抄録
大気中には様々な有機汚染物質が含まれている. そのうち多環芳香族炭化水素(PAH)およびニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)は, 化石燃料などの燃焼に伴って発生し, ヒトの健康に影響をおよぼす物質である. 環日本海域の4ヶ国, 中国, ロシア, 韓国, 日本は, 主要エネルギーの種類や生活様式, 産業構造や事業所の設備などが異なり, その結果大気汚染のレベルと中身も大きく異なると推定される. そこで, 本報では中国と日本の製鉄業を中心とする都市である鉄嶺と北九州を選び大気粉塵を捕集後PAH, NPAH, 変異原性, 活性酸素種(ROS)生成能を測定し化学物質と毒性の点から比較評価を行った. PAH, NPAH濃度は中国で高濃度を示し, 冬高夏低の傾向が見られた. また変異原性は冬に高いが, ROS生成能は夏に高くなる傾向が見られ, 変異原性とROS生成能には異なる原因物質が関与すると考えられた. PAH, NPAHとは異なる化合物の寄与も大きいことが考えられた.