2012 年 34 巻 3 号 p. 177-181
腹直筋鞘血腫(RSH)は急性腹症様の症状で発症する稀な病態である.抗凝固療法中の患者に発生しやすく,診断と治療の遅れが致命的となりうる.今回,左内頸動脈閉塞による全失語症を後遺した74歳女性患者が1カ月後に本病態による出血性ショックを来したため報告する.理学所見と腹部骨盤CTに基づいて確定診断を行い,輸血と全身管理により発症3日後には循環動態が安定した.本例の如く神経学的異常により自覚症状を訴えられない脳卒中患者の診療においては,RSHは特に銘記すべき病態と考えられる.