抄録
バクテリオロドプシン(bR)は高度好塩菌Halobacteriumu halobiumの紫膜に存在する唯一の膜タンパク質であり, 光駆動型プロトンポンプ(光を受けて水素イオンを細胞内から細胞外へと輸送する)として知られている. この実験の目的は, bRがプロトンの電気化学的ポテンシャル勾配下に置かれたときどのように振る舞うかを調べることであった. この目的のために脂質平面膜法を応用した電気的測定法を適用した. bRをリン脂質小胞に再構成したのち, 脂質平面膜に組み込んだ. bRポンプによる電荷移動を, 脂質平面膜を介しての容量性の電流として記録した. bRリン脂質小胞と脂質平面膜との結合は強固で, 長時間にわたって安定な記録が可能であった. われわれの実験装置で(平面膜の直径200μm), ミリ秒の閃光照射によって200pA程度のパルス電流が観察された. プロトンの電気化学的ポテンシャル勾配を以下の3種の方法で生成した. 1)あらかじめbRポンプを長時間照射してほとんど飽和に達するプロトン勾配を生成する, 2)リン脂質小胞内を酸性にしてポンプと逆向きのpH勾配を保持する, 3)外部電源から平面膜に電圧を印加する.
どの方法を採用しても, 加えられたポテンシャル勾配がポンプの向きと逆向きの場合は本来のポンプ電流に加えて, 一過性の負電流が観察された. さらに, 外部電圧(方法3)を加えると, bRによって輸送される電荷の総量は電圧に線形に依存して変化した. 観察結果を総合すると, bRには光によってゲートの開くプロトンチャンネルとしての作用があることが強く示唆される. チャンネルの平均開口時間はおよそ15ms, チャンネル1個あたりのコンダクタンスはおよそ0.05fSと推定した.