組織培養研究
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原著論文
胸膜中皮腫細胞株(FU-Meso-1)の樹立とその生物学的特徴
石黒 晶子 福重 智子大中 郁子廣瀬 由美子
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キーワード: 胸膜中皮腫, CDKN2A, 細胞株
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2025 年 43 巻 1 号 p. 1-11

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抄録

中皮腫は稀な悪性の腫瘍であり、このような稀な腫瘍の細胞株は新鮮検体の代わりとして細胞遺伝学的、分子生物学的検索を含む様々な検査を行うために有用な材料となる。胸膜の中皮腫(Malignant pleural mesothelioma; MPM)の診断には反応性の中皮との鑑別が必須であり、免疫組織化学染色によるBAP1 蛋白の消失やFISH法によるCDKN2Aのホモ接合性の欠失の検出が有用とされる。今回私たちは病理組織学的に二相型MPMと診断された胸部腫瘍から細胞株FU-Meso-1 を樹立し、病理組織学的検索に加え、異種移植能、CDKN2Aの細胞遺伝学的、分子生物学的検索を行った。細胞株FU-Meso-1 は異種移植能を有しており、組織像は患者由来の中皮腫(患者由来腫瘍)のみ上皮様成分が認められたが、患者由来腫瘍、FU-Meso-1 細胞株のSCIDマウス移植腫瘍(マウス移植腫瘍)、FU-Meso-1 細胞株とも共通した免疫組織学的性質(癌腫陽性マーカー陰性、中皮陽性マーカー陽性)を呈した。中皮との鑑別に必須とされるFISH法によるCDKN2Aの消失の検索結果はすべての材料でヘテロ接合性の消失を示したが、real time RT-PCR法ではCDKN2Aの発現が検出されなかった。そこでCDKN2Aのプロモーター部位のメチル化をメチル化特異的PCR法で検出した結果メチル化が検出され、結果としてFU-Meso-1 はCDKN2Aを発現しておらずCDKN2Aはホモ接合性の欠失状態であると思われた。今回樹立した細胞株FU-Meso-1 は患者由来腫瘍とほぼ同じ特性を持つことから、MPMの研究だけでなく分子標的薬や免疫療法薬などの新しい治療法の開発やその生物学的挙動を調査するのに役立と思われる。またCDKN2Aの接合性の検出にはFISH法だけでなくreal time RT-PCR法との併用が必要であろう。

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