日本血管外科学会雑誌
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手術の工夫
急性大動脈解離緊急手術における止血の工夫 ─新しいGRF用クリップとフェルト補強─
菊地 慶太山本 平丹原 圭一今井 健介金築 一摩山岡 啓信岩村 泰斉藤 洋輔佐川 直彦山崎 元成
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2008 年 17 巻 7 号 p. 695-699

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抄録

【はじめに】急性大動脈解離における緊急手術では,偽腔閉鎖を目的としてGRF(gelatin-resorcin-formalin)glueと,新しく開発したGRF用クリップを用いている.また大動脈の縫合部補強には内外 2 層のフェルトストリップを用いるが,止血のための工夫を行っている.本法を用いた急性大動脈解離の手術結果を報告する.【方法】対象は,2005年 2 月~2006年 1 月の間に,Stanford A型急性大動脈解離と診断され島根大学医学部にて緊急手術を行った,連続した急性大動脈解離 6 例を対象とした.平均年齢75.2 ± 6.0歳.方法:偽腔内にGRF glueを薄く塗り,GRFクリップで把持したまま内側と外側にフェルトをおき可及的にマットレス縫合を行う.5 分後にクリップを抜き取り糸を結紮する.GRFクリップ:クリップは洗濯ばさみの先に小さい櫛を 2 枚重ねた形状ものを作成した.その特徴は,櫛状の間からフェルト縫合を同時に行えることである.フェルトの工夫:人工血管吻合後に偽腔の減圧を目的として,外側のフェルトの縫合線より大動脈側にマットレス縫合をおきフェルトを締め付ける.【結果】上行置換術を 2 例,弓部置換術 + elephant trunk法を 3 例,上行弓部置換術 + elephant trunk法 + 1 枝冠動脈バイパス術(CABG)を 1 例に施行した.平均手術時間は323.0 ± 43.0分,平均術中出血量は750.0 ± 596.5cc,平均術中輸血量はMAP 7.8 ± 5.9単位,凍結血漿7.0 ± 3.9単位,血小板8.3 ± 4.1単位.手術死亡は腸管虚血による 1 例であった.術中止血に難渋する症例はなく,術後に止血のための再開胸手術は必要としなかった.【まとめ】縫合操作を同時に行える新しいGRF glueクリップと,外側に巻いたフェルトストリップを締め付ける本法は,急性大動脈解離緊急手術における極めて有用な止血手段であった.(日血外会誌 17:695–699,2008)

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