2010 年 19 巻 5 号 p. 639-642
患者は61歳の男性で,左総腸骨動脈閉塞に対して人工血管を用いてFFバイパスを行った.術後2週間目患者は左鼠径部創部からの排膿をきたし,MRSAが検出された.創部はデブリドマンと連日洗浄を行った.感染鎮静後に人工血管切除術を行ったが,左下腿の急性虚血症状をきたした.血行再建術は大伏在静脈グラフトを使用し,中枢側は右外腸骨動脈に吻合しグラフトは腹膜前脂肪織内を通過させた.末梢側吻合は左外腸骨動脈から左総大腿動脈に至る5 cmものon-lay patch吻合となった.患者は3年後の現在,感染の再発なくバイパスは健全である.FFバイパス感染に対する治療法は,常に難しい問題である.大伏在静脈グラフトを用いて腹膜前脂肪織内を通過させるバイパスは,選択肢の一つである.外腸骨動脈から総大腿動脈に至る長いon-lay patch吻合は,股関節で静脈グラフトが屈曲する危険性を軽減することができる.