後下小脳動脈内側枝(mPICA)領域梗塞の報告は少ないため,今回,その臨床像を検討した.対象は,頭部CT・MRIにてmPICA領域:全体に梗塞巣を確認した3症例(男性2例,女性1例)である.各症例の臨床症候,画像所見,危険因子,血管造影所見,心エコー所見を検討した.梗塞は,片側2例,両側1例であった.臨床症候では,3例共,めまい・悪心・嘔吐・側方突進現象・開脚歩行・つぎ足歩行不可・病巣側へのロンベルグ徴候をそれぞれ呈し,そのうち2例では眼振も認められた.構音障害・病巣側の協調運動障害は2例にみられたが,それらはあってもごく軽度であった.危険因子では,僧帽弁狭窄症を伴う心房細動(この例は高血圧も合併),高脂血症をそれぞれ1例に認めたが,残る1例には年齢以外に明らかな危険因子を認めなかった.mPICA梗塞の臨床症候は,四肢運動失調が軽いのに対し起立・歩行障害が目立ち,末梢前庭疾患に酷似しているため注意が必要である.