2015 年 24 巻 7 号 p. 981-985
要旨:症例は65 歳,男性.以前より慢性心房細動を指摘されていた.大腸ポリープの切除のため4日前よりワルファリンカリウムを休薬されていたが,腹部全体の突然の疼痛を主訴に発症7 時間後に救急搬送された.腹部造影CT では上腸間膜動脈の起始部が血栓閉塞しており,血栓閉塞部より末梢は造影されていた.腸管虚血の評価と血行再建術を目的に緊急開腹術を施行した.術中所見で腸管の壊死は認めなかった.上腸間膜動脈の中枢は石灰化を伴う動脈硬化性病変が強く,血栓除去用のカテーテルは通過できなかった.このため大伏在静脈を用いて,腹部大動脈から上腸間膜動脈へのバイパス術を行った.術後経過は良好で術後第16 病日に軽快退院となった.本症例は腸管壊死を認めず,バイパス術による血行再建のみで救命しえた稀有な1 例であった.