原子層エッチングのためには,エッチャントの表面吸着過程と基板との反応過程を完全に分離し,さらに,おのおのの過程における吸着量や反応量が熱力学的飽和条件で自己制限されるようにすることが不可欠である。著者らは,高清浄雰囲気下での塩素吸着と低エネルギーイオン照射を交互に繰返すことにより,Siの原子層エッチングを,自己制限型にかつ方向性をもたせて実現した。Si(100),(111),(110),(211)面について調べた結果,1サイクル当たりのエッチング量は,表面の塩素吸着量とともに増加し各面方位ともそれぞれの1原子層厚に簡単な分数を掛けた値に飽和することがわかった。また,塩素分子のみを供給した場合,それらの飽和値は,塩素ラジカルの供給を含む場合の1/2倍になる。さらに,Si表面への塩素のLangmuir型吸着を仮定すると1サイクル当たりのエッチング量が定量的に説明でき,飽和エッチング量は各面方位の表面ボンド構造と塩素の吸着サイトとに単純な対応関係がある。本稿では,これら低エネルギーイオン照射によるSiの原子層エッチングの著者らの研究について解説する。