10年ほど前に紙ベースのマイクロ流体分析装置(μPAD)の基本的な概念が提案されてから,世界中で活発に研究が為されてきた。一方,その要素技術の開発は,異なる専門的観点から実施する価値がある。本研究では,TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバー(TOCN)のμPADのモジュールとしての合理的利用を提案する。まず,乾燥状態のTOCNは不安定な物質を安定に貯蔵し,湿潤時には生化学反応場として機能することを示す。TOCN水性分散液のチクソトロピー性は,インクジェット印刷性を与え,μPADの製造を容易にする。溶液中と比較して,湿潤時のTOCNネットワークにおける物質の交換には長い時間を要するが,このことはμPAD上での徐放性実現と反応キネティックスの制御と位置付けられる。TOCNを組み込んだ有機リン系農薬の半定量μPADの構築例も示す。TOCNを実装することにより,1枚の紙にさまざまな機能を組み込むことができ,μPADの設計の柔軟性と汎用性を向上させられるものと期待される。