抄録
傍脊椎部電気刺激による体性感覚誘発電位(PS-SEPs)の臨床的有用性について検討するために正常人23名を用いて片側, 両側刺激での正常値を求めるとともに頭皮上波形分布について解析した. また, 脊髄, 脊椎疾患22例でPS-SEPsを記録し, PS-SEPsの異常パターンと神経学的所見および放射線学所見を対比して検討した. 1)正常成人ではC7からL2棘突起のレベルで, PS-SEPsは片側刺激, 両側刺激のいずれでも頭皮上で明瞭な波形が記録され, 吻側の傍脊椎部刺激ほどPS-SEPsの潜時は短縮した. 2)脊髄伝導時間, 脊髄伝導速度については正常範囲幅が大であったが, 腰椎レベルの刺激では胸椎レベルの刺激より伝導速度が遅く, これは傍脊椎部皮神経の走行距離の差によるものと推察された. 3)身長とPS-SEPsの潜時については相関関係は認められなかった. 4)頭皮上での振幅左右差の検討では, C7, Th5部での片側刺激PS-SEPsは刺激対側優位に振幅が大であり, Th10, L2部刺激PS-SEPsでは刺激同側と対側で振幅に有意差は得られなかった. 正中神経刺激SEPsでは対側優位, 後脛骨神経刺激SEPsでは同側優位に振幅差が生じることも確認されたことから, C7, Th5部刺激PS-SEPsは手の皮質領域に近い部位で発生しTh10, L2刺激PS-SEPsは手と足の間の皮質領域で発生するものと推察された. 5)脊髄, 脊椎疾患でのPS-SEPsは片側刺激により両側刺激では明らかにされない感覚障害のlateralityを把握することが可能であった. PS-SEPsは深部知覚障害を有する場合に高率に異常を示した. また, 臨床的な知覚異常レベルよりも尾側の刺激でPS-SEPsは異常を示す傾向にあったが, まれに知覚異常レベルより吻側でのsubclinicalな障害を検出したと考えられる場合もあった. 以上よりPS-SEPsは従来の頭蓋外基準電極法によるSEP検査では高位診断が困難であった胸椎部中心の脊髄, 脊椎疾患の他覚的な知覚異常の判定に有用であると思われた.