmann, Jann, & Wyder, 2009)。Yamagishi, Matsuda, Yoshikai, Takahashi, & Usui(2009)は、IDを自由に変えて再参入することで評判を自由にリセットできる模擬的なネットオークション取引実験を行い、評判が協力を促進する効果を検証した。その結果、悪い評判を持った者が評判をリセットして再参入することができるためネガティブな値しか持たない減点方式の評判は有効ではなく、ポジティブな値を持つ加点方式の評判が長期的に協力関係を築くのに有効であることを示した。このことは、ネットオークションのように流動性の高い環境では、ネガティブ評判による統制的役割よりも、交換相手を呼び込むようなポジティブ評判による情報提供的役割が協力関係の拡張に寄与することを示唆している。

本研究の目的

上記の2つの実証例は、協力関係の構築に向けた評判の利用は互恵性の成立可能性だけでなく、交換を行うネットワークの拡張可能性にも影響を与えることを示している。言い換えれば、評判利用による協力関係の構築方法として、社会的ネットワークを限定しながら内部での互恵性を強化する方法と、社会的ネットワークを拡張しながら新規に関係を構築するという方法が存在する。現実社会での社会的交換においては、これらをうまく使い分けながら評判を活用することが期待されているが、具体的な使い分けの方法などは検討されておらず、未だ課題も多い。そこで本研究では、互恵性の成立を支えるための評判が、社会的ネットワークにどのような効果を持つのかを検討する。後述するように、互恵性の成立に対して評判が有効に機能するかどうかは、その生成規範に依存することが指摘され、成立可能な複数の規範が提案されている。本研究では、これらの規範の下で生成された評判が社会的ネットワークを拡張しうるのかどうかを実証研究によって明らかにする。

本研究におけるモデルと仮説

互恵性を成立させうる評判生成規範

互恵性が成立するためには、誰かに協力した後に協力した相手から直接的に返報されるか、協力した相手以外の第三者から間接的に返報される必要がある。長期的に交換が繰り返される二者間では、TFT(Tit For Tat)のような応報的戦略によって直接的な返報が成立しうることが指摘されている(Axelrod, 1984 松田訳1998)。一方で、交換相手からの直接の返報を厳密に排除した状況で間接的な返報によって協力が促進される仕組みとしては、間接互恵性(Alexander, 1987)の成立の観点から検討されてきた。間接互恵性とは、回り回って別の他者から返報が行われることで、他者に対する協力が結果的に自分自身に利益をもたらす仕組みを指す。この間接互恵性を成立させるためには、「協力的な他者にのみ協力する」という選別的利他行動が重要であることが指摘されており(Nowak & Sigmund, 1998)、協力するべき相手か否かの手がかりとして評判が利用される。日常生活で行われる交換は社会的ネットワーク上で行われるため、直接的な返報は可能である。しかし、交換の相手の候補者が複数存在し、ネットワークの張替えが可能であるという特徴を持つので、ある関係が長期的に継続されるとは限らず、応報的戦略のみによる互恵性の維持には限界がある。このような状況では、各交換相手が自分以外に対してどのような行動を取っているのかの評判を共有しあうことで、利己的な行動を抑制しやすくなる(Raub & Weesie, 1990)。そのため、社会的ネットワーク上で繰り返し行われる交換においても、互恵性を維持するためには評判が必要となる。この評判は直接経験に基づかない情報をベースとしているという点において、間接互恵性の成立に必要な評判と同等の内容が求められる。そこで本研究では、社会的ネットワーク上で行われる交換で互恵性を成立させうる評判として、間接互恵性を成立させうる評判を適用する。

評判が間接互恵性を成立させうるかどうかを検討した理論研究では、数理解析や進化シミュレーションを用いたアプローチが行われてきた。これらの理論研究では、一方的に相手に協力する(=資源を提供する)か、協力しない(=資源を提供しない)かを決定するゲームを用いて、自分が協力した相手から直接返報されることがない状況をモデル化している。そして、このような状況ではどのような規範の下で生成された評判に従って行動することが高い利得を獲得しうるかを理論的に導き出すことで、間接互恵性を成立可能な評判生成規範が検討されている(e.g., Leimar & Hammerstein, 2001; 真島・高橋,2005a, 2005b; Ohtsuki & Iwasa, 2007)。こうした先行研究の中でNowak & Sigmund(1998)によって最初に提案された評判生成規範が、「協力者をGoodとみなし、非協力者をBadとみなす」規範(表1のImage scoring規範)である。この規範の下では、相手の評判を参照して行動する選別的利他主義者が利己主義者を駆逐することで間接互恵性が成立する可能性が示されたが(Nowak & Sigmund, 1998)、この規範の下では限られた条件下でしか間接互恵性が成立しないことが続く研究によって明らかにされた(e.g., Leimar & Hammerstein, 2001; Ohtsuki & Iwasa, 2007)。この限界を踏まえ、行動の内容(1次情報;評判生成の対象者が協力したか否か)だけではなく、協力/非協力の相手の評判(2次情報;評判生成の対象者が協力した(あるいはしなかった)相手の評判がGoodか否か)まで考慮する評判生成規範の有効性が検討されている。その中で、「協力者はすべてGoodとみなし、非協力者のうち評判の悪い相手への非協力者をGoodとみなし、評判の良い相手への非協力者をBadとみなす」規範(Leimar & Hammerstein, 2001)、「評判の良い相手への協力者のみをGoodとみなし、評判の悪い相手への協力者と、すべての非協力者をBadとみなす」規範(真島・高橋,2005b)、「評判の良い相手への協力者と、評判の悪い相手への非協力者をGoodとみなし、評判の良い相手への非協力者と、評判の悪い相手への協力者をBadとみなす」規範(真島・高橋,2005b)の3規範(それぞれ表1のStanding規範、Strict discriminator規範、Extra-standing規範)が間接互恵性を成立させることが可能であることがOhtsuki & Iwasa(2007)によって示された。以上の4つの規範は1次情報と2次情報の組み合わせによって表1のように分類できる。

表1 評判生成規範の分類
評判生成対象者の行動(1次情報)協力非協力
行動の相手の評判(2次情報)良い評判悪い評判良い評判悪い評判
規範の名称Image scoringGoodGoodBadBad
StandingGoodGoodBadGood
Strict discriminatorGoodBadBadBad
Extra-standingGoodBadBadGood

このように、想定可能な評判生成規範は複数存在し、間接互恵性の成立を目指した表1の4つの評判生成規範は、悪い評判の相手に対する行動への評価において異なっている。表1より、悪い評判の持ち主に対する協力(Cooperation to Bad、以後C to Bと表記)に対する評価と、悪い評判の持ち主に対する非協力(Defection to Bad、以後D to Bと表記)に対する評価の二つの軸を定義することで、4規範が定義可能である。

ネットワーク拡張性に対する評判生成規範の効果

評判は、交換を行う際に協力するかについての判断だけではなく、これまで交換を行ってきた相手との関係を解消するかの判断や新規の相手と関係を構築するかの判断にも用いられる。特に、真島(2010)は、ランダムに交換相手が決まる状況よりも交換相手を選別できる状況の方が他者を評価する際に2次情報が重視されることを示した。このことは、社会的ネットワークの選別を行う際に2次情報まで考慮された評判生成規範が用いられる可能性を示唆しており、これらの評判生成規範は社会的ネットワークの構造にも影響を与えると考えられる。

そこで、鈴木・小林(2011)は、現実社会における制約条件を課したモデルを用いてシミュレーションを行い、上記の評判生成規範が協力とネットワーク構造に及ぼす影響を検討した。鈴木・小林(2011)では、ネットワーク上で直接つながりがある相手に対してのみ社会的交換を行うことができ、さらにこのネットワーク自体を動的なものとして捉え、エージェントは近傍エージェントの評判を参照しながらパーソナル・ネットワークの選別を部分的に行うことができるとした。このモデルを用いて協力率とネットワーク密度1)に注目して規範のC to BとD to Bの効果をそれぞれ比較した。その結果、2次情報を考慮しない規範(C to BをGoodと評価し、D to BをBadと評価する規範)に比べて、C to BとD to Bの両方をGoodと評価する規範はネットワークを密にすることで取引数が増加すること、C to BとD to Bの両方をBadと評価する規範は協力率を上昇させるが、集団全体のネットワーク密度を低下させることで集団全体での取引数が減少することが示された。このことは、D to BをGoodと評価する規範はネットワークを拡張することで多くの相手と交換を行うことを可能にするのに対して、C to BをBadと評価する規範は利己主義者を排除することに注目しすぎた結果、副産物的に社会的ネットワークのサイズを縮小させていることを意味している。

本研究の仮説

理論研究は、現実から多くの交絡要因を取り除き最小限の要因のみを考慮して分析を行うことで、操作した要因が結果に対して与える影響を明らかにできる。しかし、モデルに採用した要因の妥当性そのものについてはシミュレーションから検討することはできない。評判研究に関する課題として、より広い視点からは、理論研究から得られた知見の実証的裏付けが不十分であることが指摘できる。そのため、評判の生成方法とその帰結について理論的に明らかにするだけでなく、その結果が生態学的妥当性の高い環境でも観察できるかについて検討を蓄積していく必要がある。理論研究と実証研究の両方を蓄積することによって、協力を促進するための評判利用を支援する制度やシステムを設計することが可能になっていくだろう。そこで、本研究では、鈴木・小林(2011)のシミュレーションで示唆された、C to BとD to BのそれぞれをBadと評価する規範はGoodと評価する規範と比較して社会的ネットワークを縮小させる可能性について実証的に検討する。鈴木・小林(2011)のモデルではエージェント空間で共有された評判生成規範を独立変数、集団全体のネットワークの密度を従属変数として比較を行った。本研究では個人レベルでも測定可能なパーソナル・ネットワークのサイズを測定し、従属変数として用いる。分析の際にデモグラフィック要因を用いて個人が埋め込まれた文脈の効果をコントロールし、パーソナル・ネットワークの大小とネットワーク密度の高低を可能な限り一致させることで、鈴木・小林(2011)における従属変数(集団全体のネットワークの密度)と対応づける。また、本研究での独立変数となる評判生成規範は準拠集団内で共有され、各人はその規範を内面化していると想定する(Akers, Krohn, Lanza-Kaduce, & Radsevich, 1979; Henrich, Boyd, Bowles, Camerer, Fehr, Gintis, & McElreath, 2001; 北折,2000)。そのため、個人が従っている規範を測定することは集団で共有された規範を測定しているとみなすことで、鈴木・小林(2011)における独立変数(エージェント空間で共有された評判生成規範)と対応づける。

以上より、本研究では実証的に検証可能な以下の仮説を検証する。

シナリオを用いた評判生成規範の測定

調査対象

2010年1月に、インターネット調査会社のモニターのうち年代(20代から50代までの4段階)、男女、居住地域の規模(「首都・大都市」「その他の主要都市、県庁所在地・小規模都市」「都市郊外町村・比較的利便性の良い田舎」「都市から離れた田舎」の4段階)の32区分をほぼ均等に割当てた727人を対象とした。割当てを行うのは、年齢や居住地域の規模などの要因によってパーソナル・ネットワークのサイズが異なるからである(Fischer, 1982 松本・前田訳2002)。例えば、大都市ではパーソナル・ネットワークの紐帯を結ぶための潜在的交換相手が多く田舎では少ない2)。したがって、大都市と田舎の住民のパーソナル・ネットワークサイズが等しくても、大都市では居住地域全体でのネットワーク密度は相対的に低く、田舎では居住地域全体でのネットワークの密度は相対的に高くなる。割当てを行うことでこれらの要因によるネットワークの密度の違いの確認を容易にしている。

調査デザイン

回答者は4つのシナリオを読み、登場する対象人物の印象をそれぞれ評価した。その後に、サポートネットワークサイズ項目、学歴などのデモグラフィック項目に回答した。

シナリオによる評判生成規範の測定

各シナリオには2人の人物が登場し、1人が資源提供を依頼し、依頼された相手は依頼を承諾するか拒否する。この依頼された相手についての評価が従属変数となる。依頼する人が悪い評判を持っている条件と評判情報がない条件(2水準)、依頼された人が受諾するかしないか(2水準)の二元配置による4条件に対応するシナリオを、回答者内要因としてランダムな順序で提示した(評判情報なし×受諾をC条件、評判情報なし×受諾しないをD条件、悪い評判×受諾をC to B条件、悪い評判×受諾しないをD to B条件とする3))。以下にシナリオ例を示す(波下線部が依頼する人の評判情報、二重下線部が対象者の行動に相当)。各シナリオを読んだ後、回答者は「信頼できる」「親しみやすい」「好感を持てる」の3つの尺度(6件法)で対象者(以下の例では小林さんに相当)を評価した。

シナリオ例4)(C to B条件)

山本さんと小林さんは、会社の同じ部署で一緒に働く同僚です。

山本さんと小林さんの職場では、交代で夜勤を担当することになっていますが、山本さんは何だかんだと理由をつけてはよく夜勤を休んでいます。プライベートな理由で休むことも多く、会社の同僚たちはそんな山本さんを多少うとましく思っているようです

ある日、山本さんは「好きな歌手のコンサートに行きたいので、夜勤を代わってほしい」と小林さんに頼んできました。小林さんは、夜勤続きでとても疲れていましたが、山本さんの夜勤を代わってあげました

サポートネットワーク項目

鈴木・小林(2011)のシミュレーションでは、評判を参照しながら紐帯の繋ぎ換えを行った結果残ったネットワークの密度を計測した。本研究では、これに対応する現実社会でのパーソナル・ネットワークとして、サポートネットワークのサイズを測定する。サポートネットワークは、自分に対して協力的にふるまってくれる他者によって構成されるネットワークであり、この他者が自分に対して協力的にふるまってくれるという認識は過去の交換の経験から形成される。つまり、サポートネットワークは長期間にわたる交換の繰り返しの結果残っているパーソナル・ネットワークであると考えられるため、鈴木・小林(2011)のシミュレーションの妥当性を検討するのに好適である。回答者のサポートネットワークのサイズとして、「元気づけてくれる」「引っ越しのような煩わしいことでも手伝ってくれる」「お金が足りないときに、昼食くらいならばおごってくれる」「パソコンやインターネットの利用方法を教えてくれたり、利用について相談にのってくれる」の4種類の他者について、それぞれ該当する人物の数を「いない」「1~3人」「4~9人」「10人以上」の4段階で測定した。これらの4種類の他者についての測定値を単純加算したもの(α=0.80、レンジ4~16、平均8.44、SD 2.25)を対数変換してサポートネットワークサイズとして用いる(平均2.10、SD 0.28)。

結果

分析の独立変数は、各回答者が従っている評判生成規範である。そこで、シナリオを用いて測定した各回答者のC to Bに対する評価値とD to Bに対する評価値を用いて、各回答者が表1の4種類の規範のうち、どの規範に従っているのかを分類した。分類を行うために、「信頼できる」「親しみやすい」「好感を持てる」の3尺度を単純加算して評価値とし(条件ごとの評価値の平均(SD)とα係数は5)、C条件;13.80 (3.11) α=0.94、C to B条件;12.29 (3.81) α=0.92、D条件;8.07 (3.23) α=0.93、D to B条件;11.24 (3.27) α=0.92)、それぞれの評価値が全体の評価値の平均値よりも大きければGood評価、小さければBad評価とした。このC to Bに対する評価とD to Bに対する評価を基に、各回答者を4種類の規範に分類した。規範ごとのサポートネットワークサイズの平均値を図1に示す。C to Bの評価値(GoodとBadの二水準)とD to Bの評価値(GoodとBadの二水準)の2要因による二元配置の分散分析を行ったところ、C to Bの主効果のみ有意になった(F(1, 724)=16.03, p<.01)。この結果から、仮説1は支持されたが、仮説2は支持されなかった。このことは、C to BをBadと評価すること、つまり評判の悪い相手に対する甘やかしを許さない規範によって生成された評判を用いている人ほどサポートネットワークサイズが小さいことを示している。

図1 各規範ごとのサポートネットワークサイズ

図中のバーは95%信頼区間を示す。

しかし、評判生成規範自体は実験的に操作された要因ではないので、ネットワークサイズに対してはその他の共変量の効果が交絡している可能性がある。特に、鈴木・小林(2011)のシミュレーションでは各規範での試行を通じてネットワークサイズを一定に固定して密度を測定したのに対して、実際のサポートネットワークのサイズは居住地域の規模によって決まっている可能性がある(Fischer, 1982 松本・前田訳2002)。そこで、属性の効果をコントロールした上でもなお評判生成規範がサポートネットワークサイズに効果を持つのかどうかを重回帰分析によって検討した(表2左)。その結果、女性であるほど、年齢が高いほど、高学歴であるほど、居住地域の規模が大きいほどサポートネットワークサイズが大きいことが示された。そして、これらの属性の効果をコントロールした上でもなお、C to BをBadと評価する人ほどサポートネットワークサイズが有意に小さいことが示された。さらに、協力自体の評価と非協力自体の評価をコントロールするために、Cの評価値とDの評価値を投入したモデルで重回帰分析を行った(表2右)。その結果、CをGoodと評価するほど、DをBadと評価するほどサポートネットワークサイズが大きいことが示された。そして、Cの評価値をコントロールした上でもなお、C to BをBadと評価する人ほどサポートネットワークサイズが有意に小さいことが示された。このことは、協力したという行動自体の評価だけでなく、評判の悪い相手に対する協力であったという2次情報に対する評価もサポートネットワークサイズに直接効果を持つことを示している。したがって、回答者の属性や評価の傾向の効果をコントロールしたうえでも仮説1は支持され、仮説2は支持されなかった。

表2 サポートネットワークサイズを予測する重回帰分析
従属変数サポートネットワークサイズ
Coef. (B) (SE)
性別(男)−0.05 (0.02)*−0.05 (0.02)*
年齢0.02 (0.01)0.02 (0.01)*
学歴0.04 (0.01)**0.04 (0.01)**
都市規模0.03 (0.01)**0.03 (0.01)**
Cに対する評価0.01 (0.00)*
Dに対する評価−0.01 (0.00)*
C to Bに対する評価0.09 (0.02)**0.06 (0.02)**
D to Bに対する評価−0.02 (0.02)−0.01 (0.02)
定数1.90 (0.04)**1.85 (0.07)**
N727727
決定係数0.060.08
調整済み決定係数0.050.07

** p<.01, * p<.05, p<.10

考察

本研究では、鈴木・小林(2011)のシミュレーション研究から導かれた仮説を検証した。場面想定法を用いたシナリオによって回答者の評判生成規範を測定し、サポートネットワークサイズに対する効果を分析した結果、C to BをBadと評価する規範に従って他者の評判を生成する人は、C to BをGoodと評価する規範に従って評判を生成する人と比べてサポートネットワークサイズが小さいことが示された。つまり、甘やかしを許さない非寛容さがサポートネットワークサイズを小さくしていることを示している。この結果は仮説1を支持するとともに鈴木・小林(2011)の結果とも整合的であり、シミュレーションモデルの妥当性を示している。それに対して、仮説2は支持されなかった。

C to BをBadと評価する非寛容な規範はネガティブな評判を生成しやすいので、その規範に従っている人たちの評判は加点されるよりも減点される機会が多くなる。それに対して、C to BをGoodと評価する寛容な規範はポジティブな評判を生成しやすいので、減点よりも加点される機会が多くなる。そのため、寛容な規範で生成される評判ほどYamagishi et al.(2009)におけるポジティブ評判のように、新たな交換相手と協力関係を築くための情報提供的役割として使われることが多く、関係を拡張する効果が強い。このような評判は既存のコミットメント関係に囚われずに新しく関係を築くことを可能にするだろう。一方、非寛容な規範によって生成された評判はネガティブな内容になりやすいため、少しでも協力の連鎖に悪影響をもたらしそうな相手を追い出す統制的役割として使われることが多く、限定された関係を強化する効果が強いだろう。

評判生成規範の二つの評価の軸について

本研究では、C to Bに対する評価とD to Bに対する評価の二つの軸で評判生成規範を定義した。このうちパーソナル・ネットワークのサイズに効果を持つのはC to Bに対する評価だけであり、D to Bに対する評価は効果を持たなかった。この理由としては、今回測定した個人レベルのC to Bに対する評価値よりも、D to Bに対する評価値の分散の方が有意に小さかったため(F(726, 726)=1.35, p<.01)、後者はパーソナル・ネットワークサイズに対する説明力を持たず、前者だけが説明力を持った可能性がある。両者の評価値の分散が異なる結果になった理由について以下で考察する。

D to Bは評判の悪い人に対しては非協力で対応するネガティブサンクション行動であり、罰行動の一種と捉えることができる。Barclay(2006)は罰行使者に対する評価について検討し、正当な利他的罰の行使者は直接の報酬の対象にはなりにくいが信頼されやすいことを示し、利他的罰の行使者は評判が良くなることで利益を得ていると指摘した。本研究で想定した非協力は、非協力する側にはコストがかからないため利他的罰とは異なるが、非協力がサンクションを行う動機に帰属されれば正当な罰行動であると認識されるだろう。今回用いたD to B条件のシナリオでは、相手の評判が悪いことが明示的に記されていた。そのため、非協力が利己的動機ではなく、サンクションを行う動機に帰属されやすくなっており、多くの回答者がD to Bを正当な罰行動であると認識したと推測できる6)。その結果、D to B行使者に対する評価について回答者間での合意性が高まり、評価値の分散が小さくなったと考えられる。一方で、C to Bは評判の悪い人に対して罰を行わずに協力してしまう甘やかし行為として捉えることができる。真島(2010)はC to Bがどのように評価されるかを実験によって検討し、交換相手の選別が不可能なランダムマッチング状況ではC to GとC to Bの評価に差がないこと、交換相手の選別が自由に可能な状況ではC to GよりもC to Bをネガティブに評価することを示した。このことは、集団内で行われている交換の構造によってC to Bに対する評価が異なることを示している。本研究で用いたシナリオの登場人物の評価を行う際にも、回答者がどのような準拠集団の規範を内面化しているかによって評価が分かれ、回答者間で評価値の分散が大きくなった可能性がある。例えば、交換相手を自由に選別できる職場に勤めている回答者は、C to Bを「断りきれない気の弱い人」としてネガティブに評価する規範を内面化しており、C to B条件のシナリオの登場人物をネガティブに評価する傾向が強いだろう。一方、交換相手の選別が不可能な職場に勤めている回答者は、C to Bを「心の広い人」としてポジティブに評価する規範を内面化している可能性が高く、シナリオの登場人物の評価をポジティブに評価したことが予想される。

つまり、罰行動に対する評価はどのような集団でもあまり変わらないのに対して、甘やかし行為に対する評価は集団ごとに大きく異なる。そのため、今回測定したD to Bの評価値の分散とC to Bの評価値の分散に差が表れ、説明力の違いを生み出していたと考えられる。

知見の応用可能性

本研究が対象としているネットワークが存在する現実社会での互恵性の成立は、社会関係資本研究(e.g., Coleman, 1988; Putnam, 1993 河田訳2001)に位置づけられるものである。社会関係資本とは、社会的ネットワーク、信頼、互恵性の規範7)を構成要素とする協力的関係を構築するための原資であり(Putnam, 2000 柴内訳2006)、社会的ネットワークの開放性という構造から結束型と橋渡し型の2種類の特徴的な類型があることが指摘されている。結束型の社会関係資本では、社会的ネットワークは閉鎖的であり、集団内部は強い紐帯で密に関係がつながりあってコミットメント関係を築いているが、集団外部には閉ざされている。それに対して橋渡し型の社会関係資本では、社会的ネットワークは開放的であり、集団内部は強い紐帯でつながりあっているが、複数の集団間を弱い紐帯で結んでいるため集団外部へも開かれた構造を持っている。結束型の社会関係資本は成員同士が安心して交換を行うことを可能にし、橋渡し型の社会関係資本は多様な他者との交換を行うことを可能にするという特徴を持つ。本研究の結果から、非寛容な規範によって生成された評判は限定された関係を強化する効果が強いため社会関係資本の結束型の特徴を強め、寛容な規範によって生成された評判は新しい関係を築くことを可能にするため橋渡し型の特徴を強めると考えられる。

現実社会では、交換を行う環境の違いによって有効な社会関係資本のタイプが異なり、それに合わせた評判の利用方法が求められる。例えば、マグリブ商人たちのように固定的な社会関係の中で資源交換を行っている場合には、現在所属しているコミットメント関係内での結束型の社会関係資本を強化することで交換を円滑化できる。そのためには非寛容な規範に従って生成された評判の利用が有効になるだろう。一方で、オンラインオークションのように新規の相手と交換を行うことでより大きな利益を得る機会がある場合には、橋渡し型の社会関係資本を醸成する必要がある。そのためには寛容な規範に従って生成された評判の利用が有効になるだろう。新しい関係を築くことが有効な状況においても、非寛容な規範に従って評判を生成することで一部の他者との関係を強化し、限定された集団成員間でのみ協力的な「タコツボ」的な人間関係を築くことは可能であるかもしれない。その反面、より大きな利益を得る機会を逃してしまう可能性や、強すぎる結束型の特徴を持つという社会関係資本の負の側面を顕在化させる恐れもあり、社会的にも望ましくない帰結がもたらされる可能性を高めてしまう(Portes & Landolt, 1996; Putnam, 2000 柴内訳2006)。

さらに、本研究では評判生成規範からネットワーク構造への一方向の因果関係を想定したが、逆の方向への因果関係も存在する可能性がある。つまり、一度非寛容に生成された評判を利用して閉鎖的な関係内で少数の相手だけと交換を始めてしまうと、その相手から裏切られることのリスクが相対的に上昇するため、ますます非寛容な評判生成規範に従うようになる可能性がある。このような非寛容な評判生成規範の自己強化的な働きは、固定的な社会関係をより強めることになる。山岸(1999)は、日本が閉鎖的で固定化された「安心社会」であるのと比較してアメリカは開かれた人間関係で多少のリスクをともなってでも新しい相手と取引を始めていく「信頼社会」であると指摘し、日本社会が「安心社会」から「信頼社会」へと移行していく必要性を唱えた。このような移行を意図して評判を活用しようとしても、非寛容な規範によって生成された評判を用いていては、「信頼社会」への移行はますます困難になってしまうだろう。

このように、本研究の結果は、現実社会における評判システムの実用化に向けた課題に対して解決策を提示しうる。

本研究の限界と今後の課題

本研究では、独立変数として評判生成規範を、従属変数としてパーソナル・ネットワークサイズを個人レベルで測定したため、個人レベルの分析しか行えなかった。測定された規範は各回答者が所属している集団の中で共有されていると想定したが、実際には集団内で共有されていない可能性がある。罰行動に対する評価と甘やかしに対する評価の2つの軸がパーソナル・ネットワークサイズに対して異なる効果を持つ理由を検討するためには、規範が集団内で共有されているかどうかを明らかにする必要がある。また、今後は規範の共有程度が集団全体のネットワーク密度や協力率に対してどのような効果を持つのかを実証的に検討していく必要がある。これらの検討を行う際には、個人を対象とした社会調査だけでは方法論的な限界があるため、実験などを合わせて行う必要がある。

また、本研究の従属変数であるサポートネットワークサイズは、実測値ではなく回答者が認知した主観的な値を用いたが、個人が認知した主観的なパーソナル・ネットワークと、実際のネットワークとの間には誤差が存在することが指摘されている(e.g., Krackhardt, 1987)。そのため、本研究で測定したサポートネットワークサイズは、実際にサポートを享受してくれる人の数を正確に反映していない可能性がある。ただし、本研究の目的はサポートネットワークのサイズの絶対的な値の測定ではなく、回答者ごとの相対的な大小を比較することであるため、回答者が用いている評判生成規範とサポートネットワークサイズの誤差の間に関連がなければ問題にはならないと考えられる。この点については、別の方法で測定したデータなどと比較しながら確認していく必要があるだろう。

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