2006 年 15 巻 5 号 p. 513-516
交通外傷による腹部大動脈閉塞の1例を経験した. 症例は72歳, 男性で, 軽トラックを運転中に対向車と衝突した. 腹部にシートベルトによると思われる斑状皮下出血を認めた. 両鼠径部以下の動脈拍動が消失していたため血管外傷を疑われ, 腹部造影CTにて腹部大動脈閉塞と診断された. 開腹したところ, 消化管穿孔や実質臓器の損傷は認めなかった. 腎動脈下腹部大動脈から両側総腸骨動脈まで大動脈解離を生じ, 右腸骨動脈は閉塞していた. Fogartyカテーテルで末梢側の血栓除去を行った後, Yグラフト置換術と下腸間膜動脈の再建を行った. 術後造影CTで解離腔は消失していた. 鈍的腹部外傷後の大動脈閉塞は稀な疾患であるが, 腹部打撲の際には考慮すべきである.