Journal of UOEH
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慢性砒素中毒の症例にみられた原発性多重癌
― 1剖検報告―
谷本 昭英濱田 哲夫兼崎 暉松野 康二小出 紀
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1990 年 12 巻 1 号 p. 89-99

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抄録
慢性砒素中毒症例に見られた多重癌の1剖検例を報告した. 症例は88才の男性で喫煙歴はなく, 47才から54才までの6年間に亜砒酸の精錬に従事しており, 76才時に慢性砒素中毒の診断を受けた. 80才時に右上腹部のボーエン病, 86才時には早期胃癌の手術の既往歴があった. 剖検時には右肺の扁平上皮癌, 右梨状陥凹のポリープを認めた. 光顕的検索では潜在性前立腺癌があり,右梨状陥凹のポリープは偽腺様嚢胞癌と考えられた. 以上既往歴のボーエン病, 胃癌を含めて合計5つの悪性腫瘍を確認した. 慢性砒素中毒症例において, 過去の報告例ではボーエン病や肺癌と砒素の関連を指摘する報告が多いが, 本症例で胃癌, 肺癌, 咽頭癌, 前立腺癌が合併したということは, 砒素暴露が皮膚や肺以外の臓器にも発癌をきたす可能性を示唆するものと思われる.
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© 1990 産業医科大学
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