2013 年 22 巻 4 号 p. 703-707
要 旨:【目的】炎症性腹部大動脈瘤では周囲組織との癒着が強く,開腹による人工血管置換術は死亡率や合併症発生率が高いとされ,開腹・剥離操作を要しないステントグラフト治療は有用な選択肢である.炎症性腹部大動脈瘤に対し実施した血管内治療の成績を報告する.【方法】2007年6月から2011年11月の間で,172例の腹部大動脈瘤・総腸骨動脈瘤に対しステントグラフト内挿術を施行し,そのうちの9例(5.2%)は炎症性腹部大動脈瘤と考えられた.炎症性動脈瘤の診断は,術前の臨床症状とCTによる画像評価をもとに行った.【結果】全例でステントグラフト内挿術に成功,周術期の死亡や合併症の発生はなかった.遠隔期の死亡は1例で膵癌の進展によるものであった.術後の経過観察期間中に,通常の動脈瘤に比べ早期に瘤径の退縮が得られた.開腹手術への移行はなかった.2例では腸腰筋や腰椎椎体への炎症波及が認められたが,いずれも保存的治療で軽快した.また別の1例では術後3年で総腸骨動脈周囲に炎症が再燃し,ステロイド治療を要した.【結論】炎症性腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療は安全で有効な手段であると考えられた.しかし炎症の波及または退縮の機序は不明な点が多く,慎重な経過観察が重要である.