専門日本語教育研究
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論文
学習者言語が日本語学術共通語彙の理解に与える影響
中国語母語、中朝バイリンガル、韓国語母語、非漢字圏の学習者を比較して
松下 達彦佐藤 尚子笹尾 洋介田島 ますみ橋本 美香
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2020 年 22 巻 p. 25-32

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抄録
学術的文章に特徴的な語彙の約7割は漢語で、日常言語、文芸的文章等に特徴的な語彙とは異なり、特に非漢字圏の学習者にとって、学術的文章の理解は相対的に難度が高いと考えられる。本研究は日本語の学術共通語彙の理解が学習者言語(以下LL)の背景によりどう異なるのかを明らかにするため、日本語学術共通語彙テストVer. 2.0 を、日本語を学習対象言語とする、日本、韓国、中国などの大学に在籍する学生等229名に実施し、ラッシュモデルを用いて中(C)、中朝バイリンガル(KC)、韓(K)、その他(O)の四つのLLグループごとに項目難度を推定した。その結果、相対的項目難度はLLによる顕著な違いが表れた。CにとってOより相対的に難度の高い項目は「サンプリング」「ビジュアル」など上位4項目がすべて外来語だったのに対し、OにとってCより相対的に難度の高い項目は「案件」「激増」など上位22項目中20語が漢語だった。LLグループ別項目難度の相関係数を計算すると、KとCの相関がr =.508だったのに対し、KとOではr =.615で、KはCよりOに近く、必ずしも漢語系の学術語彙が韓国語知識で易しくなるわけではないことが示唆された。またKCはK(r =.480)よりもC(r =.666)に近かった。高度バイリンガルを対象に含む研究・教育では各種施策の判断に際して、L1だけでグルーピングすると実態を見誤るので注意が必要である。
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