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Print ISSN : 0289-6540
リアクティブシステム仕様を実現可能にするための環境制約の抽出
萩原 茂樹北村 佑介島川 昌也関戸 聡米崎 直樹
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2011 年 28 巻 3 号 p. 3_132-3_146

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抄録

リアクティブシステムとは,環境からの要求に対して,適切なタイミングで応答を返すオープンシステムである.そのようなリアクティブシステムの仕様には,実現可能性,即ち「環境からどのようなタイミングでどのような要求が生起しても,仕様を満たすように応答できる実現システムが存在する」という性質が強く求められる.もし仕様が実現不能であることが分かれば,その仕様の欠陥を特定したい.仕様が実現不能となる原因は,仕様記述者がすべての可能な環境の振る舞いを予め考えることが困難であるためである.別の見方をすると,環境の振る舞いは制御できないにもかかわらず,実現不能の仕様は環境の振る舞いに対して暗黙の前提条件をつけてしまう.その前提条件は仕様の欠陥原因を暗示するため,前提条件を直感的に理解しやすい表現で得ることができれば,欠陥原因を理解しやすくなる.
そこで本研究では,リアクティブシステム仕様から,それが実現不能である場合,その結果として生じた,暗黙の環境の振る舞い制約を式の形で導出する手続きを提案する.本研究では,実現可能性の代わりに,その必要条件である強充足可能性を用いる.なぜなら,実際の多くの実現不能な仕様は強充足不能であり,解析に必要な計算コストが,実現可能性解析に比べ少ないためである.提案手続きでは,リアクティブシステムの動作仕様を表現したBüchiオートマトンから,線形時間論理式で表現された制約式を導出する.導出される制約式の形を,時間演算子が2つ連続して現れる単純で直感的に理解できる2種類の形に限定する.提案手続きの正当性として,手続きの停止性と,導出される制約式の健全性と最弱性を証明する.さらに本手続きの時間計算量について述べ,本手続きの有用性についても議論する.

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© 日本ソフトウェア科学会 2011
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