Article ID: 2025-012
2025年の参議院議員通常選挙期間中,多くの陰謀論や誤情報がデジタルメディア上で拡散した。本研究では,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容しやすいこと,またこの傾向はデジタルメディアに対する信頼が調整するという仮説を立てた。294名(女性147名,平均年齢45.32歳)が分析対象となった。参加者は,まずデジタルメディアに対する信頼と陰謀論信奉傾向(陰謀論的心性質問票)に回答を求められた。約1週間後に,参議院選挙期間中に流れていた誤情報が提示され,その誤情報をどの程度信じるかに回答を求められた。その結果,陰謀論信奉傾向とデジタルメディアに対する信頼の交互作用効果がみられた。デジタルメディアを信頼している人たちは陰謀論信奉傾向に関係なく誤情報を受容した一方で,デジタルメディアを信頼していない人たちは陰謀論信奉傾向が高い人ほど誤情報を受容していた。本研究の意義や限界,今後の展望について考察をおこなった。
During the 2025 House of Councillors election campaign, conspiracy theories and misinformation circulated widely across digital media platforms, raising concerns about how such content might be addressed. This study examined whether individuals with stronger conspiracy beliefs were more susceptible to misinformation and whether this relationship was moderated by the perceived credibility of digital media. Data were collected from 294 participants (147 women; Mage=45.32 years). Participants completed measures of perceived digital media credibility and conspiracy beliefs, with the latter assessed using the Conspiracy Mentality Questionnaire. Approximately one week later, participants were presented with misinformation from the campaign and were asked to rate their level of acceptance. Results revealed a significant interaction between perceived digital media credibility and conspiracy beliefs in the prediction of misinformation acceptance. Participants who perceived digital media as highly credible tended to accept misinformation, regardless of their level of conspiracy beliefs, suggesting that perceptions of credibility alone may increase vulnerability. In contrast, among those who perceived digital media as less credible, individuals with stronger conspiracy beliefs reported significantly greater levels of misinformation acceptance than those with weaker conspiracy beliefs. These findings highlight the importance of interventions that address generalized trust in digital media and individuals’ underlying conspiracy beliefs. Theoretical and practical implications, as well as limitations and directions for future research, are discussed.
デジタルメディア上で陰謀論を含む,さまざまな誤情報(misinformation)が拡散し,その影響に対する懸念が高まっている(Pennycook & Rand, 2021; Vosoughi et al., 2018)。たとえば,2020年のアメリカ大統領選挙の際には選挙で不正があったという情報が拡散し連邦議会議事堂が襲撃されたり(中井,2022),COVID-19パンデミックの際には5Gの電波が新型コロナウイルスを拡散するという情報が拡散し欧州で5G基地局が破壊されたりした(日経新聞,2020)。直近の日本でも,2025年の参議院議員通常選挙(以下,参院選)期間中に,陰謀論や誤情報が拡散し,社会問題となった(読売新聞,2025)。本研究では当該選挙において,どのような人たちが陰謀論を含む誤情報を信じやすかったのかについて検討する。
陰謀論と陰謀論信奉傾向陰謀論とは,2人以上のアクターがある結果を達成するために秘密裡に協調しており,アクターの行為は公共の利益にかかわるにもかかわらず,公には知られていないという主張を指す(Douglas & Sutton, 2023)。典型的な陰謀論としては,たとえば,「ケネディ大統領の暗殺は,オズワルドの単独犯ではなく,ケネディ兄弟と対立していたCIA(あるいはFBI)が関与している」や「新型コロナウイルスは,製薬会社が利益を得るために作り出した」といったものが挙げられる。こうした例からもわかるように,陰謀論は出来事に対する説明を提供するという側面がある。
陰謀論を信奉する理由については,動機の観点から説明されてきた(Biddlestone et al., 2025; Douglas et al., 2017)。すなわち,認識論的(epistemic)動機や実存的(existential)動機,社会的動機が満たされない場合に,それを補うために陰謀論を信奉しやすくなると考えられている。たとえば,認識論的動機とは出来事を因果的に説明し,世界について正確に安定して理解しようとする動機である(Douglas et al., 2017)。出来事の因果的理解が不十分で,認識論的動機が満たされていない場合,陰謀論が因果的説明を提供していると感じられると陰謀論を信奉しやすくなると考えられている。
このように陰謀論を信奉することはある種の認識論的動機を満たす可能性はあるものの,別の認識論的動機を犠牲にしているという指摘がある。たとえば,陰謀論を信奉することはある出来事に対する不確実性を低減するかもしれないが,出来事を正確に理解することを妨げる。ただし,このような問題があることは,批判的・合理的に思考する動機や能力が低い人々にとっては明白ではない(Douglas et al., 2017)。このことは,陰謀論信奉傾向が高いほど,分析的思考に対する動機づけや能力が低いことを示唆している。実際,陰謀論信奉傾向が高い人ほど,認知的熟慮性(Frederick, 2005)が低かったり(Wagner-Egger et al., 2018),社会問題は簡単に解決できると考えたりする傾向がある(van Prooijen, 2017)。また,陰謀論信奉傾向が高い人ほど,直感的思考をしやすい(Lobato & Zimmerman, 2018)。さらに,結論を速く出す人の方がそうではない人に比べて,陰謀論信奉傾向が高い(Pytlik et al., 2020)。このように,陰謀論信奉傾向と分析的思考が負の関係にあることは,メタ分析でも支持されている(Biddlestone et al., 2025)。
このことと関連して,陰謀論信奉傾向が高いほど,誤情報を受容しやすいことが指摘されている(Hubeny et al., 2025)。誤情報とは,広義では,虚偽,不正確,またはミスリーディングな情報を指す(Pennycook & Rand, 2021)。それに対して陰謀論は,権力をもつアクターが自分たちの利益のために秘密裡に活動していると仮定した因果的説明で,ウォーターゲート事件のように真実であることもある。このように,陰謀論は誤情報の一つの形態とされるが(Connolly et al., 2019),誤情報と同じ概念ではない。Hubeny et al.(2025)は,陰謀論信奉傾向が高い人ほど,提示された情報が真か偽かを正確に識別することができず,誤情報を真と判断しやすいことを示している。また,Lewandowsky et al.(2013)は,陰謀論を信奉する傾向が高い人ほど,科学的知見(例. HIVウイルスはエイズの原因である)を受容しないことを示している。これらの結果は,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容しやすい可能性を示唆している。
本研究の視点本研究の目的は,以下の2つの点について検討することである。
一点目は,陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響について検討することである。上述のように,陰謀論信奉傾向が高いほど,誤情報を受容しやすい可能性が示唆されているが,こうした研究は本邦ではまだ多くない。そこで本研究ではこの点について検討する(仮説1:陰謀論信奉傾向の主効果)。
二点目は,陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響を,情報源に対する信頼が調整する効果について検討することである。情報源に対する信頼は,提示される情報に対する精査に影響を及ぼす。すなわち,情報源が信頼できない場合には提示された情報を精査する一方で,情報源が信頼できる場合には提示された情報を精査せず,その情報を信じやすい(Priester & Petty, 2003)。また,メディアを信頼しているほど,メディアが示した世論調査の結果を信じていることを示唆している(Tsfati, 2003)。こうした知見にもとづいて考えると,情報源を信頼する場合には情報を精査するプロセスが生起しにくいため,陰謀論信奉傾向に関係なく誤情報を受容しやすくなる可能性がある。その一方,情報源を信頼しない場合には情報を精査するプロセスが生起しやすいが,誤情報を受容する程度は陰謀論信奉傾向に依存する可能性がある。すなわち,情報源を信頼しない場合には陰謀論信奉傾向が高い人ほど誤情報の真偽判断が難しく,誤情報を受容する一方で,陰謀論信奉傾向が低い人ほど誤情報を受容しないと考えられる(Hubeny et al., 2025)。以上のことから,本研究では,情報源に対する信頼が,陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響を調整する可能性を検討する(仮説2:陰謀論信奉傾向×情報源に対する信頼の交互作用効果)。なお,誤情報はとくにデジタルメディアをつうじて発信されていることから(Pennycook & Rand, 2021; Vosoughi et al., 2018),本研究では情報源をデジタルメディアとし,デジタルメディアに対する信頼の効果を検討する。
分析対象者となったのは,294名(女性147名,平均年齢45.32歳)であった。
参院選公示後の2025年7月10日に1回目の調査をおこなった(調査にはFreeasyを利用した)。5,000名(20代から60代までの5世代,性別を均等割付し,各セル500名)から回答を得た。1回目の調査項目の中には国籍,DQS項目,真面目に回答することへの同意,期日前投票の有無を尋ねる項目があった。日本国籍を有しない人,DQS項目に違反した人,真面目に回答することに同意しなかった人,期日前投票をしていた人を2回目の調査対象者から除外した(期日前投票をした人を調査対象から除外したのは,投票をおこなう際に本研究で扱う誤情報を精査した可能性があるためである)。その結果,3,862名(女性1,908名,平均年齢45.32歳)が2回目の調査を依頼する対象となった。
参院選投票日前(1回目の調査の約1週間後)の2025年7月16日に2回目の調査をおこなった。上記の3,862名の中から300名(20代から60代までの5世代,性別を均等割付し,各セル30名)を募集し,300名に達した時点で調査を打ち切った。2回目の調査項目の中にもDQS項目があった。DQS項目に違反した人を除外し,最終的な分析対象者は上記の294名となった。
測度陰謀論信奉傾向陰謀論信奉傾向は,陰謀論的心性質問票(Conspiracy Mentality Questionnaire; Bruder et al., 2013)の日本語版(眞嶋,2024)を用いた。この尺度は,現実世界の出来事にかかわる具体的な陰謀論には言及しない,地理的,文化的,時間的文脈への依存度が低いという特徴がある(眞嶋,2024)。具体的には,この尺度は5項目から構成され,「私は,大衆には決して知らされてない,とても重大なことが世界で数多く起きていると思う」などの項目に対し,0から100%(10%間隔: 「0%: 絶対にない」から「100%: 確実にある」)で回答するものであった。
情報源に対する信頼情報源に対する信頼は,デジタルメディアに対する信頼を尋ねた。具体的には,「○○上にある情報は信頼できる」という項目(○○には,インターネット,X(Twitter),Instagram,TikTok,YouTubeが挿入された)に対して,それぞれ「1: 全くそう思わない」から「7: 非常にそう思う」で回答を求めた。
誤情報の受容参院選期間中に話題になった4つの誤情報をどの程度信じているかを尋ねた。具体的には,「期日前投票では不正が横行している」,「米国財務長官ベッセントが7月19日に来日するのは選挙不正を監視するためである」,「選択的夫婦別姓を導入すると,治安が悪化する」,「外国人による犯罪が急増している」であった。これらの項目に「1: 非常にそう思う」から「7: 全くそう思わない」で回答を求めた。分析の際には,得点が高いほど,誤情報を受容していることを意味するように得点を逆転した。
手続き1回目の調査では,まず,真面目に回答することの宣誓の可否,日本国籍を有しているかどうか,参院選の期日前投票をおこなったかどうかを尋ねた。次に情報源に対する信頼を尋ねた。その後,日本語版陰謀論的心性質問票(眞嶋,2024)に回答を求めた。この他,別の研究の目的,あるいはフィラー項目として,統治の不安尺度(池田,2019)や参院選での支持政党(与党,あるいは野党支持)などを尋ねた。
2回目の調査は1回目の調査の約1週間後に実施し,参院選期間中に話題になっていた4つの誤情報をどの程度信じているかを尋ねた。最後にデブリーフィングをおこなった。
陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容すること(仮説1:陰謀論信奉傾向の主効果),この傾向はデジタルメディアに対する信頼によって調整されること(仮説2:陰謀論信奉傾向×デジタルメディア信頼の交互作用効果)を検討するために以下のような分析をおこなった。分析にはHAD18.0(清水,2016),IBM SPSS(ver.28.0.1.0)を用いた。これらのソフト間での分析結果は一致していた。
最初に,陰謀論信奉傾向,デジタルメディア信頼,誤情報の受容にかんする項目をそれぞれ合算して平均値を求めた。これらの変数の平均値や変数間の相関係数は,Table 1に示す。
| 陰謀論信奉傾向 | デジタルメディア信頼 | 誤情報の受容 | |
|---|---|---|---|
| 陰謀論信奉傾向 | |||
| デジタルメディア信頼 | −.05 | ||
| [−.17, .06] | |||
| 誤情報の受容 | .27** | .24** | |
| [.16, .38] | [.12, .34] | ||
| M | 56.84 | 3.00 | 3.29 |
| SD | 18.90 | 1.22 | 1.39 |
| ω | .90 | .94 | .81 |
注)[ ]内は95%信頼区間
**p<.001
上記の仮説を検討するため,陰謀論信奉傾向,デジタルメディア信頼,およびその交互作用項を説明変数,誤情報を受容する程度を目的変数として重回帰分析を実施した。その結果,まず予測した陰謀論信奉傾向の効果がみられ(β=.270, SE=.004, t(290)=5.008, p<.001, 95%CI[.162, .376]),陰謀論を信奉する傾向が高い人ほど誤情報を受容していた。この結果は,仮説1を支持するものであった。また,デジタルメディア信頼の効果がみられ(β=.222, SE=.062, t(290)=4.073, p<.001, 95%CI[.114, .330]),デジタルメディアを信頼している人ほど誤情報を受容していた。さらに予測した陰謀論信奉傾向×デジタルメディア信頼の交互作用効果がみられた(β=−.167, SE=.003, t(290)=−3.053, p=.002, 95%CI[−.274, −.058])。そこで単純傾斜検定をおこなったところ,デジタルメディア信頼高群(+1SD)では陰謀論信奉傾向の効果はみられなかった(β=.13, SE=.005, t(290)=1.759, p=.080, 95%CI[−.001, .020])。一方,デジタルメディア信頼低群(−1SD)では陰謀論信奉傾向の効果がみられ(β=.411, SE=.005, t(290)=6.074, p<.001, 95%CI[.020, .040]),陰謀論を信奉する傾向が高い人ほど誤情報を受容していた。この結果は,仮説2を支持するものであった(Figure 1, Appendix 1)。

この結果について,G*Power(Faul et al., 2009)を用いて事後的に感度分析をおこなった(F tests, Linear multiple regression: Fixed model, R2 increase; 1−β=.80, α=.05, n=294, Number of tested predictors=1, Total number of predictors=3)。その結果,本研究のサンプル数で検出可能な最小効果量はf2=.027であった。交互作用項を加えることによるR2の増分はΔR2=.027で(Appendix 1),これはf2=.032に相当した。このことから,本研究のサンプル数は十分であったと判断した。
なお,誤情報の受容にかんする4項目は,選挙不正という典型的な陰謀論的内容の2項目と,そうではない2項目で構成されていた。これらの項目を別々に,上記と同様の分析をおこなったところ,どちらの項目群でも結果は変わらず,上記と同様の結果が得られた(Appendix 2)。
本研究は,陰謀論信奉傾向と情報源に対する信頼が誤情報の受容に及ぼす影響を検討した。その結果,陰謀論を信奉する傾向が高い人ほど誤情報を受容しやすく,また,この傾向は情報源に対する信頼が調整していた。すなわち,情報源に対する信頼が高い場合には陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響は有意ではなく,情報源に対する信頼が低い場合には陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響は有意で,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容していた。これらの結果は,本研究の仮説を支持するものであった。
本研究の意義として,第一に,陰謀論信奉傾向が高いほど陰謀論だけではなく,誤情報も受容しやすいことを示したことが挙げられる。これまでの研究でも,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容しやすいことが示されていたが(Hubeny et al., 2025),本研究の結果はそうした研究と合致するものであった。ただし,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を受容しやすいという結果については,誤情報の得点(推定値)が中点よりも低く,あくまで相対的なものであることには留意が必要である。
本研究の第二の意義として,陰謀論信奉傾向が誤情報の受容に及ぼす影響を,情報源に対する信頼が調整することを示したことが挙げられる。すなわち,本研究では,デジタルメディアへの信頼が高い場合,陰謀論信奉傾向に関係なく,誤情報を受容する傾向がみられた。現代社会は,デジタルメディアからさまざまな情報を容易に入手できる。しかし,そこから入手できる情報の正確性はさまざまで,誤情報が提示されることもある。したがって,誤情報を受容しないためにはデジタルメディアを無条件に信頼するのではなく,情報の発信元などにも注意を払うことが有用であろう。
このように,本研究には一定の意義が認められるが,限界もある。第一に,本研究はオンラインで実施されており,そうした回答環境が本研究の結果に影響を与えていた可能性がある。オンライン環境は参加者が回答をする際,努力を最小化しやすい(三浦・小林,2018)。本研究はDQS項目を設けて,努力を払わない参加者は除外するように工夫をしていたものの,それでも参加者が全般的に精査せずに回答をしていた可能性は否定できない。そうした環境によって,陰謀論信奉傾向やデジタルメディアに対する信頼の効果が検出されやすかったかもしれない。そのため,たとえば,対面でこうした研究を実施した場合でも本研究の結果が再現できるかどうか検討する必要がある。
第二に,本研究では1回目調査と2回目の調査ではラベルの向きが異なっていた。すなわち,1回目の調査では得点が高いほど同意することを意味する一方で,2回目の調査では同意しないことを意味するようになっていた。このような場合,2回目の回答の仕方の方が高得点化する可能性があることが指摘されている(Chyung et al., 2018)。このことを前提とすると,本研究の結果は,全体的に誤情報を受容しない方向に回答にバイアスがかかっていた可能性が考えられる。この点について検討するためには,ラベルの向きを変更する必要がある。
第三に,本研究では陰謀論信奉傾向が高いほど,分析的思考に対する動機づけや能力が低いという先行研究の知見(Biddlestone et al., 2025)を前提に,陰謀論信奉傾向と誤情報の受容の関係について検討した。また,情報源を信頼するほど提示された情報は精査しないという先行研究の知見(Priester & Petty, 2003)を前提に,デジタルメディアに対する信頼が,陰謀論信奉傾向と誤情報の受容の関係を調整することを検討した。しかし,本研究では,分析的思考や情報の精査について直接測定しておらず,本研究で想定していたプロセスが実際に生起したかどうか定かではない。そのため,これらの変数を実験的に操作したり,測定したりして,本研究で想定していたプロセスについて検証する必要があるだろう。
第四に,本研究で提示した誤情報はベイレンスと交絡しているという問題がある。すなわち,今回用いた誤情報はすべて社会的にネガティブなインパクトがある情報であり,誤情報を受容しやすかったのではなく,ネガティブな情報を受容しやすかったと解釈することもできる。したがって,本研究の仮説をより厳密に検証するためには,ポジティブな誤情報(例. 物価は安定している)も提示して検証する必要があるだろう。
第五に,誤情報の提示方法の限界がある。本研究では参院選期間中にデジタルメディア上で実際に流れた誤情報を提示したが,提示は調査会社が提供するプラットフォーム上であった。すなわち,参加者が本研究で誤情報に接触した状況と,日常的にSNSなどのデジタルメディア上で接触する状況は,視覚的にも同じではない。そのため,本研究が想定するようなプロセスをより厳密に検討するためには,たとえば日常的に使用しているSNSのタイムラインを模した形で提示することが望ましいだろう。
最後に今後の展望について述べる。本研究の結果は,情報源を信頼していない,すなわち,情報を精査する場合でも,陰謀論信奉傾向が高いほど誤情報を信じやすいことが示唆している。そのため,陰謀論信奉傾向をどのように抑制するか,介入方略を考えることは重要である。このことと関連して,たとえば,Lantian et al.(2021)は,客観的な批判的思考能力が高いほど,陰謀論信奉傾向が低いことを示唆している。同様に,Dyer & Hall(2019)は,講義をつうじて批判的思考を養成すると,さまざまな陰謀論を信じにくくなることを示している。これらの結果は,批判的思考能力を高めることが陰謀論信奉傾向を抑制する可能性を示唆している。
ただし,陰謀論信奉傾向が高い人ほど,自分の能力を過信する傾向がある(Vranic et al., 2022)ことには注意が必要であろう。たとえば,Vranic et al.(2022)は,三段論法にかんする問題で実際の成績よりも成績が良いと過信していた人ほど,COVID-19に関連した陰謀論を信奉する傾向が高いことを示している。また,Pummerer et al.(2026)は,知識にかんする問題において,自分の知識の正確性を適切に判断できない人ほど,すなわち,間違った知識をもっているにもかかわらず自信があったり,正しい知識をもっているにもかかわらず自信がない人ほど,陰謀論信奉傾向が高いことを示している。これらの結果は,陰謀論信奉傾向が高い人は,自分の理解が正しいか,間違っているかを確認しにくい傾向があることを示唆している。このことを前提に考えると,陰謀論信奉傾向が高い人の批判的思考能力を高めようとすることは容易ではない可能性もある。
本研究は,2025年の参院選期間中に実際にデジタルメディア上で流れた誤情報を用いて,有権者に対して陰謀論信奉傾向とデジタルメディアに対する信頼が誤情報の受容に及ぼす影響を検討した。その結果,陰謀論信奉傾向が低く,デジタルメディアに対する信頼が低い人がとりわけ誤情報を受容していなかった。選挙期間中に流れる誤情報は選挙結果に影響を与える可能性があると同時に,現状では誤情報が流れないようにコントロールすることは難しいように思われる。そのため,誤情報を受容しにくくさせる方略を開発することが求められる。
1) 本研究は所属機関における倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号2025-05)。
2) 本論文は審査の過程で多くの貴重なご指摘,ご提案を主査,副査の先生方からいただきました。記して感謝申し上げます。
本論文にかんして開示すべき利益相反事項はない。