ウイルスの膜融合蛋白の大多数は2つのクラスに分類できる.クラスIに属するインフルエンザウイルスの膜融合蛋白(HA)は酸性pHで構造変化を起こして膜融合を媒介する.X線結晶構造解析の結果,HAの構造変化前の(prefusion)構造が1981年に,構造変化後の(postfusion)構造が1994年に明らかになり,これらに基づいて(HAの構造変化で媒介される)膜融合のモデルが提示されている.クラスIIに属するフラビウイルスのEやアルファウイルスのE1も酸性pHで膜融合を媒介する膜融合蛋白である.そのprefusion 構造はHAとはかなり異なるが,postfusion構造同士には類似性があることが昨年明らかになった.一方,パラミクソウイルスのFはクラスIの膜融合蛋白であるが,その構造変化には受容体結合蛋白との相互作用が必要であること,中性pHで膜融合を媒介するのでウイルス感染細胞と隣接する非感染細胞との融合が起こることが特徴である.近年,Fや受容体結合蛋白HNの結晶構造が明らかになったことにより,Fによる膜融合の分子機構の研究が促進されつつある.