社会心理学研究
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原著論文
手続き的公正要因としての説明責任と鄭重さに対する中心的・周辺的認知処理の影響:裁判での弁護活動を模したコミュニケーション実験
今在 慶一朗
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2016 年 31 巻 3 号 p. 184-192

詳細

問題

手続き的公正の対人的要因

決定を受ける当事者は、手続きが公正であると感じることによって、それを受容しやすくなったり、集団に対して協調的な態度を形成したりすることが確認されてきたが、その心理的効果に関する最も初期の説明としてThibaut & Walker (1975)による研究がある。彼らは模擬裁判を通じて、糾問主義(inquisitorial)と当事者主義(adversary)という二つの手続きを比較し2)、当事者が糾問主義よりも相対的に自由に関与しやすい当事者主義手続きに満足感や公正感を抱きやすいことを確認した。その後、Thibaut & Walker (1975)の知見は、手続きの構造的側面に対する関心を集めることとなり、さまざまな場面における手続きに対する公正感の構造的要因を特定するための検証作業が行われるようになったが(e.g., Barling & Phillips, 1992; Folger & Konovsky, 1989; Greenberg, 1986; Lind & Tyler, 1988; Makkai & Braithwaite, 1996; Moorman, 1991; Shapiro & Brett, 1993; Sugawara & Huo, 1994; Takenishi & Takenishi, 1990)、Bies & Moag (1986)などがその重要性を指摘して以来、手続きの運用を任された権威者による対人的要因にも研究の関心が向けられるようになった(e.g., Barling & Phillips, 1992; Moorman, 1991; Shapiro & Brett, 1993; Tyler & Lind, 1992)。

対人的要因が公正感や決定に対する受容的態度を促進する理由についてLind & Tyler (1988)Tyler, Boeckmann, Smith, & Huo (1997)は、人々は手続きに関与する権威者との接触を通じて所属する集団、社会から自己がどのようにとらえられているかを知るため、彼らから適切な対応を受けることにより集団成員、社会成員としての同一性を維持、高揚させ、その結果、公正さを感じ、決定を受容し、集団や社会に対する親和的な態度を形成しやすくなるとしている。しかし、対人的要因が社会的同一性の確認指標として機能することによってのみ手続き的公正感やさまざまな態度変容を生じさせると考えることについては疑問もある。例えば、Tyler, Degoey, & Smith (1996)は、家族、職場、大学、国家の各場面について、対人的要因が社会的同一性の確認指標であることを検討しており、その分析結果を見ると、確かに対人的要因が社会的同一性を構成する集団に対する誇り(group pride)と集団内で受ける尊重(respect within group)を媒介することが示されているものの、同時に、対人的要因にはそれら社会的同一性関連の変数を媒介することなく集団に対する態度を直接変容させる効果があることも確認されている。

また、対人的要因がどのような成分によって構成されるのかについても、先行研究によって見解が異なる。例えば、Moorman (1991)のように取り上げた産業組織場面に沿って具体的な評価ポイントを変数として指摘した研究もあれば、Tyler & Lind (1992)のように、場面の違いを超えた抽象的な変数を強調する研究もあり、その種類は多様である。しかしながら、近年の研究例では、対人的要因には共通して二種類の内容が含まれることが示唆されている。例えば、Ambrose & Schminke (2001)は説明(procedural explanations)と対人的感受性(interpersonal sensitivity)を、Colquitt, Greenberg, & Scott (2005)は情報的公正(informational justice: 正当化の根拠(justification)および真実性(truthfulness))と対人的公正(interpersonal justice: 尊重(respect)および礼儀正さ(propriety))を、Tyler & Blader (2003)は意思決定(decision making)と待遇(treatment)を挙げているが、これらはいずれも対人的要因には二つの成分があり、ひとつは手続きに不正がないことを示す説明責任であり、またひとつは権威者から受ける鄭重さであることを示唆している。

これらのうち、鄭重さは、従来から指摘されてきた社会的同一性の促進効果をもたらす対人的要因に相当すると考えられる。他方、田中(1994)によれば、法理学的には手続き的正義3)は、「当事者の対等化と公正な機会の保障」「第三者の公平性・中立性」「理由付けられた議論と決定」により構成され、説明責任は、これらのうちの理由付けられた議論と決定に相当すると考えられる。こうした知見に従えば、対人的要因には社会的同一性をもたらす側面だけでなく、より理念的に公正の概念に適合的な説明責任という側面があると考えられる。

対人的要因の操作可能性

手続き的公正の対人的要因に関する研究は、手続きを操作できる構造的要因に関する研究と比較して、要因と効果の因果関係が曖昧になりやすい傾向があったように思われる。構造的要因を特定する研究では、模擬裁判などの集団意思決定場面を設定して、異なる手続きを実験条件とし、その効果の有無について検討されることが多かった。例えば、先に述べたThibaut & Walker (1975)による実験では、裁判手続きの制度上の違いを実験条件として操作しているため、その結果条件間で生じた差が手続きの違いによってもたらされたことは明白である。これに対し、対人的要因に関する研究の多くは質問紙調査によってすすめられ、権威者の印象を要因と仮定し、それによって当事者の公正感や受容的態度が変化することを確認しようとしたものが多い。このため、手続きの構造的な違いを事前の実験条件として設定していた実験とは異なり、質問紙を用いた研究の場合、たとえ統計的に関係が確認されたとしても、質問紙では一度に測定された変数間に時間的な前後関係が保障されていないことから、因果関係が反対である可能性や、もしくはそれらが同時に生じていた可能性があることを否定しきれない。また、対人的要因はしばしば「信頼性」「丁寧さ」といった抽象的な印象に対する評価として測定されるが、こうした質問の仕方では具体的に権威者のどのような行動や特徴がそうした要因を機能させるのか明らかになりにくい。こうした理由から、対人的要因については操作可能性が十分に検討されてきたとはいいがたいと考えられる。

本研究の目的と仮説

従来の手続き的公正に関する研究では、民事裁判が取り上げられることが多かったが、本研究では刑事裁判、特に裁判員裁判を模した実験を通して対人的要因の機能について検討する。

刑事罰が下される際、被告人は、事実認定や量刑で不服があれば控訴することができるものの、事実に基づき、法律に定められた範囲内で与えられた刑罰については、彼らの心情が考慮されることはない。しかしながら、死刑を除けば、有罪とされた被告人がいずれは社会復帰することを考慮すれば、彼らに刑罰が不当であると感じさせることは、更正意欲を低下させたり、司法制度に対する不信感から遵法的態度を抑制したりすることにもつながると考えられる。このため、刑罰を強制される立場の被告人についても判決を心理的に受容することが必要であると考えられる。

また、必ずしも判例にとらわれない裁判員制度が導入された今日、被告人に判決を納得させることは以前よりも難しくなった可能性がある。先行研究では、手続き的公正感を促進するとされる権威者の対人的要因は、制度上の正当性と法律に関する専門性を兼ね備えた裁判官によってもたらされることが確認されてきた。これに対して、一般市民から選出された裁判員の場合、その役割は一時的であり、法律に関する専門知識も十分ではない一方で、量刑判断を含めた判決を合議する権限が付与されている。こうしたことには、裁判に市民感覚を取り入れるという積極的な意義がある反面、それが素人による不適切なものであるという疑念を抱かせる余地があることも意味している。実際、裁判官のみによる裁判に比較して、裁判員裁判では、殺人未遂、傷害致死、強姦致傷、強制わいせつ致傷および強盗致傷などについて重い刑が下されやすい傾向があり、また、判決では求刑通りか求刑よりも重い刑が下されることも多いことから(最高裁判所事務総局,2012)、被告人の中には、裁判員が不適切に重い刑を下しやすいのではないかという不信感を抱くケースがしばしば存在すると考えられる。

こうした高度な専門性を持たない市民に、判決に対する権限を付与する裁判員制度の下では、対人的要因は具体的にどのような要素によってもたらされるであろうか。先に述べたように、近年の先行研究によれば、手続き的公正感の対人的要因には理念的な正義の概念と一致する説明責任と、必ずしも理念的ではないものの実際には心理的な効果をもたらす鄭重さがあると考えられる。そこで本研究では、説明責任と鄭重さが手続き的公正感の対人的要因として機能すると予測するが、さらに、それらの要因の操作可能性についても検討するために、客観的な手段で実験操作を行う。

第一に、説明責任については、説明する情報量を操作する。意思決定を行う人物が決定を下した際の理由について詳しい説明をするほど、手続きに対して公正を感じやすくなると予測される。

仮説1 裁判員の説明量が多いほど弁護人の手続き的公正感が促進される。

第二に、鄭重さについては、意思決定を行う人物の容姿や表情から感じられてしまうような個人差の大きなものではなく、一般的で明確に操作可能なものとして言語上の表現の違い、すなわち平語と敬語を操作した。

仮説2 裁判員が平語を使用した場合よりも敬語を使用した場合に弁護人の手続き的公正感が促進される。

実験1

方法

本実験では、裁判員が参加する刑事裁判を簡略にした意思決定場面を設定し、実験参加者は被告人を弁護する実験協力者として、裁判員役の実験参加者に対し、被告人の量刑が軽くなるよう弁護する指示をした4)。その際、実際の裁判は複数の裁判員と職業裁判官の合議であるが、本実験は法律の素人である裁判員の判断について研究することを目的としており、実験でのやりとりは本物の裁判とは異なり、裁判員役の参加者が1名で量刑を判断するので、それをできるだけ軽くするよう説得することを求めた。また、当該事件は過去に懲役10年の判決が下された実際の事件であり、裁判員制度が開始される前の事件であるため、今回の実験では素人が妥当と思う量刑をあらためて判断してもらうことになっていると伝えられた。

なお、後述するように、実際には弁護をする実験参加者が真の実験参加者であり、裁判員役の参加者は存在しない。これらの実験上のデセプションについては、実験終了後、実験の目的とともに参加者に伝えられた。さらに、本実験は、実験参加者に対する謝礼はなく、心理学の実験に参加することに同意したボランティアを募って実施された。

実験参加者

学生44名(女性30名、男性14名)、平均年齢20.07歳(SD=.95)。

手続き

はじめに、参加者は、実際にあった事件のドキュメンタリー5)の一部を視聴し、裁判員の役割を担当する別の参加者がおり、その人物が量刑の判断をするので、できるだけ刑が軽くなるよう、被告人を弁護するよう求められた。参加者は、パーソナルコンピュータが1台設置された個室ブースに入り、パーソナルコンピュータの画面でドキュメンタリーを5分程度視聴した。

ドキュメンタリー視聴後、参加者は継続して、パーソナルコンピュータを介して、隣のブースにいると説明された裁判員と量刑についてチャット形式で3回発言した。参加者の発言は、裁判員役の発言が表示されるたびに、それに対する回答を行うという順番ですすめられた。裁判員の発言は、実際にはあらかじめプログラムされたもので、その決定についても一律に懲役10年が妥当であるとされた6)。参加者は、懲役10年という決定を示された後、手続きや結果、裁判員について評定を行った。

実験計画

実験は、説明責任要因(詳細/簡略)×鄭重要因(敬語/平語)の2要因4水準であり、裁判員の発言を通して操作が行われた。実験参加者は各条件について11名であった。説明責任要因の詳細条件では裁判員が懲役10年を妥当だと思う理由が詳しく述べられ、最後に箇条書きで整理された理由が示された。簡略条件では裁判員の判断の理由は述べられず、結論だけが述べられるだけであった。鄭重要因については裁判員からの発言が、敬語であるか学生の日常会話で使用するような表現であるかを操作した。4つの各条件の提示内容はTable 1のとおりである。参加者は、裁判員からこれらの発言が示されるたびに発言を求められたが、裁判員の発言内容は統制されており、参加者の発言内容がどのようなものであっても条件ごとに同様の発言が行われた。

Table 1 裁判員からの発言
敬語・詳細条件
(1回目)
「こんにちは。こちらには犯人と事件、過去の判例などが書かれたメモがあります。これを見るとやはり懲役10年で構わないと思います」
(2回目)
「確かに少しかわいそうな気もしますが、だからと言って何度も犯罪を繰り返していいということにはならないと思います。それに、同じように不幸な人がみんな放火をするわけではないですよね? やはりこの人自身が悪いと思います」
(3回目)
「かわいそうな気もするけれど、懲役10年で仕方ないと思います。その理由は、1. この犯人に障害があるとしても、大半の障害者は放火などしない、2. また放火する可能性が高いので、できるだけ長い間、刑務所に隔離しておいた方がよい、3. 刑務所の中で時間をかけて反省させることができる、4. 他の犯罪者と刑の重さを公平にするといったことです」
平語・詳細条件
(1回目)
「こっちには犯人と事件、過去の判例などが書かれたメモがあるけど、これを見るとやっぱり懲役10年でいいんじゃない?」
(2回目)
「確かに少しかわいそうだけど、だからって何度も犯罪を繰り返していいってわけないし、それに、同じように不幸な人がみんな放火をするわけではないし、やっぱりこの人自身が悪いんだよ」
(3回目)
「ちょっとかわいそうだけど、懲役10年で仕方ないよ、1. この犯人に障害があるとしても、大半の障害者は放火なんてしない、2. また放火するかもしれないから、できるだけ長い間、刑務所に隔離しておいた方がいい、3. 刑務所の中で時間をかけて反省させる、4. 他の犯罪者と刑の重さを公平にした方がいいと思った」
敬語・簡略条件
(1回目)
「こんにちは。やはり懲役10年で構わないと思います」
(2回目)
「やはりこの人自身が悪いと思います」
(3回目)
「かわいそうな気もするけれど、懲役10年で仕方ないと思います」
平語・簡略条件
(1回目)
「懲役10年でいいんじゃない?」
(2回目)
「やっぱりこの人自身が悪いんだよ」
(3回目)
「ちょっとかわいそうだけど、懲役10年で仕方ないよ」

なお、分析に使用した質問項目はTable 2に示したものであり、すべて6件法で「全然そう思わない」(1)~「非常にそう思う」(6)で回答を求め、分析ではいずれも平均値を使用した。ここでは、手続き的公正感に加え、最終的、全体的な態度の指標として結果に対する公正感についても測定した。純粋手続き的正義の考え方に従えば、結果の公正さの如何は手続きの公正さに規定されるが(Rawls, 1971)、人々はそうした理念に基づいて、手続きの質が手続きに対する公正感だけなく結果を正当化すると予測した。質問項目については民事訴訟利用者調査研究会(2012)による調査項目を参考としたが、本研究の主たる関心の対象である手続き的公正感を直接問う項目は「今回の裁判では、結果はともあれ、裁判の進み方は公正・公平だったと思いますか」だけであったため、逆転項目や、理念的な手続き的正義の観点(田中,1994)から権威者による恣意専断の排除に関する質問を加えた。

Table 2 質問項目
手続き的公正(実験1 α=.63/実験2 α=.64)
結論はともかく、きちんと話し合うことができた。
結論はともかく、話の進め方はアンフェア(不公平)だった。(逆転項目)
相手は適切な結論を導こうとしていた。
相手の考えは偏っていた。(逆転項目)
結果の公正(実験1 r=.68/実験2 r=.63)
相手が出した結論には納得した。
相手が出した結論は公正だと思う。

結果

操作チェック

説明責任要因については「相手が述べた説明の内容はわかりやすかった」と思うか、また、鄭重要因については「相手は丁寧に応えていた」と思うかたずね(6件法)、これらについて二要因分散分析を使って検討を行った。説明責任要因についても(詳細条件4.23、簡略条件2.27、F(1, 40)=26.04, p<.01)、鄭重要因についても(敬語条件3.55、平語条件2.14、F(1, 42)=14.47, p<.01)、操作の効果が確認された。ただし、いずれの交互作用も確認されなかったものの、それぞれ想定したものとは異なる要因による効果について有意な傾向があることも確認された(「わかりやすさ」に対する鄭重要因の効果:F(1, 40)=3.17, p=.08、「丁寧に応えていた」に対する説明責任要因の効果:F(1, 40)=3.39, p=.07)。

手続き的公正感と結果の公正感

説明責任要因と鄭重要因を独立変数とし、手続き的公正感と結果の公正感を従属変数とする二要因分散分析を行った。手続き的公正感については、Figure 1に示したように、鄭重要因の主効果(F(1, 40)=6.96, p<.05)が確認され、敬語条件の得点が平語条件の得点よりも高いことが示されたが、説明責任要因の主効果と二つの要因の交互作用は確認されなかった。また、結果の公正感については、Figure 2について示したように、鄭重要因の主効果について、敬語条件の得点が平語条件の得点よりも高い傾向にあることが示された(F(1, 40)=3.34, p<.10)。なお、従属変数である手続き的公正感と結果の公正感のピアソンの積率相関係数を算出したところ、両者には中程度の相関関係(r=.56, p<.01)があることが確認された。

Figure 1 手続き的公正感
Figure 2 結果の公正感

考察

まず、操作チェックでは、実験操作に成功していることが一応は確認されたものの、説明責任要因の操作と鄭重要因の操作がともに、他方に想定した効果をもたらす傾向もあることが確認された。説明責任について「わかりやすかった」、鄭重さについて「丁寧だった」といった表現を用いたことが適当でなかった可能性もあると考えられるが、調査研究でも対人的要因が単一のものしか確認されないことがしばしばあることから(e.g., Tyler, Degoey, & Smith, 1996)、二つの変数の操作は客観的に可能であっても参加者にとってこれら二つを区別して知覚することはそれほど容易ではない可能性もあると考えられる。

次に、分析の結果から、敬語の操作を通して確認された鄭重要因に手続き的公正感を促す効果があることが確認されたことから仮説2は支持された。その一方で、理念的には手続き的公正の下位概念としてより重要であると考えられる詳細な説明を通じた効果は確認されず、仮説1は支持されなかった。操作チェックでは簡略条件に割り当てられた参加者と比較して、詳細条件に割り当てられた参加者の方が裁判員の発言に対して理解を示していたことから、当事者にとって説明責任自体は果たされていたと推測される。それにも関わらず、参加者が敬語によってのみ手続き的公正感を強めたということは、敬語による表面的な印象が手続きに対する公正感を強く規定していることを示唆している。

結果の公正感についても敬語による促進効果があることが示唆されたが、その効果は統計的に有意であるとまではいえなかった。ただし、相関分析の結果から、結果の公正感は手続き的公正感と連動して変化すると考えられることから、敬語による鄭重要因から手続き的公正感を通して間接的に影響を受けると考えられる。

ここでは鄭重さの効果が確認された一方で、説明責任の効果が確認されなかったことから、説明責任の効果よりも鄭重さの効果が頑健であることがうかがわれる。しかしながら、すでに述べたように、説明責任に関連した変数によって手続き的公正感が促進されることはいくつかの先行研究で確認されていることから、本実験には説明責任の効果を抑制するような状況があったとも推測される。そこで、以下では説明責任による効果が生じる際に必要となる条件について検討する。

調整変数としての認知ルート

理念的な観点からすれば、必ずしも手続きが公正であるための要件とはいえない鄭重さの効果が確認された一方で、本来その要件とされる説明責任の効果が確認されなかったことは、参加者が手続きの質を熟慮した上で評価することなく、コミュニケーションの表現スタイルのような周辺的な事柄を手がかりとしてその評価を行っていた可能性があると考えられる。

仮にこうした理由で、裁判員の判断の根拠に対する関心が薄れていたとすれば、説得研究(Chaiken, 1980; Petty & Cacioppo, 1986)で確認されたような簡便な認知処理による抑制効果が働いていた可能性がある。それらによれば、強く自我関与している、あるいは認知的欲求が大きいといった、問題に対して高い関心を持つ人々は説得される内容を精査するが、関心が低い人々については、説得者の好感度のような認知的負荷の少ない簡便なヒューリスティックスで内容を検討するとされ、Petty & Cacioppo (1986)は、前者の過程を中心ルート、後者の過程を周辺ルートと呼んでいる。このような説得における認知処理の違いを、先の実験1についてあてはめて考えると、教示において裁判員の判断について研究すると伝えられたこともあり、弁護人役の参加者の関心は小さく、周辺ルートによる処理を行い、裁判員が示した判断の根拠については、理解はしてもそれが適切であるかどうかを十分吟味するようなことがなかったと考えられる。

本研究では、認知的中心ルートの活性化を試みた上で、再度、手続き的公正感に対する説明責任の効果について検証する。説得研究に従えば、当事者が周辺ルートによる認知処理を行った場合には理念的には公正の要件とはいえない敬語による鄭重要因が機能しやすくなると考えられる。また、当事者が中心ルートによる認知処理を行った場合には裁判員の判断の根拠を精査するようになり、説明責任要因が機能しやすくなると考えられる。そこで、次の実験では、中心ルートを活性化するために、なかば強制的に実験内容に注意を向けさせる状況を導入することによって、説明責任要因が手続き的公正感を促進すると予測した。

仮説3 判断根拠に注意が向けられた状況では、裁判員の説明量が多いほど弁護人の手続き的公正感が促進される。

実験2

方法

実験1と同じ要領で実験を行ったが、裁判員が示す説明に注意を向けさせる作業を加えた。DeDreuらは、Petty & Cacioppo (1986)の主張をふまえ、認識的動機(epistemic motivation)を促す目的で、参加者に実験中にメモを取るよう指示している(De Dreu, Beersma, Stroebe, & Euwema, 2006; De Dreu, Koole, & Steinel, 2000)。そこでは、模擬交渉の実験参加者に実験中の様子について後で話をするので、その際に必要な事柄について実験中、メモを取るように依頼した。実験2では、このDe Dreuらが用いた方法と同様に、参加者に白紙と鉛筆を渡し、必要に応じてメモを取りながら発言するよう教示した。

参加者

実験1と同じ大学に所属する別の大学生46名(女性29名、男性17名)、平均年齢19.35歳(SD=1.22)。

実験計画

実験1同様、説明責任要因(詳細/簡略)×鄭重要因(敬語/平語)の2要因4水準である。実験参加者は平語説明なし条件では13名、その他の条件について11名であった。

結果

操作チェック

説明責任要因については操作の効果が確認されたが(詳細条件3.96、簡略条件2.15, F(1, 42)=27.28, p<.01)、鄭重要因については確認されなかった(敬語条件2.91、平語条件2.49, F(1, 42)=1.85, ns)。いずれの交互作用も確認されなかったが、「丁寧に応えていた」に対する説明責任要因の効果も、F値の値が相対的には低かったものの、有意とされた(F(1, 42)=7.94, p=.01)。

また、中心ルートが活性化されたことを確認する参考指標として、参加者の実験時の弁護に際して入力した文字数を算出したところ、メモを取る作業がなかった実験1の参加者の平均が578.43文字であったのに対して、作業があった実験2の参加者の平均は626.29文字であった。

手続き的公正感と結果の公正感

説明責任要因と鄭重要因を独立変数とし、手続き的公正感と結果の公正感を従属変数とする二要因分散分析を行った。手続き的公正感については、Figure 3に示したように、説明責任要因の主効果(F(1, 42)=6.96, p<.05)が確認され、詳細条件の得点が簡略条件の得点よりも高いことが示されたが、鄭重要因の主効果と二つの要因の交互作用は確認されなかった。また、結果の公正感については、Figure 4に示したように、主効果も交互作用も確認されなかったが、手続き的公正感と結果の公正感のピアソンの積率相関係数を算出したところ、両者には中程度の相関関係(r=.59, p<.01)があることが確認された。

Figure 3 メモ作業下での手続き的公正感
Figure 4 メモ作業下での結果の公正感

考察

まず、鄭重要因の操作チェックの結果、敬語条件と平語条件に差が見られなかったことから、本実験の参加者は鄭重要因の影響を受けなかったといえる。このことは、要因操作に失敗したともいえるが、判断根拠に注意を向けさせた結果、参加者の認知処理が中心ルートを通じて行われるようになったために、周辺ルートでの処理と考えられる敬語による鄭重さが処理されなくなってしまったと考えられる。他方、説明責任要因の操作チェックの結果から、発言が詳細であるほど、裁判員の発言が理解されやすくなることが確認された。

次に、手続き的公正感を従属変数とする分散分析の結果を見ると、説明責任要因の主効果が確認され、詳細な説明が手続き的公正を感じやすくさせることが示された。このことから、参加者が裁判員の判断根拠に注意を向けた状況においては、説明責任要因によって手続き的公正感が促進されるとした仮説3は支持されたといえる。

なお、結果の公正については、説明責任要因だけでなく、鄭重要因についても直接の促進効果は確認されなかった。鄭重要因は実験1において有意な傾向差をもたらしたが、ここでは同様の効果が確認されなかったことから、結果の公正感に対する効果は基本的に乏しいと考えられる。その上で、やはり手続き的公正との間に中程度の相関関係が確認されたことから、結果の公正は手続き的公正を通じて促進されることが示唆された。

総合考察

かつての構造的要因に関する研究では、手続きを客観的に操作した上で効果の差を明らかにする実験的手法が用いられていたが、近年の対人的要因を扱った研究は質問紙による調査研究を通して行われてきた。このため、問題がすべて終了した後に、要因とされる権威者の対人評価と、その効果とされる手続き的公正感や態度の変容などが、同時に測定されており、変数間の関係について、疑似相関や逆の因果関係があることを否定しきれなかった。本研究では、そうした従来の研究における測定上の限界を考慮し、鄭重さを敬語の使用によって、また説明責任を判断根拠に関する情報量によって客観的に操作した実験による検討を行った。実験1では鄭重さの効果が確認されたものの、説明責任による効果は確認されなかった。説明責任の効果が確認されず、鄭重さの効果のみが確認されたことについては、認知処理が行われる過程が周辺ルートであったために、判断内容を精査するための情報が必要とされず、表面的に人当たりの良い印象を与える敬語の使用の影響が大きくなったと推測された。そこで、参加者の説明内容に対する関心を強める作業を付加して実験を行ったところ、説明責任要因の効果のみが確認された。

これらの結果から、認知処理上の周辺ルートが活性化された当事者は鄭重要因によって、また、中心ルートが活性化された当事者は説明責任要因によって手続き的公正感を強めやすくなることが示唆された。このことは、従来、手続き的公正感の対人要因については、いくつもの種類が存在するとされてきたが、今回の分析結果から、それらは常に並列して効果を発生させるとは限らず、その効果の有無や強弱は状況によって変化しうることを示していると考えられる。

実験2では、相手の発言をメモさせるという方法を用いたが、説得研究によればルートの代表的なスイッチは当事者の自我関与、認知的欲求、責任、そして情報を吟味するための注意の集中、繰り返し、知識、理解であるとされている(Petty & Cacioppo, 1986)。現実の刑事裁判は、被告人の一生を左右するほどの影響があることから、被告人は一般的に自我関与や認知的欲求を強めていると考えられる。こうしたことから、現実の当事者、弁護人などは、特に何らかの操作をされるまでもなく、実験2で見られたのと同様、敬語のような周辺的手がかりよりも説明が尽くされることによって手続き的公正感が促進され、さらに間接的に判決に対する結果の公正感が強められると推測される。これまで、対人的要因は、専ら社会的同一性の維持、高揚を通じて手続き的公正感や決定の受容を促進すると考えられてきたが、刑事裁判のように利害が非常に大きな決定においては、対人的要因の別の側面、すなわち、説明に対する妥当性を評価するような高次の認知的処理が手続き的公正感や決定の受容に影響を与えやすいと考えられる。

加えて、こうした対人的要因が持つ二つの側面は、従来行われてきた質問紙調査のように、権威者に対する印象を事後的に回答者にたずねても、それを弁別することが困難であったため確認することが難しかったと考えられる。操作チェックで説明が丁寧さを、敬語がわかりやすさを感じさせることが示されたことから、事後には説明と敬語という全く性質の異なる刺激が結局は漠然とした単一の印象に収斂してしまっている可能性もあることが示唆された。

脚注
1)  本研究は、平成23年度科学研究費補助金(基盤研究(C))「決定手続きにおける権威者に対する印象の形成過程(23530809)」による助成を受けた。

2)  Thibaut & Walker (1975)は、裁判官が主体的に裁判を進行し、当事者がこれに応ずる形態の裁判を糾問主義(inquisitorial)、反対に、当事者同士が比較的自由に主張をし合い、それを受けて裁判官が最終的な判断を下す形態の裁判を当事者主義(adversary)と呼んでいる。

3)  本研究では、先行研究に倣い、justiceとfairnessを区別しない(Lind & Tyler, 1988)。ただし、「純粋手続き的正義」のような他領域で知られた述語については一般的な訳語を用いている。

4)  参加者の役割は、現実の裁判では「当事者」ではなく「弁護人」である。参加者を被告人の立場にしなかった理由は、参加者に自らを犯罪者であると想像させることが難しいと考えられたためである。こうした理由から、参加者は弁護人を担当することになったが、本実験の参加者は実質的に決定を受ける立場であることから、当事者という表現を用いている。

5)  NHK「福祉ネットワーク:刑務所に戻りたかった—罪を犯した知的障碍者の社会復帰—」2008年8月19日放送。番組では身元引受人のいない知的障碍者が刑期を終えて刑務所を出所しても、行くあてもないまま生活に困ってしまい、罪を犯してしまう様子が報告されており、福祉の対象となりにくい障碍者に対する制度の問題点を指摘し、そうした問題に取り組むNPOの活動を紹介している。

6)  実験終了後、相手の発言はあらかじめプログラムされた内容であったことを伝えたところ、「隣のブースが静かだとは思った」といった発言はあったものの、相手が存在しないと気がついた参加者は確認されなかった。

References
 
© 2016 日本社会心理学会
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