日本薬物動態学会年会講演要旨集
第18回日本薬物動態学会年会
セッションID: F-8
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ラット、イヌおよびヒトにおける新規キサンチンオキシダーゼ阻害薬 Y-700 のマスバランス試験
*山田 一磨呂
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抄録

【緒言】  現在、痛風高尿酸血症治療薬としては、尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロンやプロベネシド及び尿酸産生抑制薬であるアロプリノールが臨床応用されている。アロプリノールは、その活性代謝物オキシプリノールとともにキサンチンオキシダーゼ(XO)活性を阻害し血清尿酸値を低下させる。オキシプリノールのt1/2は30時間前後であり且つ腎臓から排泄されるため、腎機能低下患者においては血漿中濃度の著しい上昇を認め、皮疹やStevens-Johnson症候群等の副作用が報告されている。したがって、アロプリノールは患者の腎機能に応じた減量等の慎重投与がなされている。アロプリノールの薬物治療の問題点を改善するために、現在、非腎排泄型の新規XO阻害薬 1-(3-Cyano-4-neopentyloxyphenyl) pyrazole-4-carboxylic acid (Y-700) を開発中である。1)  今回 14C標識Y-700 をラット、イヌおよびヒトに経口投与したときの薬物動態について検討したので報告する。 【試験方法】 1. 動物試験:雄性SDラット(n=4)および雄性ビーグル犬(n=3)を用いた。14C標識Y-700(放射化学的純度 97.1%、比放射能 0.505 MBq/mg)を単回経口投与(1 mg/kg)したときの血漿、尿および糞中試料を測定した。次いで、雄性SDラットおよび有色ラットを用いて組織内分布を検討した。 2. ヒト試験:健常成人男子(n=6)に14C標識Y-700(放射化学的純度 99%以上、比放射能 0.608 MBq/mg)を単回経口投与(20 mg)したときの血漿、尿および糞中試料を測定した。試験は英国で実施した。 3. 試料測定:試料中の放射能は、液体シンチレーションカウンターあるいは放射能検出器を備えたHPLCを用いて測定した。 【結果および考察】 ? ラットおよびイヌにおけるマスバランス試験  ラットにおける投与後120時間までの尿中および糞中排泄率は、それぞれ21.8%および79.8%であった。イヌにおける投与後120時間までの尿中および糞中排泄率は、それぞれ2.9%および96.3%であった。いずれの動物においても主排泄経路は糞中であった。未変化体の尿中排泄率はラットで1.1%、イヌは検出限界未満であった。いずれの動物においても血漿中には未変化体のみ存在し、代謝物は検出されなかった。 ? 分布試験 有色ラットにおける組織内濃度は、肝臓>腎臓>血漿>>>眼球の順であり、SDラットと差は認められなかった。眼球の放射能濃度は、血漿の1/10 以下であった。 ? 投与放射能の算出と規制当局への対応 分布試験の成績を National Radiological Protection Board (NRPB)に提出して投与放射能量を算出した。その結果、ca 3 MBq (ca 85 Ci)と計算された。被験者一人当たりの被爆量は500 Svであり、International Commission on Radiological Protection’ (ICRP) Guidelines の Category IIa 試験(0.1-1 mSv)に分類された。Investigator’s Brochure等の資料をAdministration of Radioactive Substances Advisory Committee (ARSAC)に申請してマスバランス試験の許可を得た。ARSAC承認からマスバランス試験終了までの期間は3ヶ月間であった。 ? ヒトにおけるマスバランス試験 血漿中放射能濃度の tmaxは 1.0-4.0 時間、t1/2は14.4-33.6時間であった。投与後192時間までの尿中および糞中排泄率は、それぞれ45.2%および50.9%であった。投与後24時間までの血漿中には未変化体のみが検出された。尿中には主に未変化体のグルクロナイドが排泄され(22.1% of the dose)、未変化体は検出されなかった。糞中には未変化体が主に排泄された(29.8% of the dose)。 ? 単回投与試験(非標識体)2) 健常成人男子(Y-700 n=7, placebo n=3)に Y-700 を経口投与(5-200 mg)したときの血漿中未変化体濃度は用量依存的に増加した。投与後 1-2時間に最高血漿中濃度を示し、t1/2は20.3-24.9時間であった。CL/F、Vss/FおよびCLRは、それぞれ11.82-23.88 mL/min、 19.16-41.74 Lおよび0.04-0.12 mL/minであった。血清尿酸値は用量依存的に低下し、その作用は強力且つ持続的であった。 痛風患者の約30% に何らかの腎障害を認め、さらに、腎機能が低下すると高尿酸血症が高頻度に出現する。前述のように、アロプリノールは患者の腎機能に応じた減量等の慎重投与がなされている。マスバランス試験の結果、ラット、イヌのみならずヒトにおいても、Y-700は、「非腎排泄型」の薬物であることが明らかとなった。また、ヒト特有の代謝物も検出されなかった。Y-700はアロプリノールとは異なり、腎機能低下患者でも投与量を調整することなく安定した尿酸低下作用を示す可能性が示唆された

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© 2003 日本薬物動態学会
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