社会心理学研究
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原著論文
男女カテゴリの顕現性が自己価値への脅威下におけるジェンダーに関する自動的偏見に及ぼす効果
石井 国雄沼崎 誠
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2015 年 31 巻 1 号 p. 25-34

詳細

問題

人は自己価値が脅威にさらされると、自己高揚に動機づけられるため、自己価値を高揚させる方法に対して選択的に注意が向くようになる(Steele, 1988; Steele, Spencer, & Lynch, 1993)。外集団を否定的に評価することは、下方比較を通して自己価値に対する肯定的な感覚を生じさせ、自己高揚するための手段となる(Fein, Hoshino-Browne, Davies, & Spencer, 2003; Tajfel, 1981)。そのため、脅威下では外集団への否定的な評価が生じやすくなるのである。実際、Fein & Spencer(1997)は、脅威下において外集団に対して否定的な評価が強まるほど状態自尊心が回復することを示している。

このように、多くの研究は、自己価値への脅威下においては、外集団への否定的評価が生じやすいことを示しているが(Crocker, Thompson, McGraw, & Ingerman, 1987; Fein & Spencer, 1997; レビューとして、Fein et al., 2003)、とくに近年の研究では、脅威下において生じる、外集団偏見の自動性が注目されている。脅威下では外集団と単純に接触しただけで、否定的な評価概念が活性化することが示されている(石井・沼崎,2011, 2012; Spencer, Fein, Wolfe, Fong, & Duinn, 1998)。Spencer et al. (1998)は、我々は外集団を否定的に評価することで自己高揚する経験に頻繁に遭遇しているために、自己高揚目標と外集団の否定的概念との間に、強いリンクが生じるとしている。そのため、自己価値への脅威下のように、自己高揚目標が活性化する状況では、外集団との接触により、否定的な概念が自動的に活性化するようになるのである。Spencer et al. (1998)の研究では、まず、参加者は知的テストに取り組み、その後、否定的な結果のフィードバックが与えられた。結果のフィードバックに続いて、外集団成員(アジア人、アフリカ系アメリカ人)をプライムとして呈示した後に、語幹完成課題によりステレオタイプの活性化が測定された。測定の際には、活性化を弱める方法がとられていたにもかかわらず(認知負荷、プライムの閾下呈示)、否定的な結果をフィードバックされた参加者は外集団のプライムによって否定的なステレオタイプ関連語の完成数が多くなった。同様に、石井・沼崎(2011, 2012)は、自己価値への脅威にさらされた男性において、女性を肯定的概念よりも否定的概念と結びつける傾向が強まることを示している。

概念の活性化は、概念に関連した行動を惹起するため(Wheeler & Petty, 2001)、こうした脅威下における評価概念の活性化は、後続の差別的行動と関連することが示されている(Spencer, Fein, Straham, & Zanna, 2004)。そのため、概念の活性化に注目することで、自己価値への脅威下で生じる外集団偏見や差別の低減の手立てを探ることができるだろう。そこで本研究は、脅威下において生じる自動的偏見を低減する方略を見出すことを目的とした。本研究では、偏見が生じるための重要な要因としてカテゴリの顕現性に注目し、内外集団カテゴリの顕現性を弱めることで自己価値脅威下における自動的偏見が低減するかを検討した。とくに、男女カテゴリを取り上げ、男女カテゴリの顕現性を弱めることによって、自己価値への脅威下におかれた男性において生じる女性に対する自動的偏見が低減するかを検討した。

カテゴリの顕現性と外集団偏見

カテゴリの顕現性とは、ある状況において特定の社会的カテゴリの接近可能性が高まり、注意をひきつけることをさす(Gaertner, Mann, Murrell, & Dovidio, 1989)。偏見研究においては一般的に、内集団と外集団のカテゴリが顕現化している場合には、種々の集団間バイアスが生じやすくなることが示されている。たとえば、最小条件集団パラダイムのように、内外集団に関する区別がわずかに呈示されただけでも、内集団への同一視が生じ、集団間バイアスが生じる(Gaertner et al., 1989; James & Greenberg, 1989; Tajfel & Turner, 1979)。逆に、共通内集団の呈示(Gaertner & Dovidio, 2000)や脱カテゴリ化(Turner, Hogg, Oakes, Reicher, & Wetherell, 1987)などにより内外集団の境界をあいまいにすると、内集団への同一視が弱まり、集団間バイアスが低減することが示されている(Gaertner et al., 1989)。内外集団カテゴリの顕現性は、自動的偏見にも重要な役割を果たしていることがわかっており、とくに、顕現性が弱まった場合に自動的偏見が低減することが示されている(Hall, Crisp, & Suen, 2009)。

カテゴリの顕現性は、さまざまな目標が活性化している場合における、自動的偏見の生じやすさにも影響を及ぼす。たとえば、Zogmaister, Arcuri, Castelli, & Smith(2008, study 2)は、イタリア人を参加者として、北(または南)イタリアに関連のあるものを記述させるか、学生に関連のあるもの(イタリアとは無関連の事物)を記述させるかを操作した。その後、語幹完成課題によって平等主義または忠誠(Loyalty)をプライムした後、GNATを用いて出身地(北イタリアvs.南イタリア)ヘの自動的偏見を測定した。その結果、出身地を顕現化させた場合には、平等主義プライムによって忠誠プライムよりも自動的偏見が減少したが、イタリアとは無関連の事物を記述した場合には、イタリアに関する顕現性が弱まったため、プライムによる差は見られなくなった。また、Motyl, Hart, Pyszczynski, Weise, Cox, Maxfield, & Siedel(2011, study 1)は、死を顕現化されたアメリカ白人において、アラブに対する自動的偏見が生じることを示しているが、異文化の人々が共に活動をすることを想起させる写真を見ることで、内外集団の境界をあいまいにした場合には、この効果は生じなくなることを示している。これらは一貫して、目標の活性化による自動的偏見への影響は、当該の内外集団カテゴリを顕現化させた場合に生じやすくなり、顕現性を弱めると生じにくくなることを示している。

同様に考えると、自己価値への脅威下での自動的偏見にも、内外集団の顕現性は影響を及ぼすと考えられる。この考えと関連する研究として、Florack, Scarabis, & Gosejohann(2005)は、内集団アイデンティティの強さが脅威下における顕在的な偏見を調整することを示している。彼らは、脅威下における外集団(ポーランド人)への偏見の強さと内集団(ドイツ人)アイデンティティの強さとの関係を検討した。ドイツ人参加者に困難なテスト(vs.容易なテスト)を受けさせることによって自己価値への脅威にさらした後、内集団アイデンティティの強さを評定し、外集団ターゲットに対する態度を質問紙を用いて測定した。その結果、脅威下における外集団成員への顕在的態度は、内集団アイデンティティの強い参加者のほうが内集団アイデンティティの弱い参加者よりも、否定的であった。ポーランドという国は、ドイツ人にとって近隣の外国カテゴリであるが、ドイツ人としての内集団アイデンティティの高い人は、ポーランドを頻繁に社会的比較の対象としており、慢性的に顕現的な外集団カテゴリとなっていると考えられる。自己高揚目標が活性化しているときには、その状況において最も顕現的な自己高揚手段を用いると考えられるが、内集団アイデンティティの高い人にとっては、ポーランド人というカテゴリは顕現的になりやすく、自己価値が脅威にさらされたときにも、否定的に評価されやすかったと考えられる。一方で、内集団アイデンティティの低い人にとって、ポーランド人がそれほど顕現的な外集団カテゴリではなかったため、脅威下でも下方比較の対象とならなかったと考えられる。ここから、外集団カテゴリの顕現性を弱めることは、脅威下の偏見を低減することにつながりうることが示唆される。ただし、この研究では、内集団アイデンティティの高さによってポーランド人への好意度がもともと異なっていたという可能性が否定できず、また、自動的偏見への影響も明らかではない。

以上を踏まえ本研究は、内外集団カテゴリの顕現性を操作することが、自己価値への脅威下における自動的偏見に影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。

男性による女性に対する自動的偏見

本研究では、脅威下における自動的偏見の検討にあたり、日本において最も日常的に用いられている内外集団カテゴリの一つである男女カテゴリを取り上げた。とくに、男性のジェンダーに関する自動的偏見を検討した。

男性におけるジェンダーに関する自動的評価は、状況に依存して肯定的にも否定的にも変化しやすいことが示されている。まず、肯定的な自動的評価について、男性は女性よりも内集団バイアスが弱く、内集団バイアスが生じないこともしばしばある(Aidman & Carroll, 2003)。たとえば、Rudman & Goodwin(2004)は一連の研究でIATを用いてジェンダーに関する自動的評価を測定したところ、男性においては、女性を肯定的概念と結びつけ、否定的な概念とは結びつけない傾向が一貫して見られた。石井・沼崎(2009)は、日本においてもこの傾向が同様に生じることを示している。Rudman & Goodwin(2004)は、否定的バイアスが弱い理由として、男性は記憶において女性を母親や異性愛の対象といった肯定的なステレオタイプと連合させているため、女性を否定的な評価概念と連合させる傾向が生じにくいことを指摘している。こうした傾向は、一般的な傾向として自動的偏見が生じやすいマイノリティ外集団(e.g., 黒人)への評価とは異なる特徴である(Jost, Pelham, & Carvallo, 2002)。

しかし、こうした傾向は状況によって変化する。女性に対する自動的評価が否定的に転ずる一つの状況が、自己価値への脅威状況である(石井・沼崎,2011, 2012)。石井・沼崎(2011)は、男性を参加者とし、テストのネガティブ・フィードバックを与えることによって脅威を与えた後に、IATを用いてジェンダーに関する自動的態度を測定した。その結果、脅威にさらされなかった男性において、女性を肯定的な概念と結びつけ、男性を否定的概念と結びつける反応傾向が見られた一方で、脅威にさらされた男性においては、逆に、女性を否定的な概念と結びつけ、男性を肯定的概念と結びつける反応傾向が見られた。また石井・沼崎(2012)は、シングルカテゴリIAT(Karpinski & Steinman, 2006)を用いて、男性に関する評価を反映させない形で、女性への自動的偏見を測定した。その結果、自尊心が高い男性は脅威にさらされると、女性と否定的概念を(肯定的概念と比して)結びつける反応傾向を示した。このように、脅威下におかれた男性において、女性に対する自動的偏見が生じることが示されている。本研究の目的は、このように自己価値への脅威下において生じやすい、男性による女性に対する自動的偏見が、男女カテゴリの顕現性を弱めることで低減するかを示すことにあった。

さらに、本研究では上記の目的に加えて、女性との接触によって活性化する評価概念の特徴にも注目した。石井・沼崎(2011, 2012)は、脅威下で女性に対する自動的偏見が生じることを示したが、どのような評価概念が活性化したかについてはあいまいな点が残っていた。石井・沼崎(2011, 2012)は、IATを用いて自動的偏見を測定していたが、IATの自動的偏見の得点算出においては、好ましい単語と好ましくない単語に対する反応時間が合算される。そのため、IATで測定された自動的偏見には、ある対象と肯定的概念を結びつける反応と、否定的概念を結びつける反応の効果が混交されてしまうのである。すなわち、先行研究では脅威下において自動的偏見が増加するとしたが、この自動的偏見は、女性と否定的な概念との連合が強まった結果として生じる可能性があるし、女性と肯定的概念との連合が弱まった結果としても生じる可能性がある。活性化した概念の質によって後続の行動のあらわれ方が異なると考えると(Wheeler & Petty, 2001)、評価的概念を区別して測定し、どのような活性化が生じるかを明らかにすることは重要であろう。心的概念の活動は、拮抗する概念の活性化によって抑止(inhibition)されることが知られている(Bodenhausen & Macrae, 1998)。とくに女性は一般的に肯定的な概念を結びつけられやすい外集団カテゴリであるため、男性におけるジェンダーに関する自己高揚において、女性に対する肯定的概念を抑止する方向性で、自動的偏見を増加させる可能性も考えられよう。ゆえに、男性における女性に対する自動的偏見を考慮する際には、否定的概念の活性化と肯定的概念の抑止を区別する必要がある。先行研究では、否定的概念の活性化に注目がなされることが多く、肯定的概念の抑止についてはあまり検討されていない。ここでは自動的偏見を、外集団との接触により、自動的に否定的概念が活性化されるか、あるいは、肯定的概念が抑止されることと定義する。その上で本研究では、顕現性の検討とともに、女性との接触による活性化について、否定的概念と肯定的概念を区別して検討した。

研究の概要

本研究は、男女カテゴリの顕現性を弱めることで、自己価値への脅威下におかれた男性における、女性に対する自動的偏見が低減するかを検討した。また、自動的偏見の測定にあたっては評価プライミング課題を用い、女性のプライムによる肯定的概念と否定的概念の活性化への影響を検討した。

カテゴリ顕現性の操作

男女カテゴリの顕現性を弱める操作として、別の集団カテゴリ(年齢カテゴリ)とのカテゴリ交差を行う方法を用いた。カテゴリ交差とは、社会的判断の際に、交差する2つのカテゴリ次元を交差して呈示することにより複雑化させ、二分化したカテゴリ判断をさせにくくする方法である(Crisp, Ensari, Hewstone, & Miller, 2002; Crisp & Hewstone, 1999)。本研究では、男女カテゴリに交差するカテゴリとして、年齢カテゴリ(若者、高齢者)を用いた。カテゴリ交差の操作は、男女カテゴリと年齢カテゴリを交差させた4カテゴリの刺激(男性若者/女性若者/男性高齢者/女性高齢者)を分類する課題を通して行った。具体的には、4カテゴリの刺激を、一方の条件(男女顕現条件)では男女カテゴリに基づいて分類させ、もう一方の条件(年齢顕現条件)では年齢カテゴリによって分類させた。前者の分類課題をした場合には、男女カテゴリのみが顕現化するため、男女カテゴリに基づく自動的偏見が生じやすくなると考えられるが、後者の分類課題を行っている場合は、交差カテゴリとして年齢カテゴリの顕現化が強まるため、男女カテゴリの顕現性が相対的に弱められ、男女カテゴリに基づく自動的偏見が生じにくくなると考えられる。こうした分類課題を用いた理由は規範による影響を取り除くことにある。従来の顕現性を弱める操作には、集団間の共通点を考えるといったような直接的なものが多いが、このような操作は参加者に集団間関係改善のための実験と察知されやすく、規範による影響が生じる可能性がある。分類課題はそうした直接的な操作と比べると、集団間関係改善とは関係のない課題と思われやすく、規範による影響を抑えられると考えた。

閾下評価プライミング課題

本研究では、自動的偏見の測定法として評価プライミング課題を用いた(Wittenbrink, Judd, & Park, 1997; Wittenbrink & Schwarz, 2007)。評価プライミング課題は、態度対象のプライミングが、評価概念の活性化を生じさせるかを測定する。態度対象に関連した単語(e.g., 女性、男性)をプライム刺激として短い時間呈示し、その後に、ポジティブあるいはネガティブ単語を呈示し、ターゲット刺激への評価的判断を行わせる。態度対象の単語のプライミングは、態度対象に関連づけられている評価を活性化させ、後続のターゲットへの評価判断に影響を与える。本研究は、自動的偏見の傾向として、2つの方向性を想定した。1つは、女性との接触による否定的概念の活性化であり、女性プライムとの接触によりネガティブな単語への反応が促進されることとした。2つ目は、女性との接触による肯定的概念の抑止であり、女性のプライム時にポジティブな単語への反応が遅くなる(抑止される)こととした。

重要なこととして、本研究ではプライム刺激を閾下(16.7 ms)で呈示した。男女に関するプライムを閾上で呈示してしまうと、参加者は男女についての実験ではないかという懸念を持ってしまい、そのことにより男女カテゴリの顕現性が高まってしまう可能性がある。そのため、本研究ではすべてのプライム刺激を閾下で呈示することで、男女に関する意識的な処理をさせないようにした。

また、本研究は女性プライムを呈示する試行のほかに、男性プライムを呈示する試行も行った。女性に対する自動的偏見とは異なり、男性に対する自動的偏見は脅威によっては強まらないことを示唆する結果がこれまでの研究で得られているため(Ishii & Numazaki, 2008)、その結果が再現されるかを検討した。

仮説

男女顕現条件においては、脅威あり条件のほうが脅威なし条件よりも、女性に対する自動的偏見が強まる一方で、年齢顕現条件においては、脅威の有無による女性に対する自動的偏見の違いは見られないだろう。ここにおける、脅威による自動的偏見への影響の方向性として、具体的には、脅威あり条件のほうが脅威なし条件よりも、肯定的概念が抑止されるか、あるいは否定的概念の活性化が強まることを想定した。男性に対する自動的偏見には、脅威および顕現性による影響は見られないことを想定した。

方法

実験参加者

東京都内の男子大学生44名が参加した。実験に参加し、参加レポートを提出することにより授業の加点をされることが予告されていた。2(脅威:脅威なしvs.あり)×2(カテゴリ顕現化:男女顕現vs.年齢顕現)の条件にランダムに割り当てた。

装置と刺激項目

実験に使用した装置はTOSHIBA製のノートPCのdynabook AX/650LSと17インチのCRTモニターであった。実験刺激の呈示とデータ収集はInquisit software package(version 2.0, Millisecond Software)で制御した。モニターの解像度は1024×768ピクセルに設定した。すべての文字刺激項目は49ポイントのMSゴシック・フォントで呈示した。

カテゴリ分類課題には、男性若者、女性若者、男性高齢者、女性高齢者の4タイプの写真刺激項目を用いた。各タイプに10枚の写真を用意した。これらの写真については、事前に大学院生2名に対して、性別判断および年齢判断の調査(「男性に見えるか、女性に見えるか」と「若者に見えるか、高齢者に見えるか」)を行い、2名が共に正確に分類した写真を選択した。

評価プライミング課題においては、プライム刺激項目およびターゲット刺激項目に文字刺激を用いた。プライム刺激には女性プライム、男性プライム、および無関連プライムの3タイプを用いた。女性プライムとして“おんな”、男性プライムとして“おとこ”、無関連プライムとして“ひと”を用いた。ターゲット刺激には、ポジティブ語とネガティブ語の2タイプの文字刺激項目を用いた。ポジティブ語には、輝かしい、元気、最高、見事な、すばらしい、正当、良い、正しい、好き、うれしい、喜び、幸運な、きれい、あたたかい、明るい、おもしろい、快い、積極的、の18語、ネガティブ語には、痛ましい、ひどい、最低、悪い、失敗、不当、不正、劣っている、間違い、不快、嫌い、吐き気、不運な、きたない、つめたい、いじわる、つまらない、暗い、の18語を用いた。ターゲット刺激のベイレンスは、単語の一般的好ましさの調査を大学生19名に対して実施することで確認した(7件法、1:非常に好ましくない~7:非常に好ましい)。その結果、すべてのポジティブ語(M=5.96)は評定における中点である4点より有意に高く、ネガティブ語(M=2.44)は中点より有意に低かった(ps<.05)。

手続き

実験は一人ずつ個別に行った。まず参加者には2つの異なる実験が行われると説明した。最初に性格と思考能力を測定するテストの妥当性の検証のための実験を行い、次に認知判断に関連する実験を行うと説明した。実験に関する注意事項を説明した上で、参加に承諾する場合には同意書に記入させた。

カテゴリ顕現化の操作および脅威の操作

自己価値への脅威は、石井・沼崎(2011, 2012)と同様に、テストのネガティブな結果のフィードバックを行うことによって操作した。フィードバックは、思考能力と対人能力という2つの領域についてネガティブな結果を与えるというものであった。ネガティブ・フィードバックを受けない条件(脅威なし条件)と受ける条件(脅威あり条件)を設定した。まず、PC上で性格検査、カテゴリ分類課題、思考能力テストという3つのテストを行った。これらのうち、カテゴリ分類課題はカテゴリ顕現化の操作のために行った。最初に、性格検査を行った。性格検査は、文章を呈示し、5件法での回答を求めるものであった。

次にカテゴリ分類課題を行った。この課題では、まず人物の顔写真が画面の四隅のいずれかに呈示された。呈示された顔写真は、男性若者、女性若者、男性高齢者、女性高齢者の4タイプのいずれかのカテゴリに属していた。参加者には呈示された写真の人物が属するカテゴリについて2択で判断させ、キー押しをさせた。判断するカテゴリは条件ごとに異なっていた。男女顕現条件の参加者には男女のカテゴリに基づいて判断するように求め、写真の人物が自分と同じ性別であったらFキー、異なる性別であったらJキーを押すように求めた。一方、年齢顕現条件の参加者には年齢カテゴリに基づいて判断するよう求め、写真の人物が自分と同年齢であったらFキー、異なる年齢であったらJキーを押すように求めた。キー押しをすると800 msの間隔をおいて次の試行となった。試行セッションは、練習セッションと本試行セッションの2つに分かれており、ともに同じ課題が行われた。練習セッションは8試行、本試行セッションは120試行であった。

3つ目に思考能力テストを行った。このテストでは図形に関するパズル問題を呈示した。この思考能力テストについては、条件ごとに難易度が異なっていた。脅威なし条件では、参加者は、難易度の低い問題を比較的長時間をかけて行うことができたが(1問ごとの制限時間が30秒)、脅威あり条件では、難易度の高い問題を短い時間で解かなければならなかった(1問ごとの制限時間が10秒)。

テストが終了した後、「性格検査は対人的な特性を、カテゴリ分類課題と思考能力テストは仕事に関連した特性を測定しており、これらは将来の成功に関連する」とテストで測定された特性についての概説を行った。これは自己にとって重要な特性が測定されたという認識を促すためのものであった。その説明が終わった後、結果のフィードバックの操作を行った。脅威あり条件の参加者には、PCの画面上にテストの成績を表示することでフィードバックした。表示された結果は偽のネガティブな結果であり、E評価(A~Fの間の評価で下から2番目)であり、これまでテストを受けた男性大学生「110人中85~104位」に位置するというものであった。対して、脅威なし条件には、成績は次の実験後に返すと説明し、フィードバックを行わなかった。フィードバックに関する操作を行った後に、1つ目の実験は終わりであると告げた。

自動的偏見の測定

脅威の操作後、認知判断のテストと称して、閾下評価プライミング課題を行った。評価プライミング課題は、Wittenbrink et al. (1997)を参考に作成した。まずスクリーン上に注視点(+)を1000 ms呈示し、その後、男性プライム、女性プライムまたは無関連プライムのいずれかをプライム刺激として16.7 ms呈示した。すべての試行においていずれかのプライム刺激が必ず呈示された。プライム刺激の直後に、視覚記憶への影響を取り除くために、マスク刺激(#####)を216.7 ms呈示した。マスク刺激の呈示後、33.3 msの間画面をブランクとした(SOA=266.7 ms)。次に、ターゲット語を呈示した。ターゲット語としてポジティブ語・ネガティブ語のいずれかが呈示された。ターゲット語は233.3 ms持続させ、その後消失させた。参加者には、ターゲット語が一般的な意味で好ましい単語か好ましくない単語であるかの判断を求め、ターゲット語が好ましい単語であったらFキー、好ましくない単語であったらJキーを押すように求めた。回答が正解であった場合は正解を示す記号(“○”)、不正解であった場合には不正解を示す記号(“×”)をそれぞれ500 ms画面に呈示した。その後800 msの試行間隔をおいて次の試行となった。

試行セッションは、練習セッションと本試行セッションの2つに分かれていた。練習セッションは課題に慣れる目的で行った。練習セッションでは、常に無関連刺激項目をプライム刺激として呈示し、本試行セッションで用いない単語をターゲット語とした(幸福、不幸)。練習セッションは8試行行われた。

本試行セッションでは、プライム刺激として女性プライム、男性プライムおよび、無関連プライムを呈示した。本試行セッションにおいて、それぞれのターゲット語は1回のみ呈示した。そのため各カテゴリのターゲット語18語のうち、それぞれのプライムに6語ずつ割り当てた。プライム刺激とターゲット語の組み合わせは参加者間で異なっており、実験スクリプトを3パターン作成することにより、参加者間ですべてのプライムとターゲット語を対応させた。プライム刺激とターゲット語の組み合わせにはラテン方格を用いた。本試行セッションは36試行であった。

課題の終了後、プライム刺激への気づきに関する質問を行った。ターゲット語の呈示前に呈示された刺激は何であったかを自由記述させた。その後、参加者に本当の目的を告げデブリーフィングを行った。デブリーフィングの最後には、本当の目的を聞いた上でデータの使用を承諾するかどうかを尋ね、承諾する場合には同意書を提出させた。

結果

プライム刺激および実験目的への気づき

ターゲット語の呈示前に呈示された刺激について尋ねたところ、マスク刺激の前に何らかの刺激が呈示されたと回答する参加者はいたものの、その刺激が何であるかを正確に回答できた参加者はいなかった。このため、自覚を伴わずにプライム刺激を呈示するという操作は成功していたと考えられる。また、実験後に真の実験目的に気づいたと報告した参加者はいなかった。

従属変数の算出

評価プライミング課題の反応時間を分析に用いた。まず反応時間が1500 ms以上であった反応を外れ値として除外した。次に、誤反応を分析から除外した。それら除外した反応は全体の反応の2.2%であった。次に、データの歪度を調整するために反応時間に対して対数変換を施した。この値を使って参加者ごとに3(プライム)×2(ターゲット感情価)ごとに平均反応時間を算出した。ポジティブ語、ネガティブ語それぞれにおいて、女性プライム、男性プライムそれぞれの平均反応時間を、無関連プライムの平均反応時間から減算し、ジェンダー・プライムによる変化量とした。この値は、無関連プライムと比して、男女プライム刺激との接触による、概念の活性化の程度を示している。この値が正の場合には、プライムにより概念が活性化したことを示し、負である場合には概念が抑止されたことを示している。

自動的偏見の分析

反応変化量を従属変数とした2(脅威:参加者間)×2(カテゴリ顕現化:参加者間)×2(プライム:参加者内)×2(ターゲット:参加者内)の混合ANOVAを行った。以後の分析では、活性化あるいは抑止が生じていたことを示すために、平均値を示すとともに、0からのt検定の結果も付記した。まず、脅威と関連のない効果として、ターゲットの主効果が有意であり(F(1, 40)=12.03, p<.005)、全体的な傾向として、ネガティブ語の変化量(M=-.030, t(43)=-3.90, p<.001)はポジティブ語の変化量(M=.001, t(43)=0.13, ns)よりも小さい傾向が見られた。

こうした効果に加え、脅威と関連した効果として、脅威×ターゲットの交互作用(F(1, 40)=5.09, p<.05)と、仮説と関連した4要因の交互作用が有意となった(F(1, 40)=4.28, p<.05)。まず、脅威×ターゲットの交互作用を詳しく見てみると、脅威なし条件では、ネガティブ語の変化量(M=-.048, t(21)=-4.46, p<.001)はポジティブ語の変化量(M=.003, t(21)=0.64, ns)よりも小さいが(F(1, 20)=17.74, p<.001)、脅威あり条件ではその傾向は見られなくなっていた(F<1;ネガティブ語:M=-.013, t(21)=-1.25, ns; ポジティブ語:M=.002, t(21)=-0.21, ns)。また、ネガティブ語の変化量は、脅威なし条件よりも脅威あり条件のほうが大きかった(F(1, 40)=5.57, p<.05)。こうしたことは、男性・女性プライムにかかわらず否定的概念は肯定的概念よりも抑止されやすいが、その傾向は、脅威なし条件においてのみ見られることを示している。

次に、仮説の検証のために、4要因の交互作用を詳細に検討した。ここでの分析方針として、変化量をターゲットおよびプライムといった参加者内要因ごとに分け、脅威と顕現性の効果を見ていくことで、どのような概念活性が脅威および顕現性によって影響を受けたのかを調べることとした。Figure 1には、各プライム–ターゲットの組み合わせごとの、顕現性×脅威の傾向を記載した。まず、ターゲットごとに区別して、顕現性×脅威×プライムの単純交互作用を見ていくことで詳細な検討を行った。ポジティブ語とネガティブ語のそれぞれの変化量に対して、2(顕現性)×2(脅威)×2(プライム)のANOVAを行った。この分析に際してはプールしない水準別誤差を用いた3)。すると、ポジティブ語の変化量については、仮説から予測される顕現性×脅威×プライムの交互作用のみが有意となった一方で(F(1, 40)=6.98, p<.05; Figure 1A, 1B)、ネガティブ語の変化量については、仮説から予測される3要因の交互作用は有意ではなく(F<1)、前出の脅威の主効果のみが有意となった(F(1, 40)=5.57, p<.05; Figure 1C, 1D)。

Figure 1 Mean amount of change for evaluative judgment as a function of prime gender, target valence, category salience, and self-threat. Higher score indicate activation by gender priming, and lower score indicate inhibition by gender priming.

ポジティブ語については、顕現性×脅威×プライムの交互作用が見られたため、次に男性プライムと女性プライムとに分けて、2(顕現性)×2(脅威)のANOVAを行った。すると、女性プライム–ポジティブ語の変化量においては、顕現性×脅威の交互作用が有意傾向となった一方で(F(1, 40)=3.91, p=.06)、男性プライム–ポジティブ語の変化量については、有意な効果は見られなかった(Fs<2.8; Figure 1B)。女性プライム–ポジティブ語における効果は、Figure 1Aに示したとおり、男女顕現条件についてはポジティブ語の変化量は脅威あり条件(M=-.027, t(10)=-2.44, p<.05)のほうが脅威なし条件(M=.003, t(10)=0.41, ns)よりも小さかった一方で(F(1, 20)=4.87, p<.05)、年齢顕現条件については、脅威の効果は見られないというものであった(F<1)。こうしたように、女性プライム–ポジティブ語の反応に対する脅威による影響は、顕現性によって調整されていた。すなわち、男女顕現条件においては、脅威あり条件のほうが脅威なし条件よりも、肯定的概念が抑止された一方で、年齢顕現条件においてはそのような脅威の影響は見られなかった。

考察

本研究は、男女カテゴリの顕現性を弱めることで、自己価値への脅威下におかれた男性における、女性に対する自動的偏見が低減するかを検討した。とくに、自動的偏見を検討するにあたっては、肯定的概念の抑止と、否定的概念の活性化を区別し、脅威下における自動的偏見がどのような形で生じるかを検討した。

まず、肯定的概念の抑止については、仮説どおりの結果が得られた。すなわち女性プライム–ポジティブ語の反応は、男女顕現条件においては、脅威あり条件のほうが脅威なし条件よりも抑止される傾向が見られたが、年齢顕現条件においては脅威による影響が見られなくなった。一方で、男性プライム–ポジティブ語の反応は、脅威や顕現性による影響は見られなかった。ここから、男女を顕現化したとき、自己価値への脅威にさらされた男性において、女性との接触による肯定的概念の抑止が生じるが、男女を顕現化しないときには、脅威による影響が消失することが示された。

一方で、否定的概念の活性化については、顕現性による影響は見られなかった。男女プライムにかかわらず脅威によって、ネガティブ語の抑止が生じなくなる傾向が見られており、その傾向は、各顕現条件で一貫して見られた。これは想定しない効果であったが、何を表しているだろうか。このことを調べるため、否定的概念の活性化の傾向を詳細に見ていくこととした。まず、ネガティブ語の反応は、脅威なし条件では女性プライム(M=-.051, t(21)=-4.36, p<.001)と男性プライム(M=-.045, t(21)=-4.18, p<.001)にかかわらず変化量は有意に負であり、抑止が生じていた。抑止が生じた理由は、男女プライムそれぞれで異なる可能性がある。女性プライムによる抑止が生じた理由は、男性による女性への一般的な評価が関わるだろう。女性カテゴリはさまざまな肯定的な特徴が結びつけられている外集団カテゴリである(Aidman & Carroll, 2003; 石井・沼崎,2009; Rudman & Goodwin, 2004)。そうした肯定的カテゴリは、否定的概念と結びつけられにくいと考えられる。一方で、男性プライムによって抑止が生じた理由については、参加者である男性にとって、男性カテゴリが内集団カテゴリであったことが考えられる。内集団カテゴリに否定的概念を結びつけることは自己評価の低下につながるため、生じにくいのだと考えられる。こうしたように、脅威なし条件では、否定的概念が男女プライムによって抑止されたが、脅威あり条件では抑止が生じなくなる傾向が見られていた。おそらく、自己価値への脅威という操作自体によって、否定的概念が活性化しやすくなったのだろう。このことを確かめるため、変化量ではなく、ネガティブ語の反応時間が、脅威あり条件と脅威なし条件とで異なるかを比較した。この比較においては、男女プライム時の反応時間だけではなく、無関連プライムにおける反応時間も分析に用いた。その結果、脅威あり条件(M=2.71)のほうが脅威なし条件(M=2.74)よりも反応時間が速いという有意に近い差が見られた(F(1, 40)=3.09, p=.09)。このことは、脅威あり条件では否定的概念が活性化しやすかったことを示唆している。以上のように、脅威によって否定的概念の活性化が強まってしまったために、プライムの影響が生じにくくなったことが考えられる。

このような限界はあるものの、肯定的概念の抑止における結果から、男女カテゴリの顕現性を弱めることによって脅威による自動的偏見への影響が消失するという仮説は支持された。本研究の結果は、自己価値への脅威にさらされた男性において、女性に対する自動的偏見が生じるという、石井・沼崎(2011, 2012)の知見を再現するとともに、以下の2つを示している。まず、自己価値への脅威にさらされた場合に、外集団との接触によって肯定的概念の抑止が生じることである。脅威が否定的概念の活性化に及ぼす影響は先行研究から指摘されてきたが(Spencer et al., 1998)、肯定的概念の抑止に影響を及ぼしたという知見は先行研究では得られていなかった。概念の活性化は行動を惹起することから(Wheeler & Petty, 2001)、その特徴を明らかにできたことは、活性化研究だけではなく、差別的な行動の予測において価値があるだろう。とくに、男性にとって女性は温情的主義的な集団カテゴリで、否定的な概念が結びつけられにくいとされる(Rudman & Goodwin, 2004)。本研究の結果の解釈として、女性との接触は否定的概念を想起させにくいため、肯定的概念の抑止という形で自動的偏見が生じた可能性は考えられる。ただし、先に述べたとおり、否定的概念の活性化という点では本研究は明確な結果は得られなかったため、この解釈には限界がある。そのため、自己価値への脅威が、男性において、女性の否定的概念と肯定的概念への活性化にどのような影響を及ぼすかについてはさらなる検討が必要だろう。

第二に、こうした脅威による影響は、男女カテゴリの顕現性を弱めたときには生じにくくなるということである。これは、脅威下における自動的偏見に、内外集団カテゴリの顕現性が関わっていることを示唆するものである。自己価値への脅威下では、自己高揚手段に対する注意が強まるが、最も注意されやすいのは、その状況において接近可能性が高い事象であると考えられる。男女顕現条件では、男女関連概念への接近可能性が高まることで、脅威下において女性に対する自動的偏見が生じやすくなったと考えられる。一方で、男女カテゴリの顕現性が弱まった年齢顕現条件では、男女関連概念の接近可能性が低まり、女性に対する自動的偏見が生じにくくなったと考えられる。このように、カテゴリの顕現性は、外集団に関する記憶表象の接近可能性に影響を及ぼすことにより、脅威下における自動的偏見を低減させたと考えられる。自動的偏見が低減することで、自己価値への脅威下における意識的な偏見の適用や差別も低減すると考えられるため、本研究の知見は意義があると言えよう。

ただし、本研究の顕現性低減方略は、あるカテゴリ(男女カテゴリ)の顕現性を弱める操作であったが、これは他カテゴリ(年齢カテゴリ)の顕現性を高める操作となっていたという点は考慮しなければならないだろう。このことにより、一方の外集団偏見(男女偏見)を低減させるが、他方の外集団偏見(年齢偏見)を増加させてしまうかもしれない。そのため、社会的カテゴリが多元的に関わる状況では本研究の方略の使用は慎重になるべきだろう。集団間関係に関する研究には、内外集団カテゴリの顕現性を弱める方法として、他の集団カテゴリの顕現性を高める以外にも、共通内集団アイデンティフィケーション(Gaertner & Dovidio, 2000)や、脱カテゴリ化(Turner et al., 1987)といった方法が考案されている。今後の研究では、応用的な観点からも、カテゴリ顕現性を弱めるためのさまざまな方法による、より包括的なアプローチを模索する必要があろう。

また、先行研究では脅威下における否定的な外集団態度を低減する要因として、自己肯定化という方略が注目されている(Fein & Spencer, 1997)。自己肯定化とは、自己の重要な価値について確認するという作業のことであり(Steele, 1988)、自己統合の感覚を維持させやすくすることで、さまざまな防衛的バイアスの発生を抑える作用がある(Sherman & Cohen, 2006)。こうしたアプローチは偏見低減において有効な手段であるが、現実的な実施にはいくつか問題点が考えられる。たとえば自己肯定化操作は、基本的に脅威を受ける前に実施する方略であるが、現実では思いもよらぬ形で脅威が生じる可能性があり、必ずしも事前に実施ができるとは限らない。とくに脅威を受けた事後になされた自己肯定化操作は、逆に防衛的バイアスを増加させうることを示す研究もある(Critcher, Dunning, & Armor, 2010)。このように考えると、脅威下における防衛的バイアスとしての自動的偏見を回避する方略として、自己肯定化によらない短期的な方略を見出したという点で、本研究の知見は価値あるものであろう。ただし、本研究の方略は、自己高揚手段であった偏見を利用させないことで、自尊心は低下したままとなり、他の自己防衛バイアス(e.g., セルフサービングバイアス)を生じさせる余地を残してしまう可能性があろう。また、先に述べた他カテゴリに対する偏見を増加させる可能性も考慮すると、カテゴリの顕現性を弱めることは一時的な偏見回避の方略として用いる一方で、自己のリソースを回復させることも考慮することで、統合的に防衛的バイアスを低減することが望ましいだろう。

References
 
© 2015 日本社会心理学会
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