要旨:77 歳男性.急性A 型大動脈解離を認め,術前心タンポナーデに伴うショック状態であった.造影CT では,偽腔開存の大動脈解離を認め腹部分枝まで解離が及んでいた.緊急上行大動脈置換術を施行し,術中腸管虚血を疑う所見なく手術を終了した.術後10 時間で下血を認め緊急試験開腹手術を施行した.小腸に虚血を認めず,S 状結腸壊死を認め結腸切除を施行した.帰室後よりアシドーシスの進行と膀胱内圧軽度高値を認め,再度腸管虚血を疑い,2 回目の緊急試験開腹術を施行した.広範な小腸虚血を認めたが,切除範囲が広く切除を断念した.しかし保存的治療で腸管虚血・全身状態の改善を認め退院となった.可逆的な腸管虚血の診断は難しいが,広範な虚血のため虚血部腸管が切除できない症例でもその後虚血が回復することがあり,腸管虚血に対し試験開腹による腹腔内圧の減圧効果が治療に奏功した可能性がある.