紙パ技協誌
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研究発表会特集
製紙における内添・外添薬品のセルロース繊維への定着および機能発現機構
磯貝 明
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キーワード: W0その他
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2022 年 76 巻 11 号 p. 971-978

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抄録

アルキルケテンダイマー(AKD),ポリアミンアミドエピクロロヒドリン(PAE)樹脂,硫酸アルミニウムに代表される製紙薬品は,発明から60年以上の実用化実績があり,多くの基礎および応用技術が蓄積されている。しかし,実際の抄紙工程は複雑であり,内添薬品による機能発現の現象やトラブルを矛盾なく全て説明できるような理論が構築されているわけではない。内添の場合には,抄紙系が複雑化しているからこそ,トラブル対応として,まずは添加薬品の紙中の含有量(歩留り量)を分析-評価する必要がある。紙中の微量のサイズ剤成分は熱分解ガスクロマトグラフィーにより,窒素を含むカチオン性あるいはアニオン性の高分子の定量にはガスクロタイプの窒素含有量分析装置により,アルミニウム等の元素成分はシートの蛍光X線分析によって定量-分析が可能である。多くの内添薬品トラブル,添加効果の低減は,添加薬品のシートへの歩留り量の低下が原因であることが多い。一方,同じ紙中含有量でも効果が全く異なる場合もあり,その場合にはシート中あるいは繊維上での添加剤成分の分布状態が影響している。抄紙工程での添加薬品成分のシートへの定着-歩留り,紙中での均一分布,それによる効率的な機能発現には,パルプ繊維中および微細繊維中の微量カルボキシ基が関わっている。カルボキシ基を足場とする添加剤成分との水系でのイオン結合による定着が紙の機能発現の第一条件となる。このカルボキシ基を足場とする添加剤成分による表面改質機構は,荷電基を表面に高密度に有するセルロースナノファイバーの効率的な耐水化,疎水化にも関連しており,製紙化学の基礎研究がセルロース繊維を含む親水性のバイオ系素材の効率的な表面化学改質-機能化手法として展開することに期待したい。

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© 2022 紙パルプ技術協会
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