2015 年 24 巻 6 号 p. 915-919
要旨:鈍的胸部外傷による動脈損傷は大動脈に多く,弓部分枝に生じることは少ない.またその治療方針は状況によってさまざまである.症例は左肺全摘後の68 歳男性.交通外傷で救急搬送され,CT で胸骨骨折,腕頭動脈限局解離,縦隔血腫,右肺挫傷を認めたが,造影剤の血管外への漏出がなく,全身状態が安定していたため初期治療として保存的降圧療法を選択した.第6 病日にD-dimer の再上昇を認めたため,緊急CT と血管造影を行ったところ,腕頭動脈および右鎖骨下動脈に仮性瘤を認めた.破裂の危険を考慮して,緊急で上行大動脈から右総頸動脈と右腋窩動脈への2 本のバイパス術と仮性瘤結紮術を施行し,その後軽快退院した.外傷性胸部動脈損傷の初期治療は患者の全身状態を考慮して選択されるべきであり,保存治療を選択した場合,頻回のCT 検査と採血検査を含めた緻密な経過観察を行い,急な変化が生じた場合,迅速に必要な加療を進める必要がある.