Article ID: 2024-013
本研究は,人や動物の形状をした「擬人化製品」を対象に,人がモノに対して共感的反応を示す可能性と,そうした対物共感と個人特性との関連性を検討することを目的とし,2つの実験を行った(実験1:n=50,実験2:n=55)。具体的には,擬人化製品として動物を模した食品(例:パンダ饅頭)を,統制群として非擬人化食品(例:ドーナツ)を用いた。実験1では,擬人化の有無および破損の有無を操作した画像を提示し,対物共感を測定した。その結果,擬人化製品が破損された場合は,非擬人化製品よりも強いネガティブ感情が喚起され,その程度は破損が大きくなるほど強まった。実験2では,共感性およびアニミズム的思考との関連を探索的に検討した。その結果,対物共感は共感性およびアニミズム的思考の各下位概念と正の相関を示し,特に「所有物の擬人化」との関連が強かった。以上の知見は,無生物への共感反応が単なる状況的な反応ではなく,より広範な認知的・感情的傾向と結びついていることを示唆するものである。
This study examined whether individuals experience empathic responses toward inanimate objects, with a particular focus on anthropomorphic products that resemble humans or animals, and investigated how such responses are associated with individual differences by conducting two experiments (Experiment 1: n=50; Experiment 2: n=55). Animal-shaped food products (e.g., panda-shaped sweets) were used as anthropomorphic stimuli, whereas non-anthropomorphic food products (e.g., donuts) served as control stimuli. In Experiment 1, participants were presented with image stimuli manipulating anthropomorphism (anthropomorphic vs. non-anthropomorphic) and object condition (damaged vs. intact). The results indicated that damaged anthropomorphic products elicited significantly stronger negative emotional responses than damaged non-anthropomorphic products, with emotions intensifying as the severity of damage increased. In Experiment 2, the associations between empathy for inanimate objects and individual characteristics—specifically dispositional empathy and animistic thinking—were explored. The findings revealed that empathy for inanimate objects was positively correlated with general empathy and all subscales of animistic thinking, particularly “anthropomorphism of possessions.” Collectively, these findings suggest that empathy responses toward inanimate objects are not merely situational reactions but are systematically related to broader cognitive and emotional tendencies, particularly animistic thinking and empathy.
私たちの周りには,食品や日用品,さらには家具や家電製品にいたるまで,人間や動物の形状を模した「擬人化製品」が数多く存在する。企業は,本来顔を持たないはずの製品に目や口などの顔の要素を描いたり,身体的な特徴を取り入れたデザインを施したりすることで,消費者の愛顧を高めようとする手法を古くから用いてきた(小野,2019)。たとえば,アニメのキャラクターの形をした菓子類,顔のついた掃除ロボット,人型のスピーカー,動物型の加湿器など,擬人化製品は実に多様な領域で活用されている。一般的な用法では,「擬人化」に動物型製品は必ずしも含まれないが,消費・購買の文脈では,動物型製品も擬人化製品と類似の感情的反応(親しみなど)を引き起こす可能性がある。したがって本研究では,人間そのものの形態を模した製品に限らず,人間的特徴を付与された動物キャラクターなどを含め,人でないモノ3)が人や動物の特徴を模した表現を取る製品を総称して「擬人化製品」と呼ぶこととする。
擬人化製品がもたらす効果については,マーケティング,デザイン学,心理学,さらに近年ではロボット工学など,多岐にわたる分野で注目が集まっている。とりわけ商業的文脈においては,擬人化された製品が消費者の選好や購買意欲に好影響を及ぼすことが示唆されている(e.g., Aggarwal & McGill, 2007; Chen et al., 2017; Puzakova & Aggarwal, 2018)。また,擬人化によって製品と消費者の間に情緒的なつながりや愛情が生まれ,長期的なブランドロイヤルティの向上につながることも報告されている(Kim & McGill, 2011)。山根・佐藤(2016)は,こうした擬人化製品との結びつきの背景には,モノに対する感情移入や共感性が関与している可能性を指摘している。人間は本質的に社会的な存在であり,他者の意図や感情を読み取る能力を備えている。そして,こうした能力は,時に無生物に対しても働き,その対象に意図や感情を見出そうとする傾向を生む。Norman(2004 岡本他訳 2004)も述べるように,人はモノから意思を読み取ることによって感情移入し,共感を抱くことで親しみを感じるのである。
それでは,人はいかなるモノに対しても共感を抱くのであろうか。たとえば,ひよこ饅頭や鳩サブレーといった,古くから親しまれてきた動物モチーフの菓子類に対しても,共感的な反応が生じるのであろうか。そして,もし共感的反応が生じるとすれば,それは誰しもに共通してみられる現象なのであろうか。本研究ではこうした動物を模した食品,すなわち「動物型食品」に着目し,人が擬人化製品に対して共感的反応を示す可能性と,それがどのような心理的要因と関連しているのかについて検討する。
擬人化とは何か擬人化(anthropomorphism)とは,「人間ではない無生の対象物に対して,人間らしい特性(形態,感情状態,行動など)を帰属すること」を指し(e.g., Aggarwal & McGill, 2007; Epley et al., 2007),語源はギリシア語で「人間」を意味するanthroposと「形態」を意味するmorpheに由来する。このような認知は,無意識下で生じる錯覚の一種としても理解されており(西井,2022),人間的特徴が付与された動物のキャラクターグッズのように,必ずしも人間の姿をしていなくても,ある程度の人間的要素が認められたり,感じられたりする場合には擬人化が生じているとみなされる(e.g., Waytz et al., 2010)。そのため,擬人化の解釈や対象の範囲には多様性が認められる。このような多様な擬人化を特性に基づき整理すると,「形態的擬人化」「行動的擬人化」「感情的擬人化」の3種類に大別できる。
まず「形態的擬人化」は,対象の物理的な形態が人間や動物に似ている場合を指す。たとえば山根・佐藤(2016)は,メソッド社のディッシュソープボトルを擬人化の例に挙げており,丸い上部と三角形の下部がそれぞれ人間の頭部と身体に対応して認識されやすいことを示している。同様に,動物の顔や身体的特徴を模した食品や日用品も,動物キャラクターが有する人間的特徴を介して形態的擬人化が生じる例と考えられる。
他方,「行動的擬人化」は,非生物が意図や感情を持つかのように行動すると解釈される場合を指す。物体に動きがあると,それだけで生きているという印象を与えやすいことが知られており(Tremoulet & Feldman, 2000),たとえばiRobot社のロボット掃除機「ルンバ」はその一例である(Aggarwal & McGill, 2007)。「感情的擬人化」は,非生物や非人間的な対象に対して感情を持っているかのように感じることを指し,たとえば所有物に愛着を抱いて話しかける行為などが該当する(Aggarwal & McGill, 2007)。行動的擬人化と感情的擬人化は概念的に区別できるものの,実際には重なり合うことも多く,たとえばルンバに名前を付けてペットのように接する行為は,行動的擬人化が感情的擬人化へと発展した例と考えられる。
本研究では,動物の形態を模した食品という研究対象の特性を踏まえ,形態的擬人化に着目する。形態に基づく擬人化については,Aggarwal & McGill(2007)が「スキーマ一致理論(Schema Congruity Theory)」の観点から説明しており,対象の形や構造が人間のスキーマと一致する場合に擬人化が促進されることが示されている。実際,体の一部を模しただけでも擬人化は生じ得ることが指摘されており(山根・佐藤,2016),本研究が形態的擬人化に着目することの理論的根拠ともいえる。
対人共感と対物共感共感性の研究は社会心理学において長い歴史を持ち,その定義は研究者によって多様である(今野・小川,2012)。古典的には,他者の感情を自己の中で経験するという感情的側面(e.g., Stotland, 1969)と,他者の立場に立ってその気持ちを理解するという認知的側面(e.g., Dymond, 1948)という2つの方向性から議論されてきた。その後,両者を統合した立場が主流となり(葉山他,2008),共感は他者の感情や経験に対して生じる一連の心理的反応として捉えられている(Davis, 1994 菊池訳 1999)。
このように,心理学における共感性研究は,長らく対人関係の文脈において,他者への意識が前提となる個人特性として議論されてきた(e.g., Eisenberg & Strayer, 1987; 山中・吉田,2011)。しかし近年では,ロボットや人工物を対象とした研究を中心に,人間以外の対象に対しても共感的反応が生じうることが指摘されている。たとえばHuman-Robot Interaction(HRI)の分野では,擬人化されたロボットやエージェントとの相互作用を通じて,人が情緒的なつながりを形成し,共感を示すことが報告されている(Airenti, 2015)。また,擬人化エージェントの自己開示や表情といった要素が,人の共感的反応を喚起することも示されている(津村・山田,2021; Tsumura & Yamada, 2023)。
こうした議論を踏まえ,本研究では,人(他者)に対して生じる共感の個人特性を「対人共感性」(以下,「対人共感」)と定義し,モノに対して生じる共感的反応を「対物共感」として区別して捉える。Harrison & Hall(2010)は,他者に共感する能力は,“他者”の理解に限定されるものではなく,動物や人工物といった人間以外の対象の心的状態を理解する基盤にもなりうると指摘している。すなわち,対人共感が他の対象へと拡張され,対物共感へとつながる可能性があることを示唆していると捉えられる。
対物共感とアニミズム的思考との関連性それでは,モノに対する共感的反応はすべての人に一様に生じるものなのだろうか。擬人化された製品を対象とする場合,対物共感の生起には,個人の擬人化傾向の強さが関係している可能性がある。擬人化傾向の測定においては,たとえば,Waytz et al.(2010)が,自然,機械,人間以外の生物に対して,意図や感情といった心的特性をどの程度帰属するかを測定する“Individual Differences in Anthropomorphism Questionnaire”(IDAQ)を開発しており,「日本語版擬人化傾向尺度(IDAQ-J)」も報告されている(中村他,2024)。
一方,池内(2010)は,無生物に対して生命や神性の存在を感じる傾向を「アニミズム的思考」として捉え,所有物の擬人化傾向を含む上位概念として位置づけている。そして成人用アニミズム尺度を作成し,アニミズム的思考を以下の3側面に分類している。1)自然物の神格化(自然物に神が宿るとみなす思考形態),2)所有者の分身化(モノを現在の所有者や過去の所有者の分身とみなす思考形態),3)所有物の擬人化(所有物に対して人間と同じような感情を抱く思考形態)。さらに池内(2014)は,アニミズム的思考が強いほどモノに対して感情移入しやすいことを示し,Airenti(2015)もロボットへの感情帰属がアニミズム的思考に基づいていることを指摘している。
以上の知見を踏まえると,対物共感の個人差を説明する要因として,アニミズム的思考が重要な役割を果たす可能性が考えられる。
本研究の目的と仮説本研究では,動物を模した食品に着目し,「動物型食品」に対しても人は共感的反応(対物共感)を示すのかを検討することを第一の目的とする。本研究で用いる動物型食品は,コアラ型のクッキーやパンダの顔をした饅頭など,目や口の配置,形態のデフォルメといった特徴を通じて親しみを喚起するようデザインされており,製品の外見的特徴に基づく形態的擬人化の一例とみなすことができる。一方,本研究では,比較のためにドーナツやシュークリームなど人や動物の形態から大きく離れた「非擬人化製品」を統制群として設定する。Aggarwal & McGill(2007)のスキーマ一致理論によると,人や動物などの形態から大きく離れている対象は擬人化されにくく,共感的反応が生じにくいと考えられる。また,共感研究ではネガティブな感情反応が指標として用いられることが多いことから(櫻井他,2011),本研究では製品が破損された状況を想定し,破損に伴って喚起されるネガティブ感情を対物共感の指標として用いる。
以上の議論を踏まえ,以下の仮説を設定する。
仮説1:擬人化製品が破損された場合,破損されていない場合に比べて,ネガティブ感情は強くなる。
仮説2:非擬人化製品においては,破損の有無にかかわらずネガティブ感情の強度は変わらない。
さらに,共感の強さは,単なる破損の有無だけでなく,「破損の程度」によっても影響を受ける可能性がある。Batson et al.(1997)は,対象への共感や同情の強さは被害の大きさに比例することを示しており,苦痛の強さが共感を増幅させることを示唆している。そこで,次の仮説を設定する。
仮説3:擬人化製品の破損の程度が大きいほど,喚起されるネガティブ感情は強くなる。
また,本研究では,対物共感と関連する個人特性として対人共感性およびアニミズム的思考に着目し,それらの関連性を探索的に検討することを第二の目的とする。先行研究では,他者に対する共感能力が,人間以外の対象に対する心的状態の理解とも関連しうることが指摘されている(Harrison & Hall, 2010)。また,無生物に生命性や意味を見出す傾向であるアニミズム的思考は,モノに対する共感的反応と関連する可能性が示唆されている(Airenti, 2015; 池内,2014)。これらの知見を踏まえ,対物共感,対人共感,およびアニミズム的思考について,次のような相関的な仮説を設定する。
仮説4:対人共感が強いほど,対物共感は強い。
仮説5:アニミズム的思考が強いほど,対人共感および対物共感は強い。
なお,アニミズム的思考の測定には,前述の「成人用アニミズム尺度」(池内,2010)を用いる。本尺度は,「自然物の神格化」「所有者の分身化」「所有物の擬人化」の3つの下位因子から構成される。本研究では,これらの因子に着目し,破損した食品への共感が,対象そのものを擬人的に捉える傾向(所有物の擬人化),作り手や所有者への感情的投影(所有者の分身化),モノや自然物に対する神聖視的態度(自然物の神格化)とどのように関連するのかを検討する。そして,各因子と対物共感との関連を探索的に分析する。
実験1では,本研究の第一の目的である「動物型食品に対しても人は共感的反応(対物共感)を示すのか」を検証する。そのため,擬人化の有無および破損の有無が,ネガティブな感情反応の強さに及ぼす影響について,2つの仮説(仮説1,仮説2)に基づいて検討を行う。さらに,破損の程度にも着目し,破損が深刻であるほどネガティブ感情がより強く喚起されるという仮説3の検証も試みる。
方法実験参加者大学生50名(男性20名,女性30名,平均年齢=19.82歳,SD=1.21)が実験に参加した。本実験の参加者は,当該学期に開講されていた少人数の演習科目(基礎研究など)の履修学生を対象として募集された。実験は授業時間外に任意参加の形式で実施され,報酬の付与は行われなかった。サンプルサイズについては事前の統計的検出力分析に基づく設計は行わず,研究倫理上の配慮および授業運営上の制約から追加募集は行わなかったため,当該募集範囲内で最終的に得られた50名を分析対象とした。
実験デザイン擬人化の有無(擬人化製品/非擬人化製品)×破損の有無(破損あり/破損なし)の2要因参加者内計画であった。
実験画像の選定(予備実験1)本実験で用いる製品画像を選定するために,擬人化製品として4種類,非擬人化製品として4種類を用意し,茶色のマットに白い紙皿を置き,その上に各製品をのせた状態で,上方から撮影した。具体的には擬人化製品として,コアラ型クッキー(以下,コアラ),ペンギン型クッキー(ペンギン),パンダ饅頭(パンダ),たい焼きを,非擬人化製品としてシュークリーム,肉まん,ドーナツ,どら焼きを用意した(Figure 1参照)。

予備実験1では,A4用紙の上半分に1画像を掲載し,下半分に自由記述欄を設けてランダム化して綴じ,冊子にした。そして,本実験とは異なる参加者10名に本冊子を渡し,「各画像が何に見えるか」を自由記述欄に記入するよう求めた。その結果,8種類の製品いずれも大きく間違った回答は認められず,擬人化製品に対しては全員が動物の名称を挙げていた(たとえばパンダ饅頭の場合,「パンダ」「パンダのあんまん」「パンダの肉まん」など)。以上より,8種類すべてを本実験の刺激材料として用いることにした。
実験画像の操作チェック(予備実験2)予備実験2では,上記の10名,および本実験の参加者とは異なる31名に,これら8種類の製品画像をGoogleフォームにてランダムに提示した。そして,操作チェックとして,「この製品からどれだけ“生き物らしさ”を感じるか」(生物性知覚)について6件法(1:全く感じない,2:感じない,3:あまり感じない,4:やや感じる,5:感じる,6:非常に感じる)で評定を求めた。
その結果,擬人化製品の平均値はすべて4.0以上であり,非擬人化製品の平均値はいずれも2.0以下であった4)。さらに,擬人化/非擬人化製品ごとに刺激画像4種の平均値を算出し,両者を比較したところ,擬人化製品の方が有意に“生き物らしさ”を感じていることが示唆された(擬人化:M=4.24(SD=1.01),非擬人化:M=1.37(SD=.83),F(1, 246)=559.49, p<.001, η2=.70)。以上より,実験画像の操作は妥当であると判断した。
破損状態の操作本実験では,「破損状態」の操作として,擬人化製品および非擬人化製品ともに2分割したものを用いた。その際,破損の位置の影響も考慮し,たい焼きについては頭部付近で分割した画像と尻尾付近で分割した画像の2パターンを用意した。
また,実験1では,破損の程度が及ぼす影響についても検討するため,スキーマ一致理論を基に,手足があり蝶ネクタイをつけているという点で最も人間のフォルムに近いコアラの破損画像のみ,2分割から5分割までの4段階を設けた。したがって,「擬人化製品×破損あり条件」の画像は計8枚となり,その他の条件(擬人化製品×破損なし,非擬人化製品×破損あり,非擬人化製品×破損なし)については各4枚,合計20枚の刺激画像を用いた5)。
対物共感項目の選定(予備実験1)対物共感項目を選定するにあたり,予備実験1の画像選定の協力者10名にA4用紙を用いた同様の方法で「擬人化製品×破損あり」の画像を提示し,“画像を見て感じたこと”を思いつくままに自由記述欄に記すよう求めた。その結果,「かわいそうに思う」「つらそうに感じる」などの自由記述を整理し,回答頻度の高かった内容に基づいて7項目を作成した。そして,実験1ではこれらの項目に対して6件法(1:全く当てはまらない,2:当てはまらない,3:あまり当てはまらない,4:やや当てはまる,5:当てはまる,6:非常に当てはまる)で評定するよう求めた(項目の詳細は結果を参照)。
実験手続き実験は,PC室にて一斉に実施された。参加者はモニター(15.6インチ,解像度:1,920×1,080ピクセル)から約50 cm離れて着席し,質問紙併用の課題を行った。具体的には,製品画像が各自のモニター中央に5秒間呈示され,その後注視点が20秒現れ,その間に質問紙上の対物共感項目群に6件法(1:全く当てはまらない,2:当てはまらない,3:あまり当てはまらない,4:やや当てはまる,5:当てはまる,6:非常に当てはまる)で評定した後,再び注視点に目線を戻した。なお,20秒で回答が終えられることは事前に確認済みであった。これを1試行とし,練習課題を2回行った後,全20試行を終えるまで繰り返された。順序効果を抑制するために,画像の呈示順序はランダム化された。刺激画像はPCの画面上に提示され,製品自体の大きさは600×600ピクセル以内に収まるように加工した。
結果操作チェック各画像の製品が何に見えるか自由記述にて回答を求めたところ,擬人化製品延べ200件(4種類×50名)中194件(97.0%)で「コアラ」や「コアラのクッキー」といった擬人化的な回答が得られた。以上より,予備実験2における定量的な結果も踏まえ,本実験の操作は妥当であったと判断される。
対物共感項目群の因子分析結果まず対物共感7項目を擬人化の有無×破損の有無の4条件ごとに因子分析を行ったところ,いずれも「かわいそうに思う」,「気の毒に思う」,「つらそうに感じる」,「苦しそうに感じる」,「痛そうに感じる」の5項目と,「なんとなく気持ちが悪い」,「なんとなく不快感を覚える」の2項目に分類された6)。共感性の定義,すなわち“他者の感情状態に対する感情反応”からすると,後者はネガティブな“印象”に関する項目といえ,真の共感の意味合いとは少し異なる。よって,本研究では前者を「ネガティブな対物共感因子(以下,否定的共感因子)」(α=.829~.946),後者を「ネガティブな対物印象因子(以下,否定的印象因子)」(α=.877~.921)と捉えることにする。
擬人化の有無と破損の有無が対物共感に及ぼす影響分析に先立ち,全条件の否定的共感得点と否定的印象得点の記述統計量を算出した結果,Table 1のようになった。そして,擬人化の有無と破損の有無を独立変数,否定的共感と否定的印象の尺度項目得点を従属変数として2要因の参加者内分散分析を行った。その際,破損の位置の効果を検討するために,たい焼きにおいては頭部と尻尾の2種の分割パターンを設けた。しかし,両者に明らかな有意差は認められなかったので,両画像の平均値を算出して分析に用いることにした(否定的共感:F(1, 49)=3.90, p=.054, η2=.07,否定的印象:F(1, 49)=1.26, p=.268, η2=.03)。また,コアラに関しては2分割の得点を用いた。
| 擬人化の有無 | 破損の有無 | 否定的共感(条件別・全体) | 否定的印象(条件別・全体) | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | |||
| 擬人化製品 | コアラ型クッキー | 破損なし | 1.18 | 0.57 | 1.55 | 0.50 | 1.46 | 1.05 | 1.88 | 0.76 |
| ペンギン型クッキー | 破損なし | 1.25 | 0.48 | 1.60 | 1.09 | |||||
| パンダ饅頭 | 破損なし | 2.28 | 1.17 | 2.74 | 1.44 | |||||
| たい焼き | 破損なし | 1.49 | 0.79 | 1.70 | 1.16 | |||||
| コアラ型クッキー | 破損あり(2分割) | 3.82 | 1.11 | 3.95 (3.91) | 1.09 (1.10) | 3.57 | 1.36 | 3.81 (3.79) | 1.04 (1.05) | |
| コアラ型クッキー | 破損あり(3分割) | 4.00 | 1.31 | 3.85 | 1.29 | |||||
| コアラ型クッキー | 破損あり(4分割) | 4.27 | 1.31 | 4.10 | 1.39 | |||||
| コアラ型クッキー | 破損あり(5分割) | 4.54 | 1.30 | 4.25 | 1.36 | |||||
| ペンギン型クッキー | 破損あり | 3.99 | 1.31 | 4.12 | 1.09 | |||||
| パンダ饅頭 | 破損あり | 4.37 | 1.26 | 4.19 | 1.30 | |||||
| たい焼き | 破損あり(頭分割) | 3.62 | 1.22 | 3.37 | 1.39 | |||||
| たい焼き | 破損あり(尻尾分割) | 3.33 | 1.38 | 3.17 | 1.59 | |||||
| 非擬人化製品 | シュークリーム | 破損なし | 1.10 | 0.27 | 1.13 | 0.24 | 1.09 | 0.31 | 1.31 | 0.42 |
| 肉まん | 破損なし | 1.23 | 0.38 | 1.85 | 1.21 | |||||
| ドーナツ | 破損なし | 1.12 | 0.39 | 1.07 | 0.36 | |||||
| どら焼き | 破損なし | 1.06 | 0.21 | 1.23 | 0.66 | |||||
| シュークリーム | 破損あり | 1.62 | 0.85 | 1.66 | 0.65 | 2.29 | 1.39 | 2.24 | 1.03 | |
| 肉まん | 破損あり | 1.68 | 0.96 | 2.64 | 1.47 | |||||
| ドーナツ | 破損あり | 1.69 | 0.86 | 1.98 | 1.11 | |||||
| どら焼き | 破損あり | 1.66 | 0.75 | 2.04 | 1.16 | |||||
注)「擬人化製品」×「破損あり」の括弧内は,分析に用いた代表値を示しており,コアラについては2分割条件の得点を,たい焼きについては頭分割と尻尾分割の平均値を用いて算出した。
分析の結果,否定的共感と否定的印象のいずれも擬人化の有無,破損の有無の主効果,および交互作用が有意となった(順に,否定的共感:F(1, 49)=265.47, η2=.84, F(1, 49)=252.28, η2=.84, F(1, 49)=158.62, η2=.76,否定的印象:F(1, 49)=238.03, η2=.83, F(1, 49)=137.06, η2=.74, F(1, 49)=29.01, η2=.37,すべてp<.001)。つまり,擬人化製品は非擬人化製品より,また破損あり条件は破損なし条件よりも否定的な共感反応を生じやすく,印象も悪くなることが認められた(Figure 2, Figure 3参照)。

注)エラーバーは標準誤差を示す。*** p<.001

注)エラーバーは標準誤差を示す。*** p<.001
なお,交互作用が有意になったので単純主効果検定を行った。その結果,すべての組み合わせで有意差が認められ,擬人化製品および非擬人化製品のいずれも,破損あり条件の方が破損なし条件よりも否定的共感得点,否定的印象得点ともに有意に高い結果が示された(否定的共感:擬人化 F(1, 49)=277.85, η2=.85;非擬人化 F(1, 49)=40.10, η2=.45,否定的印象:擬人化 F(1, 49)=143.69, η2=.75;非擬人化 F(1, 49)=41.66, η2=.46,すべてp<.001)。また,破損あり条件および破損なし条件のいずれにおいても,擬人化製品の方が非擬人化製品よりも否定的共感得点,否定的印象得点ともに有意に高い値が得られた(否定的共感:破損あり F(1, 49)=242.14, η2=.83,破損なし F(1, 49)=57.82, η2=.54;否定的印象:破損あり F(1, 49)=143.18, η2=.75,破損なし F(1, 49)=34.32, η2=.41,すべてp<.001)。その差は,効果量の大きさからみても破損あり条件において特に顕著であった。
破損状態が対物共感に及ぼす影響次いで破損状態(破損なし(分割なし)から5分割の5段階)を独立変数,否定的共感と否定的印象の尺度項目得点を従属変数として参加者内分散分析を行った。その際,球面性の仮定が満たされなかったため,Greenhouse–Geisser補正を適用した。その結果,いずれの従属変数においても破損状態の主効果が有意となった(順に,否定的共感:F(2.23, 109.46)=151.48, p<.001, η2=.76,否定的印象:F(2.64, 129.33)=75.81, p<.001, η2=.61)。そこでBonferroni法による多重比較を行ったところ,総じて分割数が多くなるほど,否定的共感得点と否定的印象得点が有意に高くなることが認められた(Figure 4, Figure 5)。これらの結果は,破損が大きくなるとこれらの心的状態も強まることを示唆している。

注)エラーバーは標準誤差を示す。*** p<.001, ** p<.01, * p<.05, † p<.1

注)エラーバーは標準誤差を示す。*** p<.001, ** p<.01, * p<.05
実験1では,「動物型食品に対しても人は共感的反応(対物共感)を示すのか」の検討を目的として,以下の3つの仮説に基づいて検証を行った。仮説1「擬人化製品が破損された場合,破損されていない場合に比べて,ネガティブ感情は強くなる」,仮説2「非擬人化製品においては,破損の有無にかかわらずネガティブ感情の強度は変わらない」,仮説3「擬人化製品の破損の程度が大きいほど,喚起されるネガティブ感情は強くなる」。
仮説1および仮説2の検証実験では,パンダ饅頭やコアラ型クッキーなどの擬人化製品とドーナツやシュークリームなどの非擬人化製品を,そのままの状態(破損なし条件),または2分割された状態(破損あり条件)で提示し,各画像に対する否定的共感および否定的印象を測定した。その結果,否定的共感,否定的印象ともに「擬人化の有無」と「破損の有無」の交互作用が有意となり,擬人化製品が破損された場合に,ネガティブ感情が最も強く喚起されることが認められ,仮説1は支持された。さらに平均値に注目すると,擬人化×破損あり条件のみが中間点(3.5)を上回っていることから,動物型食品が破損している画像においては,人はつらさや悲しみといった共感的感情に加えて,一定の不快感を抱く傾向が示唆された。これは,擬人化製品と感情移入の可能性について論じた山根・佐藤(2016)の主張を支持する結果であり,Airenti(2015)が指摘したような“対象との相互作用”がなくても,破損した動物型食品に対して共感的反応は生じることが認められた。
一方で,非擬人化製品においても,破損あり条件の方が破損なし条件に比べて否定的共感得点および否定的印象得点が有意に高くなることが見出された。したがって,仮説2は支持されなかった。ただし,これらの得点自体はいずれも低水準にとどまっており,擬人化製品の場合と比べると共感的反応は量的にも質的にも弱く,限定的であった。この点は,擬人化は人や動物などの形態から離れるほど生じにくいとするAggarwal & McGill(2007)のスキーマ一致理論とも合致する。また,本結果は,破損という事象そのものが不快感や否定的評価を喚起している可能性を示すものであり,擬人化に基づく共感とは区別して捉える必要がある。
仮説3の検証さらに,擬人化製品における破損の程度がネガティブ感情に与える影響を検討するため,コアラ型クッキーを用い,「破損なし~5分割」の5段階条件を設定し,否定的共感および否定的印象の得点を測定した。その結果,分割なしから2分割への変化において最も大きな得点上昇が認められ,その後は3分割,4分割,5分割と破損の程度が進むにつれて,ネガティブ感情は緩やかに増加した。したがって,仮説3はおおむね支持されたが,4分割と5分割の間には有意差が認められず,破損の程度が一定水準を超えると感情反応は飽和し,上昇しなくなる可能性が示唆された。
この現象は,対物共感が無制限に高まるわけではないことを示すものとして解釈できる。Waytz et al.(2010)は,擬人化が対象の知覚的明瞭性に依存することを指摘している。対象の外形がある程度保たれている場合,人はそこに意図や感情を投影しやすいが,破損が進んで形状が大きく崩れると,「コアラ」としての認識が弱まり,共感はそれ以上喚起されにくくなると考えられる。したがって,擬人化製品の破損によってネガティブ感情が高まるのは,擬人化の認知が維持される範囲内においてであり,それを超えると共感的反応は頭打ちになると考察できる。
実験2では,対物共感と関連する個人特性として,対人共感性およびアニミズム的思考に着目し,それらとの関連性を探索的に検討することを目的とする。これらの検討は,2つの仮説(仮説4,仮説5)に基づいて行う。
方法実験参加者予備実験および実験1とは異なる大学生55名(男性17名,女性38名,平均年齢=19.75歳,SD=1.41)が実験に参加した。参加者は,当該学期に開講されていた少人数の演習科目(専門演習など)の履修学生を対象として募集された。参加は任意であり,報酬は付与されなかった。サンプルサイズについては事前の統計的検出力分析に基づく設計は行っておらず,研究倫理上の配慮および授業運営上の制約から追加募集は行わなかったため,当該募集範囲内で最終的に得られた55名を分析対象とした。
画像刺激実験1と同様の画像を用いた。実験2では,分析の主対象を擬人化製品の「破損あり」画像としたが,ベースラインを設けるためにその他の条件の画像も提示した。なお,刺激画像の構成を統一するため,コアラについては2分割の画像のみ,たい焼きについては頭部で分割した2分割の画像のみを用いた。したがって,画像刺激は,擬人化の有無×破損の有無の4条件,各4枚の計16枚となった。
実験手続きと調査項目画像評定については,実験1と同様の方法でPC室にて一斉に実施された。順序効果を抑制するために,画像の呈示順序はランダム化された。対物共感の測定には,実験1と同じ7項目(「かわいそうに思う」「つらそうに感じる」など)を用い,6件法(1:全く当てはまらない~6:非常に当てはまる)で評定するよう求めた。ただし,実験2では,特に否定的共感得点に着目し,モノに対する共感(対物共感)の指標として用いた。
参加者は,画像評定課題(練習課題2回および全16試行)の終了後,「成人用アニミズム尺度」(池内,2010)と「共感的感情反応尺度」(櫻井他,2011)に回答した。いずれも,5件法(1:全く当てはまらない,2:あまり当てはまらない,3:どちらともいえない,4:やや当てはまる,5:非常に当てはまる)で評定するよう求めた7)。前者の成人用アニミズム尺度は,「自然物の神格化」「所有者の分身化」「所有物の擬人化」の3つの下位因子(11項目)から構成されている8)。後者の共感的感情反応尺度は,「ポジティブな感情への好感・共有」「ネガティブな感情の共有」「ネガティブな感情への同情」の3因子から構成される尺度であり(櫻井他,2011),他者の感情状態に対して生起する感情反応を測定するものである。本研究で扱う「破損」というネガティブな事象との対応関係を踏まえ,本研究では,ネガティブ感情に関連する2因子,すなわち「ネガティブな感情の共有」および「ネガティブな感情への同情」に該当する計10項目のみを分析に用いた9)。
結果各下位尺度の記述統計量と信頼性実験2で用いた各変数の記述統計量および信頼性係数(α係数)をTable 2に示した。アニミズム的思考および共感的感情反応については,原典に基づき下位尺度得点(加算平均値)を算出した。しかし,共感的感情反応尺度のうち「ネガティブな感情への同情」因子については,櫻井他(2011)では十分な信頼性が報告されていたのに対し(α=.756),本研究では著しく低かった(α=.299)。そこで改めて尺度構造を確認するために因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ,スクリー基準に基づくと3因子が認められ,「ネガティブな感情の共有」の5項目が第1因子として抽出された。しかし,「ネガティブな感情への同情」の5項目に関しては,第2因子,第3因子にそれぞれ1項目ずつ負荷したものの(負荷量は順に.930,.758),その他の3項目はいずれの因子においても十分な負荷量が得られなかった(負荷量.256~.347)。したがって,本研究においては,「ネガティブな感情への同情」は内的一貫性が認められなかったため分析から外し,「ネガティブな感情の共有」を対人共感の指標として用いることにした。
| M | SD | α | 否定的共感(対物共感) | 否定的印象 | 自然物の神格化 | 所有者の分身化 | 所有物の擬人化 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 否定的共感(対物共感) | 3.80 | 1.20 | .953 | — | ||||
| 否定的印象 | 3.74 | 1.07 | .904 | .548*** | — | |||
| 自然物の神格化 | 2.95 | 1.06 | .774 | .324* | .111 | — | ||
| 所有者の分身化 | 3.40 | 0.79 | .704 | .241† | .053 | .566*** | — | |
| 所有物の擬人化 | 3.19 | 0.88 | .733 | .492*** | .287* | .565*** | .660*** | — |
| ネガティブな感情の共有(対人共感) | 3.39 | 0.75 | .806 | .338* | .328* | .338* | .286* | .517*** |
*** p<.001, ** p<.01, * p<.05, † p<.1
各変数間の関連性を検討するため,ピアソンの積率相関係数を算出した(Table 2)。その結果,否定的共感(対物共感)とネガティブな感情の共有(対人共感)の間に有意な正の相関関係が認められた(r=.338, p=.012)。すなわち,人に対するネガティブ感情への共感傾向が強い人ほど,破損した擬人化製品に対してもネガティブな共感的反応を抱きやすいことが示唆された。
また,対物共感はアニミズム尺度の下位因子のうち,「所有物の擬人化」と最も強い正の相関関係を示した(r=.492, p<.001)。一方で,「自然物の神格化」との相関は有意ではあるが比較的弱く(r=.324, p=.016),「所有者の分身化」との相関は有意傾向にとどまっていた(r=.241, p=.076)。さらに,対人共感も「所有物の擬人化」との間に強い正の相関が認められた(r=.517, p<.001)。
考察実験2では,対物共感と関連する個人特性として,対人共感性およびアニミズム的思考に着目し,それらとの関連性を探索的に検討した。本実験では,因果関係ではなく,変数間の関連性に焦点を当て,仮説4および仮説5の検証を行った。
まず,仮説4「対人共感が強いほど,対物共感は強い」について検討した。その結果,ネガティブな感情の共有(対人共感)と否定的共感(対物共感)との間に有意な正の相関関係が認められた。このことから,本研究の対象である無生物(食品)においても,人に対して共感しやすい人ほど,破損した擬人化製品に対して共感的な感情を抱きやすい傾向にあることが示唆され,仮説4は支持された。この結果は,他者への共感能力が対物共感に拡張する可能性を指摘したHarrison & Hall(2010)の主張とも整合している。
次に,仮説5「アニミズム的思考が強いほど,対人共感および対物共感は強い」について検討した。相関分析の結果,対物共感はアニミズム的思考の中の「所有物の擬人化」と強い正の相関関係を示したが,「自然物の神格化」との相関は弱く,「所有者の分身化」とは有意傾向であった。また,対人共感についても,「所有物の擬人化」との間に相対的に強い正の相関が認められた。したがって,仮説5は部分的に支持されたと解釈される。
以上の結果を踏まえると,破損した食品への共感は,主として対象そのものを擬人的に捉える「所有物の擬人化」と強く関連している可能性がある。一方で,「自然物の神格化」や「所有者の分身化」との関連は限定的であった。このことから,対物共感の生起には,モノに神性を見出したり所有者の感情を投影したりする側面よりも,対象を擬人的に認知する傾向がより本質的であると考えられる。
本研究では,擬人化製品として動物を模した食品に着目し,人がモノに対して共感的反応(対物共感)を示す可能性と,そうした対物共感と個人特性との関連を検討するために,2つの実験を行った。
実験1では,動物型食品に対して対物共感が生じるか否かを検証した。その結果,擬人化製品が破損された場合には,非擬人化製品に比べてネガティブな感情が強く喚起され,対物共感が生じていることが確認された。また,破損の程度が大きくなるにつれて,共感的反応も強まる傾向が認められた。これらの結果は,相互作用を伴わない「形態的擬人化」のみに基づく対象に対しても,人は共感的反応を喚起しうることを示唆している。
続く実験2では,実験1で確認された対物共感が,対人共感およびアニミズム的思考とどのように関連しているのかを探索的に検討した。その結果,対物共感は対人共感と正の相関を示すとともに,アニミズム的思考の下位因子のうち,とくに「所有物の擬人化」と最も強く関連していた。これは,アニミズム的思考の中でも「所有物の擬人化」が無生物に対する感情的反応と密接に関わることを指摘した先行研究(e.g., 池内,2010, 2014)の知見とも一致している。これらの結果を総合すると,対物共感は単に対人共感がそのまま拡張された結果として生じるだけではなく,所有物を人のように捉える認知的傾向と結びつく場合に,より顕在化しやすい現象であると考えられる。
なお,実験2は,対人共感,アニミズム的思考,対物共感の間にみられる関連性を探索的に記述することを目的としたものであり,変数間の因果的方向性や媒介関係を検証することを意図したものではない。そのため本研究の結果は,これらの特性間に一定の関連が存在する可能性を示すものにとどまり,因果的解釈については今後の課題の1つとする。
本研究の貢献本研究の貢献としては,大きく2点に整理できる。
第1に,本研究は,擬人化研究および共感性研究に,新たな視座をもたらしたことが挙げられる。従来の擬人化研究では,ロボットや電化製品のような相互作用を前提とした対象が主に扱われてきた。それに対し,本研究は,相互作用が期待できない「形態的擬人化」である動物型食品に対しても,共感的反応が生じうることを明らかにした点に意義がある。
第2に,本研究は実務的な示唆も有している。実験1の結果から,擬人化製品は共感を喚起しうる一方で,破損や損傷と結びつく場合には強いネガティブ感情を引き起こす可能性があることが示された。これは,擬人化といった表現が,常にポジティブな効果をもたらすわけではなく,使用方法によっては拒否反応を招くリスクを伴うことを示唆している。
しかしその一方で,このような否定的感情は,条件によっては消費者の注意や関与を高める契機にもなりうる。たとえば,ひよこ型の饅頭に“涙を流す”といった表情を加えることで,強い共感を喚起し,購買意欲を高めるといった展開が期待できる。実際に,近年の研究では,擬人化製品における表情や顔のデザインが,共感や製品評価に影響を与えることが報告されている(Cooremans & Geuens, 2019; Tsumura & Yamada, 2023; 山本・山田,2023)。今後は,本研究で用いた擬人化製品を対象として,表情や文脈の操作が味覚の認知や購買意図に与える影響について,より実践的な検討を進めることが求められる。
本研究の限界と今後の課題最後に,本研究の限界と今後の課題について,以下の4点を挙げる。
第1に,本研究は探索的検討として位置づけられるものであり,実験2では相関分析に基づいて変数間の関連性を記述したにとどまる。そのため,因果の方向性や媒介構造について結論を導くことができなかった。さらに,サンプリングについても事前の検出力分析に基づく計画的なサイズ設計を行っておらず,結果の一般化には制約が伴う。したがって今後は,効果量の事前推定に基づくサンプルサイズ設計を行うとともに,因果プロセスを厳密に検証する実験計画の採用が不可欠といえる。
第2に,擬人化の抽象度を体系的に操作していない点が挙げられる。本研究で用いた動物型食品は生物性知覚が高い対象であったが,擬人化の程度によって共感的反応の強さや質が異なる可能性は十分に考えられる。この点については,対象がリアルに近づくほどにかえって不快感を抱く「不気味の谷現象」(森,1970)なども踏まえ,擬人化の抽象度を段階的に操作した検討が求められる。
第3に,本研究で扱った個人特性要因が限定的であった点である。本研究では対人共感性とアニミズム的思考に焦点を当てたが,他にも孤独感や社会的つながりへの欲求(Chen et al., 2017; Epley et al., 2007),あるいは「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼ばれる感覚処理感受性の高さ(Aron & Aron, 1997)などの要因も,擬人化知覚や対物共感と関連する可能性がある。今後は,これらの心理的特性を組み込んだ多面的な検討も,重要な議論の対象となろう。
第4に,参加者属性および文化的要因の検討が不十分であった点が挙げられる。本研究は日本の大学生を対象としており,性別や年齢,文化背景の偏りが結果の一般化を制限している。アニミズム的思考には文化差が報告されていることから(池内,2010, 2015),今後は文化間比較を通じて,擬人化製品に対する共感の文化的普遍性と特異性を検討する必要がある。
いずれにせよ,モノに対して「かわいそう」といった感情的反応を心理学的に捉え直すことは,人とモノの関係性を理解する上で重要な手がかりになると考えられる。
1) 本研究は,関西大学大学院心理学研究科研究・教育倫理委員会の承認のもとで実施された(承認番号#375)。
2) 本研究結果の一部は日本社会心理学会第58回大会,第59回大会で発表された。
3) 池内(2010)によると,アニミズムに関する文献では,道具・民具の意味として“モノ”が多く用いられているという。また,マーケティング的にも形ある商品のことを“モノ”と表記することから,本研究でもカタカナに統一して用いることにする。
4) 予備実験2の結果については,電子付録(Table S1)を参照のこと。
5) 残りの刺激画像については,電子付録(Figure S1)を参照のこと。
6) 対物共感項目群の因子分析結果の一例(擬人化製品×破損あり条件)については,電子付録(Table S2)を参照のこと。
7) 本研究では,対人共感性およびアニミズム的思考を個人特性として扱っているが,尺度項目が刺激に対する反応を誘導する可能性を考慮し,画像評定課題の後に測定を行った。これは,特性尺度の内容が参加者の意識を喚起し,感情反応に影響を及ぼすことを避けるための配慮である。
8) 「成人用アニミズム尺度」の項目については,電子付録(Table S3)を参照のこと。
9) 本研究で用いた「共感的感情反応尺度」のネガティブ関連項目については,電子付録(Table S4)を参照のこと。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。