下水道協会誌
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実務論文
下水試料に対する大腸菌定量手法の評価と下水処理場における大腸菌と大腸菌群の実態調査
諏訪 守李 善太重村 浩之
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2019 年 56 巻 676 号 p. 85-92

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抄録

 ふん便汚染指標として大腸菌群が従来適用されてきたが,より指標性が高い大腸菌指標への移行が進んでいる.大腸菌数への指標変更にあたっては,定量評価を行うための測定法を考慮しなければならないが,複数の特定酵素基質培地が市販され培地組成が製造元により若干異なることや,下水試料への適用にあたっては定量値の信頼性を確保するために,基本的なデータの取得が必要であると考えられる.また,大腸菌指標への移行にあたっては,その存在状況を明らかにするとともに,長い間蓄積されてきた従来指標との関連性の評価が必要である.

 本論文では,下水試料に適した大腸菌の測定法を考慮するために,複数の特定酵素基質培地を使用し,その定量値の比較,定量値へ及ぼす影響因子や変動係数および検出コロニーの同定を行い,各々評価した.さらには,様々な下水処理法による全国54ヵ所の下水処理場を対象とした実態調査により大腸菌,大腸菌群の存在状況を把握し関連性を明らかにした.

 その結果,試料中の大腸菌濃度の違いにより培地間で定量値に差異が生じることや,変動係数に影響を及ぼすことが明らかとなった.放流水などの低濃度試料に対する改善策としては,検水量を増加させることで変動係数を低下させられ安定した定量値が得られるものと考えられた.典型的なコロニーの大腸菌の陽性率は90~100%であり,培地が異なることで偽陽性の割合に若干の違いが生じた.全国54ヵ所の下水処理場を対象とした実態調査では,流入下水,二次処理水,放流水の大腸菌群に占める大腸菌の平均割合は概ね20%であった.全下水処理場の二次処理水の平均大腸菌濃度と比較して,好気性ろ床法の二次処理水の大腸菌濃度が高い状況にあった.

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© 2019 公益社団法人日本下水道協会
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