日本蚕糸学会 学術講演会 講演要旨集
日本蚕糸学会第72回学術講演会
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昆虫細胞のN-グリコシル化経路改変を目的とした糖鎖構造の比較解析
長屋 昌宏大脇 崇志小林 淳吉村 哲郎
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p. 49

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抄録

鱗翅目昆虫やショウジョウバエ由来の培養細胞を用いたタンパク質生産系は優れた生産効率とN-グリコシル化特性を有するため、組換え糖タンパク質生産に広く利用されてきた。しかし、一般的に昆虫細胞ではシアル酸などを含む複合型糖鎖の付加が起こらないため、ワクチンなど医薬用有用糖タンパク質生産への応用は敬遠されてきた。多くの研究から、昆虫細胞による複合型糖鎖の付加には、昆虫特有のN-グリコシル化経路の改変が必要不可欠であると認識されるようになった。このような代謝工学的改変は、ショウジョウバエの膨大なゲノム情報の整理と活用により効率よく達成できると期待され、また、その成果を応用すれば、バキュロウイルス発現系のN-グリコシル化経路の改良も可能になると予想される。そこで我々はこれまで実験に使用してきた5種類の鱗翅目昆虫細胞(BmN4、Sf9、High Five、SpIm及びAnPe)に加え、ショウジョウバエS2細胞でもカイコ前胸腺刺激ホルモン(PTTH)を生産させ、付加したN型糖鎖の構造を比較分析した。レクチンブロット分析では、各鱗翅目昆虫細胞で生産されたPTTHの糖鎖は、いずれも末端マンノースとα1, 6-フコースの枝分れを有する構造が主体であり、High Five細胞では、さらに、抗-HRP血清を用いたウエスタンブロット分析から、α1, 3-フコースの枝分れを有する糖鎖が比較的多いことが示唆されたのに対し、S2細胞で生産されたPTTHもα1, 6-フコースの枝分れの程度は低いものの末端マンノースを有する糖鎖が主体であることが判明し、N型糖鎖に類似性があることが確認された。以上の結果から、鱗翅目昆虫細胞とショウジョウバエ細胞のN-グリコシル化経路および関与する遺伝子群は共通性が高いと考察されたので、ショウジョウバエS2細胞をモデルとした昆虫細胞のN-グリコシル化経路の改変に役立つ知見を集積するために、さらに詳細な糖鎖の構造比較を行っている。

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© 2002 社団法人 日本蚕糸学会
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