近年,製造装置や設備の保全において個々の装置や設備の状態に応じて保守を実施する予兆保全が注目されている。予兆保全にはメンテナンスのためのトータルコストの削減,ダウンタイムの最小化による装置や設備の稼働率増加といったメリットがある。点検では温度などのデータのほかに装置から発する音や振動が重要な位置を占める場合がある。従来,音や振動はセンサーやマイクを用いた検出ではなく,メンテナンス時の検査員や通常稼動時の作業者といった人に依存している場合がほとんどであった。少子高齢化による労働人口の低減を背景に,保全にかける人的工数の削減に対する期待は高まっており音や振動を予兆保全のシステムに取り込み自動的に判断する仕組みが期待される。
最初に保全に関する考え方を紹介し,トータルコストの面から予兆保全の重要性を示す。次に予兆保全を行うためには各種のセンサーを用いて装置や設備の状態を把握する必要があり,これを実現するためにIoT(Internet of Things)を活用することが鍵となることを示す。音や振動を保全に用いる場合,不要な音や振動の混入により誤判定や見逃しといった課題を解決する必要がある。音源を分離し不要な音を取り除く音源分離技術を紹介し,この技術により精度よく正常/異常の判定を評価した例を紹介する。