社会心理学研究
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原著論文
家庭での省エネルギー行動に対する内発的動機付けの長期的な効果:実際のエネルギー使用量と自己申告による省エネ行動を用いた検討
森 康浩小林 翼安保 芳久大沼 進
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2016 年 31 巻 3 号 p. 160-171

詳細

問題

家庭での省エネルギーの重要性

気候変動の対策としてエネルギー消費によるCO2排出抑制が世界的に求められており、日本においてもエネルギー消費抑制への関心が高まっている。とくに北海道では、総CO2排出量の内、家庭部門が約22.5%であり、全国平均の14.1%と比較しても多いため、家庭での省エネルギー(以下、省エネ)行動の重要性も高い(北海道,2010)。家庭部門を詳細に見ると、電力の利用によるCO2排出は、2012年では5割を占め、電気・ガス・灯油を合わせると家庭部門での約4分の3にのぼる(温室効果ガスインベントリオフィス,2014)。しかし、北海道は冬の間雪に閉ざされ、1月・2月の平均気温は氷点下であり(以下で紹介する本研究の事例調査地である旭川市の平均気温は、1月−7.5°C, 2月−6.5°C)、無理な暖房の節約は健康への影響が懸念される。したがって、無理なく家庭でのエネルギーを抑制する取り組みが必要となる。

心理学やその隣接分野では、省エネについての行動変容の研究は行われているが、長期的な効果を測定した研究は極めて少なく(Abrahamse & Matthies, 2012)、長期的効果があったとする研究も諸理論と対応させた説明が不十分であると指摘されている(Abrahamse, Steg, Vlek, & Rothengatter, 2005; Dwyer, Leeming, Cobern, Porter, & Jackson, 1993)。

以上の問題を受け、本研究では、第一に、1年間にわたる長期的な省エネ行動を追跡する。その際に、より実態に即した効果的な処方策を検討できるよう、質問紙で測定した自己申告の行動に加えて、実際のエネルギー消費量を行動の結果の総体として分析に用いる。後述するように、本研究は「旭川発おうちのEne-Ecoプロジェクト」の参加者を対象としており、プロジェクトの制約上、実験的な比較が可能な要因配置はできなかったが、実際の行動を反映していると考えられる具体的で客観的な数値を得ることに重点をおいた。第二に、長期的な行動を扱うことと関連して、省エネ行動それ自体が面白い・楽しいといった内発的動機付けに着目した分析をしていく。

長期的な行動変容と内発的動機付け

持続的に省エネ行動を促進するためには、短期間の一過性の介入よりも長期的な介入を続けたほうがより効果的である。しかし、常に外から介入をし続けることは多くの困難や制約があるため、介入がなくなっても主体的に行動を継続できるようになる必要がある。このことを検討する上で、心理学における動機付けの考え方が適用可能であろう。

動機付けは、報酬や罰といった外的な要因によって行動が生起する外発的動機付けと、行動すること自体に興味や面白さを見いだし行動する内発的動機付けの二つに大別できる(Deci & Ryan, 1985)。

経済的な利益のフィードバックや金銭的報酬といった外発的な動機付けを用いた省エネの取り組みも多く行われている(Brandon & Lewis, 1999; Sexton, Johnson, & Konakayama, 1987)。人がエネルギー問題について考えるときにはコストのことを考えやすく(Eurobarometer, 2007)、気候変動の抑制のような社会的全体にとっての便益よりもエネルギー消費にかかる個人的な費用を優先して考える傾向がある(Spence, Leygue, Bedwell, & OʼMalley, 2014)。そのため、省エネ行動を促進するために、直接的にお金の節約になることや貢献に応じた報酬が得られるといった経済的誘因の効果があることが示されている(Winett, Kagel, Battalio, & Winkler, 1978)。しかし、経済的誘因が省エネ行動をすることで得られる価値を上回ってしまうと短期的で持続しにくいという指摘もある(McClelland & Cook, 1980; Slavin, Wodarski, & Blackburn, 1981)。また、現実には、投資可能な金銭等の誘因は有限であり、それを永続的に与え続けることは難しい。以上を踏まえると、金銭的報酬に象徴される外発的動機付けは、行動変容のきっかけの一つとしては有効かもしれないが、長期的に省エネ行動を継続させる上では別の工夫を必要とする。

一方で、内発的動機付けによる行動は、その行動自体に面白さを見いだすため、長期的に持続する傾向があり(Coleman & Iso-Ahola, 1993; Moller, Ryan, & Deci, 2006; Webb, Soutar, Mazzarol, & Saldaris, 2013)、内発的な動機付けと行動の頻度の間に正の関連があること(Green-Demers, Pelletier, & Ménard, 1997; Osbaldiston & Sheldon, 2003; Villacorta, Koestner, & Lekes, 2003)、内発的動機付けが高まると実行が困難な行動もとるようになり、行動の種類も増えたことが示されている(Green-Demers et al., 1997)。以上の先行研究を概観すると、内発的動機付けは長期的な行動の持続に正の関連があると予測できる。

外発的動機付けと内発的動機付けが行動に及ぼす影響を検討するに際し、時間の経過に伴う変化を考える必要がある。例えば、外発的動機付けと内発的動機付けが独立に行動に影響するが、その影響の時点が異なるという可能性が考えられる。Salancik (1982)は、省エネ行動の原因を内的に帰属するように誘導された被験者が、外的に帰属された被験者よりも、将来実行したい省エネ行動をより多く報告したという結果を受け、二つの動機付けの影響過程が異なると論じている。この知見に対して時間の変化を考慮すると、まず外発的動機付けが行動のきっかけとなり、その後時間をおいて内発的動機付けが行動へ正の影響を与えるという可能性が考えられる。Pallak, Cook, & Sullivan (1980)は、事前に省エネ行動の実行に同意した住民のリストが公表されると伝えられ、これを外発的な誘因として省エネ行動を検討した。その結果、外発的誘因が取り除かれた後でも、多くの住民は長期間にわたり持続して省エネ行動を実践していた。行動のきっかけは外的な要因であったが、長期間行動をとるうちに、外発的動機付けを必要としない持続的な行動へと変換される過程があることを論じている。このとき、内発的動機付けが行動に影響を及ぼすだけでなく、短期的に変容した行動が内発的動機付けに影響を及ぼし、行動と内発的動機付けが相互に強化しあう可能性も考えられる。なお、外発的動機付けが内発的動機付けを阻害するアンダーマイニング効果(Moller et al., 2006)も指摘されているが、省エネ行動に限れば、この効果を報告した研究が見られず、外発的動機付けが内発的動機付けを低減させるとは考えにくい。いずれにせよ、省エネ行動で内発的動機付けと外発的動機付けの関連について、長期的な行動と組み合わせて分析した先行研究は見当たらない。本研究では、外発的および内発的動機付けが家庭での省エネ行動に及ぼす影響を探索的に検討する。

自己申告の行動と行動の痕跡

環境配慮行動研究において重要な従属変数は行動である。介入の効果を測定する際によく用いられる方法は、質問紙やインタビューといった自己申告の回答による方法である。このような方法は短い時間に多くの情報を収集することができ、費用対効果が高い。また、顕在化しにくい私的な空間での行動や習慣的な行動といったさまざまな行動の側面について尋ねることができるという利点もある(Huffman, Van Der Werff, Henning, & Watrous-Rodriguez, 2014)。しかし、自己申告で測定した行動は、行動の内容によっては回答に偏りが見られるときがあるという問題がある。例えば、社会的に望ましいほうに過大に回答してしまったり、逆に控えめに回答してしまうことがある(Geller, 1981; Luyben, 1982; Vining & Ebreo, 2002; Warriner, McDougall, & Claxton, 1984)。また、回答が差し控えられ、測定したい行動を捕捉しきれないことがある(Paulhus & Vazire, 2007)。自己申告によって得られる行動は個人の行動を自己知覚した反映であり、観察された行動は実際の行動の反映である。そのため、観察された行動よりも、自己申告の行動のほうが、態度や認知変数との関連が強い(Obregón-Saudo & Corral-Verdugo, 1997)。したがって、より正確な行動を測定するために、可能ならば自己申告の回答によらない測定法が望ましい。

自己申告によらず行動を捉える方法は、実際の行動の観察や行動をした結果の把握がある。このような方法は、回答者が主観的に感じる、調査者などからの期待に影響されにくく、行動を測定することを可能にする。一方で、観察による行動の把握は時間がかかる上に、測定方法が確立されておらず定量化も困難なため、あまり多く用いられていない。家庭での省エネルギー行動の場合、月々のエネルギー使用量は、日常生活における行動の結果の累積が反映されたデータであると見なすことができる。ただし、質問紙やインタビューなどによらずに態度や認知、評価などと行動との関連を分析することは事実上困難である。態度と行動の関連を調べる上では、質問紙による測定も併用する必要がある。そこで、質問紙による動機付けなどの心理変数の測定と、質問紙による行動、観察された行動とを同時に分析できることが望ましい。

Warriner et al. (1984)は、家庭でのエネルギー使用料金と料金の予測との間には強い相関(r=.95)があったが、実際のエネルギー使用量と使用量の予測ではほぼ無相関だったと報告している。ただし、実際にどのような行動をしたのかとの関連は分析していない。エネルギー使用量は家庭内におけるさまざまな行動全体の集約された結果である一方、質問紙による自己申告の行動はその一部を表現していると考えるならば、適切な行動項目が用意されていれば質問紙による行動と実際のエネルギー使用量との間にはある程度の関連があると予測される。そこで、両者の相関関係の強さについて確認しながら分析を進める必要がある。

以上の議論を踏まえて、本研究では、実際の電気・ガス・灯油の使用量として表れた行動変数と質問紙による自己申告の行動の二つの行動データを用い、これらの行動指標と内発的動機付けなどの心理変数との関連と、長期的な変化を検討する。

なお、環境配慮行動研究では行動意図を行動の直接の規定要因とし、態度や規範などの変数は行動意図を介して行動に影響するという計画的行動理論(Theory of Planned behaviour; 以下、TPB)が多く採用されており(Ajzen, 1991; Bamberg & Schmidt, 2003)、約200の論文を集めたメタ分析からもさまざまな行動ドメインでTPBが有効であることが確認されている(Armitage & Conner, 2001; McEachan, Conner, Taylor, & Lawton, 2011)。内発的/外発的動機付けも、態度や規範などと同様に行動意図を介して行動に影響すると考えられるが、直接行動に影響する可能性も否定できないので、本研究では行動意図を介した/介さない両方のモデルを探索的に分析する。

方法

「旭川発おうちのEne-Ecoプロジェクト」参加者を対象に世帯での1年間のエネルギー消費量(電気、ガス、灯油)データと、3回にわたる質問紙調査による回答を求めた。

旭川発おうちのEne-Ecoプロジェクト

「旭川発おうちのEne-Ecoプロジェクト」(以下、プロジェクト)は、北海道環境財団、旭川NPOサポートセンター、旭川市が主体となり、北海道大学、株式会社JCBとの協働により、家庭での省エネ行動促進を目的に2011年12月から2012年11月までの1年間行った。

参加世帯は、公募によって集められた旭川市在住の69世帯であった。居住形態別では、戸建て住宅が50世帯、集合住宅が19世帯であった。世帯構成人数は、単身が6世帯、2人が22世帯、3人が17世帯、4人が16世帯、5人が7世帯、6人が1世帯であった。また、プロジェクト参加者の年齢は、20代が8人、30代が17人、40代が16人、50代が11人、60代が10人、70代が5人であった。

プロジェクトの参加世帯は、毎月、電気・ガス・灯油の利用実績明細を提出した。また、参加者はプロジェクト開始時の2011年12月に、プロジェクト参加前の家庭でのエネルギー消費・CO2排出状況を認識するために、環境省が公式に制度として認定している“うちエコ診断”2)を受診した。この際に、プロジェクト開始時1回目の質問紙調査に回答した。また、開始半年後の2012年6月に、グループインタビューを実施し、その際に2回目の質問紙に回答した。そして、2012年12月に3回目の質問紙に回答した。

プロジェクトでは、家庭でのエネルギー消費を抑制するための介入として、「ポイント減少制度」を用いた。これは、エコポイント制度などに多く見られるように、ポイントをためるという加算型ではなく、減算型ポイントを用いた。プロジェクトの開始時に世帯人数に応じてEne-Ecoポイントを付与し、プロジェクト参加世帯が報告する月々の電気・ガス・灯油のエネルギー使用量に応じて、毎月ポイントが減少するという仕組みとなっていた。毎月のエネルギー使用量は、WEBまたは紙面で管理され、残存ポイントはWEB上で確認可能であった。1年間のプロジェクト終了後、残存ポイントに応じて参加者は商品等と交換することができた3)。これが外的誘因である。

実際のエネルギー使用量

参加者は毎月、電気・ガス・灯油の使用量をWEB入力もしくは明細表を事務局へ提出した。電気・ガス・灯油の使用量の単位は異なるので、次に述べる換算式を用いて世帯からのCO2排出量(kg)と消費熱量(メガジュール:以下、MJ)を算出した。電気は利用明細書に「kWh」で記載されている。CO2排出量を計算する際に、北海道電力2009年度実績値・調整後排出係数である0.423 kg CO2/kWhを用いた(この係数は福島原子力発電事故以前の電源構成比に基づいている公表値である)(環境省,2010a)。ガスは、都市ガスとLPガスともに「m3」単位と明細書に記載されている。都市ガスの場合は、「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」(環境省,2010b)が定める単位熱量当たりの炭素排出量、および炭素・二酸化炭素の換算係数を基に2.30 kg CO2/m3を用いた。LPガスの場合は、日本LPガス協会の「プロパン、ブタン、LPガスのCO2排出原単位に係るガイドライン」(日本LPガス協会,2009)より、6.6 kg CO2/m3とした。灯油は「リットル(L)」単位で使用量が記載されている。灯油のCO2排出係数は、「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」(環境省,2010b)より2.49 kg CO2/Lとした。実際のエネルギー使用量に、これらの排出係数をかけて、排出されたCO2量を算出した。消費熱量については、2008年から2010年の家計調査(札幌)(総務省,2011)から算出した係数を用いた(電気熱量:3.6 MJ/kWh、都市ガス熱量:44.8 MJ/m3、LPガス熱量:44.9 MJ/m3、灯油熱量:36.7 MJ/L)。以下の分析では、世帯ごとにこれらの総和を、世帯のCO2排出量および消費熱量として用いた。

質問紙

自己申告の行動と態度などを測定するために、プロジェクト開始前(n=69)、開始から半年後(n=66)、1年後(n=67)の3回質問紙調査を行った。

質問項目

深刻さの認知、外発的動機付け、内発的動機付け、行動意図、省エネ行動、および、ポイント制度について「全くそう思わない」から「非常にそう思う」の5件法で尋ねた。

深刻さの認知は「今日のエネルギー問題は深刻である」、「省エネの推進は差し迫って対応すべき問題だ」の2項目(介入前:α=.84、半年後:α=.57、1年後:α=.55)、外発的動機付けは、「家計の節約にもつながるなら省エネをする」、「お金やポイントをもらえるなら積極的に省エネをする」の2項目(介入前:α=.79、半年後:α=.57、1年後:α=.66)、内発的動機付けは、「省エネをすること自体が楽しい」、「省エネができるところを見つけるのがおもしろい」の2項目(介入前:α=.77、半年後:α=.77、1年後:α=.86)、行動意図は、「無駄な電気は使わないようにしたい」、「冷暖房に電気・ガス・灯油などをできるだけ使わないようにしている」の2項目(介入前:α=.72、半年後:α=.45、1年後:α=.45)、省エネ行動は、「LED照明器具への交換など、できることはすぐにやっている」、「電化製品を使っていないときは、コンセントプラグを抜いている」、「家電を買い換えるかどうかは、機器の価格だけではなく電気代などの光熱費も考え、10年以上使うことをよく考えて検討している」、「冬の暖房は20度程度に設定した」、「断熱シートの利用や、服を一枚多く着る等の比較的容易な取り組みについては、昨冬から始めた」、「お風呂を沸かしたら、追い炊きをせずに家族で続けて入るようにしている」、「夏は、エアコンを使わずに、扇風機や、扇子・うちわの使用、部屋の風通しを良くすることなどで、暑さをしのぐ工夫をする」の7項目(介入前:α=.75、半年後:α=.61、1年後:α=.54)で尋ねた。なお、1回目の信頼性係数は.70以上であったが、2回目以降の信頼性係数が下がっている尺度がある。これは、質問紙への回答を繰り返すことで、個別の項目が意味するところの理解が深まり精緻化された可能性があるためと考えられる。ポイント制度については、不安(「ポイントが減っていくと「なくなったらどうしよう」と不安になる」)とポイント制度の評価(「努力した分だけポイントが残ることはよいことだと思う」)を、それぞれ単独項目で尋ねた。

結果

実際のエネルギー使用データ

まず、プロジェクト参加者の一人当たりCO2排出量と熱量を、世帯人数別・居住形態別にまとめた(Table 1)。世帯人数別では、世帯人数が多いほど一人当たりのCO2排出量ならび熱量が少なかった。居住形態別では、戸建てのほうが集合住宅よりもCO2排出量と熱量が多かった(ただし、床面積当たりにした場合の値は不明)。

Table 1 世帯人数別・居住形態別・熱源構成別の一人当たりCO2排出量と熱量
CO2排出量(kg-CO2/人)熱量(MJ/人)
中央値中央値
平均値平均値
標準偏差標準偏差
世帯人数別
単身世帯(n=6)196.442159.83
246.182697.23
174.911609.27
2人世帯(n=21)202.882377.26
216.602456.61
91.061023.09
3人世帯(n=17)135.651753.51
143.721748.92
59.28663.23
4人世帯(n=14)125.601678.51
119.891480.54
40.05440.92
5人世帯以上(n=9)104.411234.11
103.171219.57
37.87397.83
居住形態別
戸建て(n=49)149.171839.52
172.832029.88
98.83978.17
集合住宅(n=18)115.831336.38
144.851652.43
74.45913.79
熱源構成別
電気のみ(n=11)2552.3821722.40
3093.6126328.62
1610.4513705.93
電気・灯油(n=17)1790.0021271.03
1873.2722959.63
674.278790.10
電気・ガス(n=9)1223.9415940.60
1316.5018243.28
426.047496.87
電気・ガス・灯油・その他(n=30)1550.1120733.73
1839.6423545.79
1008.9513170.22

続いて、熱源構成別(電気のみ、電気・灯油、電気・ガス、電気・ガス・灯油)の一人当たりの年間総CO2排出量と熱量を求めた(Table 1)。その結果、電気のみの家庭が最もCO2排出量が多く、次いで、電気・灯油、電気・ガス・灯油、電気・ガスの順でCO2排出量が少なかった。熱源構成別のCO2排出量の違いを検討するためにKruskal–Wallis検定を行ったところ、有意な効果が見られた(χ2(3)=13.19, p<.01)。同様に、熱量についてもKruskal–Wallis検定を行ったが、有意な効果は見られなかった(χ2(3)=2.19, n.s.)。なお、熱源構成ごとの世帯人数(電気のみ:SD=1.43、電気・灯油:SD=1.20、電気・ガス:SD=1.27、電気・ガス・灯油:SD=1.20)と居住形態(電気のみ:SD=.47、電気・灯油:SD=.44、電気・ガス:SD=.50、電気・ガス・灯油:SD=.45)には、Kruskal–Wallis検定の結果、偏りは見られなかった(世帯人数:χ2(3)=3.00, n.s.、居住形態:χ2(3)=3.00, n.s.)。つまり、世帯人数や居住形態に関係なく、電気のみの世帯が最もCO2を排出していた。

質問紙の分析

本研究で用いた尺度の平均値について、介入前、半年後、1年後で参加者内要因配置の一要因分散分析を行った(Table 2)。その結果、外発的動機付け、内発的動機付けとも有意な変化は見られなかった(Fs<1.01)。これはどの尺度も各測定時に高い得点を示していたためと考えられる。深刻さの認知は有意傾向が見られ、多重比較(Bonferroni法、以下同)の結果、半年後と1年後の間に差が見られ、半年後に得点が下がった。行動意図、省エネ行動については有意な主効果が見られ(行動意図:F(2, 122)=10.51, p<.001、省エネ行動:F(2, 106)=26.80, p<.001)、多重比較の結果、介入前が他の2時点よりも得点が高かった。これは、LED電球への交換など既に対応済みの行動を半年後や1年後には低く評定したためと考えられる。ポイント減少の不安について、介入前に比べて、半年後、1年後では値が下がっていた(F(2, 122)=83.01, p<.001)。ポイント制度の評価は、介入前の値が半年後、1年後よりも低かった(F(2, 124)=7.99, p<.01)。このことは、開始前では損失忌避傾向のために心理的負荷が高いが、実際に始めてみると思ったほど負荷は高くなく、ポイント制度が好意的に受け止められるようになったと解釈できる。

Table 2 尺度平均と標準偏差
介入前(1回目質問紙)半年後(2回目質問紙)1年後(3回目質問紙)
深刻さの認知4.454.324.53
n=64)(0.63)(0.64)(0.53)
外発的動機付け4.104.244.22
n=65)(0.88)(0.67)(0.77)
内発的動機付け3.893.913.91
n=64)(0.77)(0.66)(0.77)
行動意図4.303.944.00
n=62)(0.61)(0.59)(0.62)
省エネ行動4.253.783.92
n=54)(0.47)(0.60)(0.56)
ポイント減少への不安4.352.612.37
n=62)(0.77)(1.16)(1.28)
ポイント制の評価3.704.144.19
n=63)(0.87)(0.84)(0.82)

上段が尺度平均、下段が標準偏差である。

介入前、半年後、1年後の3回実施した質問紙ごとに、深刻さの認知、外発的動機付け、内発的動機付けを独立変数、行動意図を従属変数とした重回帰分析を行った(Table 3)。その結果、内発的動機付けが3回とも有意もしくは有意傾向で行動意図に影響を与えていた。一方、外発的動機付けは3回とも有意な影響は見られなかった。深刻さの認知は、介入前に有意傾向で正の影響が見られたが、半年後、1年後では影響が見られなかった。次に、上記の独立変数に行動意図を独立変数に加え、自己申告の省エネ行動を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、3回とも内発的動機付けと行動意図が一貫して、自己申告の行動に対して正の影響が見られた。また、半年後でのみ外発的動機付けが行動にネガティブな影響を与えていた。つまり、半年後では経済的な利益を気にする人ほど、省エネ行動を行っていないが、1年後では、経済的な影響が消え、面白いや楽しいという内発的動機付けの効果が強くなった。深刻さの認知は有意ではなかった。

Table 3 行動意図と自己申告の省エネ行動を従属変数とした重回帰分析
介入前(1回目質問紙)半年後(2回目質問紙)1年後(3回目質問紙)
DV=行動意図
深刻さの認知.24.11.16
外発的動機付け.13.13.16
内発的動機付け.25.33*.31*
R2.21**.19**.21**
DV=省エネ行動
深刻さの認知.13−.06−.17
外発的動機付け−.01−.30*.05
内発的動機付け.33**.43**.37**
行動意図.51***.41**.37**
R2.59***.35***.39***

***p<.001, **p<.01, *p<.05, p<.10 表中の値は標準化偏回帰係数である。

続いて、介入前から介入実施半年後、介入実施半年後から介入終了後の異なる測定時点での影響過程を交差パネル分析(Cross Lagged Panel Analysis; Kenny, 1975)を用いて検討した(Figure 1)。その結果、半年後の内発的動機付けに対しては、介入前の深刻さの認知(r=.36)、行動意図(r=.39)が影響していた(Table 4)。そして、半年後から1年後では、1年後の内発的動機付けに対して外発的動機付け(r=.33)が影響していた。さらに、1年後の省エネ行動に対して、内発的動機付け(r=.55)と行動意図(r=.46)が影響していた。つまり、介入前の深刻さの認知と行動意図が半年後の内発的動機付けに影響し、半年後の内発的動機付けが1年後の省エネ行動に影響していた。

Figure 1 異なる時点への影響過程についての交差パネル分析結果
Table 4 同時点と異なる時点での尺度間相関
深刻さの認知外発的動機付け内発的動機付け行動意図省エネ行動
深刻さの認知1
外発的動機付け1.16
内発的動機付け1.37**.34**
行動意図1.35**.25*.38**
省エネ行動1.42**.26*.57**.68**
深刻さの認知2
外発的動機付け2−.05
内発的動機付け2.15.47**
行動意図2.14.29*.41**
省エネ行動2.03.03.40**.47**
深刻さの認知3
外発的動機付け3.15
内発的動機付け3.11.43**
行動意図3.22.32**.39**
省エネ行動3−.06.22.52**.47**
深刻さの認知2外発的動機付け2内発的動機付け2行動意図2省エネ行動2
深刻さの認知1.19−.02.36**.25*.27*
外発的動機付け1−.06.39**.20.17.14
内発的動機付け1.07.27*.65**.25.33*
行動意図1.35**.04.39**.41**.30*
省エネ行動1.29*−.08.38**.42**.58**
深刻さの認知3外発的動機付け3内発的動機付け3行動意図3省エネ行動3
深刻さの認知2.58**−.17.01.18.08
外発的動機付け2−.12.39**.33**.28*.16
内発的動機付け2.11.12.68**.32**.55**
行動意図2.17.19.27*.56**.46**
省エネ行動2−.02.05.41**.30*.74**

***p<.001, **p<.01, *p<.05 各変数名の後ろにある数字は時点をさす:1は1回目(プロジェクト開始時)、2は2回目(半年後)、3は3回目(1年後)を意味する。

質問紙による行動と実際のエネルギー使用量の関連およびエネルギー使用量への影響要因

2回目、3回目の質問紙で得られた自己申告の省エネ行動と前半半年、後半半年、1年分の実際のエネルギー使用量(CO2排出量月平均(kg/人)、排出熱量月平均(MJ/人))との関係を調べた(Table 5)。その結果、相関係数は−.20~−.30となっており、自己申告の省エネ行動を行っていると回答した人ほど、実際のエネルギー使用量も少ないという関係が示された。

Table 5 実際のエネルギー使用量と自己申告の行動の関係
CO2排出量月平均(kg/一人)
前半半年後半半年1年
自己申告の省エネ行動半年後−.18−.21−.20
1年後−.27*−.26*−.28*
排出熱量月平均(MJ/一人)
前半半年後半半年1年
自己申告の省エネ行動半年後−.28*−.31*−.30*
1年後−.34**−.31**−.35**

***p<.001, **p<.01, *p<.05

次に、実際のエネルギー使用量に対する影響を調べるために、前半半年、後半半年、1年分のCO2排出量月平均(kg/人)、排出熱量月平均(MJ/人)を従属変数とし、深刻さ認知、外発的動機付け、内発的動機付け、行動意図を独立変数とした強制投入による重回帰分析を行った(Table 6)。その際、前半半年分のエネルギー使用量は、2回目の質問紙と組み合わせて、後半半年と1年分のエネルギー使用量は、3回目の質問紙と組み合わせて分析を行った。その結果、行動意図は後半半年と1年分の実際のエネルギー使用量に有意傾向もしくは有意に影響していた。内発的動機付けは1年分の実際のエネルギー使用量を従属変数にした場合、行動意図よりも強く影響していた。前半半年と後半半年では、熱量のみに有意傾向で影響していた。深刻さの認知と外発的動機付けは、実際のエネルギー使用量に対する影響は見られなかった。

Table 6 実際のエネルギー使用量を従属変数とした重回帰分析
CO2排出量月平均(kg/一人)排出熱量月平均(MJ/一人)
前半半年後半半年1年前半半年後半半年1年
深刻さの認知−.01.09.05−.06.10.07
外発的動機付け−.10.08.10−.11.22.22
内発的動機付け−.20−.23−.30*−.29−.24−.34*
行動意図−.17−.33*−.23−.16−.37**−.25
R2.14*.19*.16*.21**.21**.18*

***p<.001, **p<.01, *p<.05, p<.10 表中の値は標準化偏回帰係数である。

考察

ポイント制度が外発的動機付けを喚起させる誘因としての機能があったと考えられるが、一連の分析結果からは外発的動機付けの二つの行動指標への影響が見られなかった。一方で、内発的動機付けは長期間にわたる持続的な省エネ行動と正の関連があることが示された。交差パネル分析の結果から、外発的動機付けは内発的動機付けに影響する可能性が示された。以上より、外発的動機付けにより短期的に変化した行動が、内発的動機付けの高まりとともに定着する過程を想定した仮説を提出することができる。

内発的動機付けは、行動を実践することによって高められるとも考えられる。つまり、行動コミットメント(Keisler, 1971)や認知的不協和(Festinger, 1957)による説明が可能である。しかし、交差パネル分析の結果は、行動から内発的動機付けへの影響は有意でなかった。また、なじみのないポイント減少制度を面白いと思い、そこから効果的な省エネ行動を見つけることが面白いと変化した可能性もある。さらに、ポイント制度の不安低減や好意的な評価は介入前から半年後に変化したのに対し、交差パネル分析結果では外発的動機付けから内発的動機付けへの影響が半年後から1年後に見られた。この結果に対しては、行動への価値が外発的から内発的に変わる段階が時間差をおいて現れる(Deci & Ryan, 1985)という説明が可能かもしれない。つまり、ポイント減算方式という外発的動機付けには早い段階でなじむが、外発的動機付けが内発的動機付けに変わるのには時間を要するという可能性である。この点については、本研究で提示した仮説とともに、今後さらに検討していく必要がある。さらに、重回帰分析の結果から半年後の時点で、外発的動機付けから自己申告の行動へ負の影響が見られたことから、アンダーマイニング効果が起こったとも解釈できる。ただし、これだけで省エネ行動においてもアンダーマイニング効果が起きると結論づけることは難しく、今後さらなる検討が必要である。

今回の参加者は公募によって集められており、はじめから尺度平均値が一貫して高かったことから、もともと省エネに対して高い意識を有していたと考えられる。そのため、外発的動機付けの効果が弱かったと考えられる。また、本プロジェクトは単年度事業だったため、事前のベースレート測定や事後の追跡調査ができなかった。そのため、厳密には介入の効果を事前事後と比較して検証できない。さらに、本プロジェクトではポイント減少制度を用いたが、加算方式のポイント制度やポイントのない統制条件を設けられなかったため、ポイント減少制度自体の効果は検討できなかった。減算方式・加算方式の効果は、プロスペクト理論(Kahneman & Tversky, 1979)から考えると、減算のほうが加算方式よりも効果が高いことが予想される。Kitamura, Takamatsu, Ishii, & Shimoda (2014)は、CO2排出にロスフレームを対応させて制度を提案している。本研究では、減算方式を用いても内発的動機付けほどの効果が見られなかったことから、加算方式を導入した場合にはより効果が弱いと予想される。ただし、関心の低い参加者には効果が見られるかもしれない。以上の点について、これらの要因を操作した実験によって確かめる必要がある。ただし、長期的な行動追跡のためには、短期的な実験室実験ではなく、長期的な行動追跡が可能な形で社会実験を行うべきであろう。

本研究では、サンプルサイズが小さかったため、構造方程式モデルによる因果や要因連関の分析をすることができなかった。より詳細に因果の方向や要因間の影響を調べるためには、十分な数の代表性の高いサンプルを集めた調査を行う必要がある。

このようなプロジェクトの制約による研究上の課題もあるが、本研究が示唆することもある。実用的な観点からは、実際のエネルギー使用量を用いた分析結果より、電気だけでなく総合的なエネルギーミックスの観点から捉える必要性を指摘できる。冬場のエネルギー使用が多くなる北海道において、暖を取るための熱源としてガスや灯油は重要な位置を占める。家庭での省エネ行動の対象を電気だけに限定するのは、問題の全体像を理解する上で重要な点を見落とす恐れがある。寒冷地でなくても、電気の生産源として何を用いるべきかというベストミックスの議論が盛んであるが、電気以外のエネルギーも総合的に踏まえたエネルギーミックスの考えは重要である。総合的なエネルギー資源の利用を踏まえ、効果的な家庭での省エネ行動とは何かについて検討する材料の一端を本研究は示した。

また、実際のエネルギー使用量は自己申告の省エネ行動との間に弱い相関関係が確認された。家庭内でなされる数多くの行動から代表的な項目を抽出することについて、その適切性について論じた環境配慮行動研究は見当たらず、本研究は、ある程度の妥当性を示したはじめての研究かもしれない。しかも、両行動変数の規定因が一貫しており、行動意図と内発的動機付けが行動に重要な関連があることの頑健さが示された。

環境配慮行動研究で多く用いられているモデルでは内発的動機付けはあまり取り込まれてこなかった。しかし、長期的に行動を持続させるためには、本研究で示したような楽しむといったいわば遊びのような要素もモデルに取り込む意義はあるだろう。Geller(2002)は、環境配慮行動研究に、内発的動機付けを含む自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)の観点もモデルに加える意義があると論じているが、実証的な研究は行われていない。本研究では、事例として内発的動機付けの重要性を示したにとどまるが、今後はこれらの要素を加えることで環境配慮行動モデルの発展にもつながっていくだろう。

脚注
1)  本研究は、新しい公共の場づくりのためのモデル事業の一環として、旭川市と公益財団法人北海道環境財団が、特定非営利活動法人旭川NPOサポートセンター・株式会社ジェーシービー・北海道大学環境社会心理学研究室と協働のもと実施したものです。長期間にわたりプロジェクトに参加し、貴重なご意見をお寄せいただいた旭川市民に感謝いたします。

2)  診断員が専用のソフトを用いて各家庭の排出状況を把握し、その状況に応じた家庭での省エネについての提案・助言を行うもの。

3)  プロジェクト開始時に付与されたポイントについて、単身世帯では4500ポイント、2人世帯では8200ポイント、3人世帯では10700ポイント、4人世帯では12100ポイント、5人以上世帯では13700ポイントであった。過去のエネルギー使用量を参考に、最終的に最低でも2000ポイントは残るように設定した。交換可能な商品について、残存ポイントが少ない場合でも無添加の石けんギフトセットや電気ケトルなどと交換でき、残存ポイントが多いときには、金券やコーヒーメーカー、体重体組成計などと交換することができた。

References
 
© 2016 日本社会心理学会
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