抄録
空調設備は快適な職場環境の整備と確保になくてはならないものであるが, 一方では空調冷却塔水中に生息するレジオネラ属菌による感染症(レジオネラ症)が問題となってきた.レジオネラ属菌はヒトに肺炎(在郷軍人病)やインフルエンザ様症状(ポンティアック熱)を引き起こす病原性を持っており, building-related illnessの原因の一つでもある.しかし, 我が国においてレジオネラ症の予防対策は欧米に比べ遅れているのが現状である.その原因としては労働安全衛生法やビル衛生管理法において冷却塔水などの空調設備の法的規制が不十分であること, 産業医学における作業環境管理が細菌学的視点に立脚しておらず, 職場巡視も冷却塔水の細菌学的検査やその管理にまで及んでいないことなどが挙げられる.本総説ではレジオネラ属菌の細菌学的特徴, 環境中での生態, 感染源, 感染経路, レジオネラ属菌の病原性, レジオネラ症の症状および治療と国内外における発生状況, さらには作業環境管理の立場から冷却塔水におけるレジオネラ属菌の生息状況とその対策について述べた.