抄録
本研究は, 発話者の映像と音声を時間的にずらして呈示することで, 読唇効果の時間的な限界を実験的に明らかにすることを目的とした. 実験では, 日常会話文を話している女性の顔の部分の映像とその音声が収録されたビデオテープを用いて音声のみ, もしくは映像+音声で音声を0, 60, 120, 240, 480ミリ秒のいずれかの時間で遅延させた視聴覚刺激を呈示した. 読唇訓練を受けていない16人の若年者を対象として各呈示条件下における会話文の了解度を測定した. その結果, 映像に対する音声遅延が120ミリ秒以内にあれば, 視覚を併用しないよりも併用した方が会話文の了解度において優れていた. さらに, この値は刺激として用いた会話音声の音節長にほぼ相当していた. 本研究の結果は, 騒音職場で働く作業者に, 聴取しやすい形で音声を呈示するためのディジタル信号処理の許容時間に関する基礎的資料を提供する.