Japanese Journal of Social Psychology
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2022 Volume 38 Issue 1 Pages 16

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「本気で仲直りに取り組んでみてください」と締めくくられる本書の提案に、素直に「はい」と言えるほど引き込まれた。冒頭では夏目漱石の『坊っちゃん』とシェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』の話を交え、仲直りの例が紹介される。国語の教科書や文化祭の劇を思い出し、多くの人が学生時代を懐かしむだろう。評者も学生時代にタイムスリップし、「昔はケンカをしてもすぐ仲直りできたな、どうしてたっけ?」と思い返すと、仲直りの方法を一層知りたくなってきた。しかし、その期待を裏切るように「この本はどのようにしたら仲直りできるのかについてのハウツー本ではありません」と説明される。Amazonでタイトル買いをした読者(評者を含む)は、はじめは「えーっ…」と思うかもしれない。案ずることなかれ。なぜハウツー本ではないのかが分かった後には、過去の自分を反省し、「ごめんなさい」と謝罪したくなる良書である。

本書は全7章で構成され、仲直りの理を「進化生物学のモデル研究」「動物行動学の研究」「心理学の研究」という多角的な視点から理解していく。仲直り研究には膨大な知見があり、初学者はどこから手をつけていいのかさえ分からない。本書の目的は、そうした複雑な研究の見通しを良くし、進化というレンズを通して仲直りの理をおおづかみで理解することにある。読者がその目的を達成できるよう、全章を通して前提知識の説明が丁寧になされている。また、データを可視化して眺めてみる、人々は行動の本当の理由を知らないことがあるなど、研究者にとって重要な知識が散りばめられているのも嬉しい。

第1章では霊長類、哺乳類、鳥類、魚類の仲直り傾向が紹介され、それら研究の共通点が仲直り機能の本質をシンプルに教えてくれる。群れで行動する多くの動物では仲直り傾向が広く共有されているが、そうではない動物には仲直り傾向がない。この事実から、同じ相手と繰り返しつき合っていかなければいけない集団生活の中で仲直りは大事であり、役立つからこそ進化してきたと論じられる。そもそも、なぜ仲直りの理を理解する必要性があるのかを示す導入部である。第2章から進化の専門的な話が展開されるが、フィンチのくちばし研究で「進化」という語に抱かれがちな誤解を解き、心の働きと行動の進化が順を追って説明されるため、読者がついていきやすい。さらに、著者は仲直りに存在する相互依存関係を簡潔に表せる囚人のジレンマ・ゲームを取り上げている。二者間の利害の対立がケンカ、利害の一致が仲直りすることに意味のある状況にあたる。同じ相手と繰り返しつき合うゲームで安定して見られる行動規則は、仲直りと通ずるものがあり、仲直りの本質の理解を助けてくれる。

第3章と第4章ではシミュレーション研究の説明がやや多くなる。ここでも、著者は脱落者を出さないようにシミュレーションと霊長類の研究を対比させ、重要なポイントが分かりやすくなる工夫を施している。「赦すことの理(p. 61)」として関係を続ける価値が高い相手ほど赦す方がよく、裏切りが意図的でないことが自明であれば、なお赦した方がよいとまとめられる。続いて赦されるための「悔恨の情(p. 104)」をどう行動で示していくか。ボイドの知見を元に、自分の評判が悪い時には相手が協力しなくても赦すという行動が、改悛のシグナルとなり「悔恨の情」として相手に受け取ってもらえると解説される。第4章までで仲直りの理を理解するための外堀が埋められたと感じる。

第5章からいよいよヒトの謝罪研究がメインテーマとして扱われる。謝罪研究のメタ分析の結果を紹介した上で、著者らのコストのかかる謝罪と誠意の知覚に関する研究などが概説される。謝罪メッセージを送るコストの認識の有無を操作した実験室実験、自分に迷惑をかけた相手が寒い中、長時間待っている(身体的コスト)場面を想像させるシナリオ実験、コストがかかる謝罪を受けた時に活動する脳部位を調べた実験の三つである。研究の緻密さを実感でき、特に心理学者を興奮させる章である。

第6章と第7章はクライマックスとして仲直りに関連した至近要因を中心とした議論が展開される。著者は赦しや謝罪の至近要因である感情(共感・罪悪感)に注目し、いてもたってもいられず自動的に仲直りしたくなるメカニズムを解説する。最後にセルフコントロールを用いることと、至近要因のありようを変化させる働きかけから、仲直りをする力をいかにして高められるかを説明する。「仲直り」を本気で考えさせる本書を、常に手元に置いておくことを強くオススメしたい。謎が解けたような満足感と、「もっとよく考えないと!」とよい意味で自責の念に駆られる一冊になっている。

 
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