抄録
本研究は, VDT作業における精神的疲労や気分の変化は電磁場暴露の影響を受けると仮定して, CRT画面装置の稼動による電磁場暴露状況を設定し, 実験環境下で実施した. 短縮版POMSと自覚症状調べ, 唾液中のクロモグラニンAおよび尿中8-OH-dGを電磁場暴露の指標として用い, これらの変化について, CRT稼動群をCRT-ON群, 非稼動群をCRT-OFF群とし, 二重盲検法によりグループ間での違いを検証した. その結果, CRT-ON群とCRT-OFF群による影響はどの指標においても統計的な有意差を認めなかった. しかし, VDT作業実施後の短縮版POMSと自覚症状調べ, 尿中8-OH-dGの結果において, 実施前の値より有意な差を認めた. これらの結果は, VDT機器からの電磁波の漏洩は, 電磁場暴露基準値の許容範囲内にあり健康影響には問題がなく, むしろVDTによる拘束作業に伴う疲労やストレス, 視覚作業に伴う目の疲れなどから受ける変化であることが推察され, 過去に指摘されている報告と一致する(WHO, 2001). 本研究の意義は, CRT-ON・CRT-OFFの実験環境を設定し, 電磁場の漏洩による健康影響を否定し, むしろ短時間(1時間半)のVDT作業においても, 作業自体に伴う疲労や生物学的変化を明らかにした点にある.