ウイルス
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総説
RD-114物語:ネコの移動の歴史を探るレトロウイルス
宮沢 孝幸下出 紗弓中川 草
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2016 年 66 巻 1 号 p. 21-30

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抄録

 ネコ(Felis catus)の内在性レトロウイルスであるRD-114ウイルスは,1971年にヒト横紋筋肉腫細胞から発見されたガンマレトロウイルスである.RD-114ウイルスは,およそ数百万年前に地中海沿岸でヒヒ属の祖先動物の内在性レトロウイルスが,ネコ属の祖先動物に感染し内在化,その後,数百万年もの間,感染性の内在性レトロウイルスとして維持されてきたと考えられてきた.RD-114関連ウイルスのネコゲノムの座位を精査した結果,感染性のRD-114ウイルスをネコはもっておらず,感染性をもたない内在性レトロウイルス(RDRSと命名)の組換えによって感染性が復活したRD-114ウイルスが生じることがわかった.さらに,感染性が復活しうるタイプのRDRS(新しいRDRSと命名)は,ネコが家畜化されたおよそ1万年前以降にネコのゲノムに侵入したと考えられた.新しいRDRSの保有率は,欧米とアジアのネコの間で大きく異なり,染色体上の位置もネコの品種によって異なった.本研究によって,これまで不明であった家畜化後のイエネコの移動経路を明らかにするための指標として,RDRSが有用であることがわかった.

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© 2016 日本ウイルス学会
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