2018 年 72 巻 9 号 p. 1042-1049
塩化亜鉛でセルロース繊維を膨潤させ,繊維同士を接着させたバルカナイズドファイバーとも呼ばれるオールセルロース材料が古くから知られているが,その微細構造や強度発現メカニズムは未知なところが多かった。本研究では,塩化亜鉛処理でセルロース繊維がどのように接着効果を発揮しているのかを解明するため,X線回折による結晶構造解析,SEM観察,比表面積測定を行い,微細構造の変化を検討した。X線回折から,塩化亜鉛処理ではセルロースⅠ型の結晶構造がほぼ維持され,セルロースの結晶間を中心に膨潤させていることが明らかになった。凍結乾燥法によりセルロースの乾燥凝集を低減させた繊維シートのSEM観察から,塩化亜鉛処理により繊維の微細化が進み,セルロースナノフィブリル(CNF)が繊維間で密なネットワークを形成して複雑に絡み合っていることが分かった。さらに,比表面積の値も塩化亜鉛処理することで処理前の8倍程度に上昇し,微細化が進んでいることが裏付けられた。また,繊維シートを塩化亜鉛処理すると,引張強度,伸び率,弾性率共に大きく上昇し,引張強度は最大で106MPaを示した。さらに,塩化亜鉛処理したシートは湿潤状態でも引張強度の低下が小さく,高い伸び率も有していた。これらの結果から,本オールセルロース材料中でCNFが複雑に絡み合い,水では簡単に解れないネットワークを形成されていることが示唆された。