Journal of UOEH
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死をみとる医療と医学教育
伊藤 幸郎
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1981 年 3 巻 4 号 p. 459-468

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抄録

今日, 文明社会では大多数の人間が病院内で死を迎えるが, 病院の臨死患者の取り扱いにおける非人間性が問題になっており, 尊厳死, 安楽死などの議論を生んでいる. 末期患者との人間的接触を避け, ひたすら延命処置のみをはかる医師の態度には, 医師自身の死への恐怖が投影されている. 死に伴う肉体的苦痛は除去できても, 自身の死に対する恐怖は従来の医学の対象外であり, 死をみとる医学が新たな分野として開発されねばならない. それには, 癌を告知するか否よりも, 患者の死を予期した医師側の死生観ないし治療的自我の確立が重要である. まず, あまりにも高度に専門化した医学教育の場に人間性を回復しなければならない. 死の問題は生涯教育の対象であり, 一方的に講義されるべきものではない. ここでは各人が教師であり, かつ生徒である. "生涯にわたって哲学する医師"の姿は臨死患者を前にした主治医の中に最もよく見現されるだろう.

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© 1981 産業医科大学
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