非線形性の強い化学反応と拡散が共役した反応拡散系には,多様な空間パターンが出現する。この中でも,チューリング構造と呼ばれる時間に依らない空間パターンは,生物の模様との類似性から古くから注目されていた。チューリング構造が実際に化学反応で実現されたのは,チューリングが数理モデルを提案してから実に40年後のことである。この間に,反応拡散系の数理モデルの研究や化学パターンの研究は飛躍的に進歩した。チューリング構造は反応拡散系に現われる安定な波動解の特別な場合に過ぎない。最近ではバクテリアのように,分裂し増殖する化学パターンが数理モデルから予測され,また実際に観測されている。一方ではこのような数理モデルと実験のきれいな対応関係は,白金単結晶表面上での化学反応でも同様に見いだされている。自己形成・自己修復する化学パターンはダイナミックな生命現象のアナロジーを表面科学の領域へ適用できる格好の例であろう。