近年の脳塞栓症剖検例30例の心と動脈系を中心に肉眼的, 組織学的に検索し, 塞栓源を明らかにしたところ, 心源性塞栓症16例, 動脈源性塞栓症6例, いずれの可能性もあり決めかねるもの5例, 不明3例であった.心源性塞栓症の内訳は, 心内膜炎や心筋梗塞など器質性病変に基づく9例と器質性病変はないが心房細動を伴い, 左房, 左心耳内に血栓を証明した7例とであり, 60歳末満の大部分 (10例中7例) は心源性塞栓症であった.動脈源性塞栓症は, 粥状硬化を基盤とする血栓に由来し, 生前の高血圧既往の頻度が高かった.動脈源性塞栓源になりうる潰瘍ないし血栓を有する粥状硬化巣の分布と出現頻度をみると, 従来強調されてきた内頚動脈起始部のみならず, 大動脈や腕頭, 総頚, 鎖骨下, 椎骨の各動脈の起始部にも高頻度に認められた.また生前の血液ヘマトクリット値を調べると, 調査しえた17例中14例 (82%) は40%以上, 6例 (35%) は50%以上の高い値を示していた.