抄録
咳嗽は気道の浄化における重要な防御機構であり,十分に強い咳嗽は,嚥下障害を有する患者の誤嚥リスクを抑制する.今回の研究目的は,脳血管障害患者の嚥下障害の有無による最大咳流速(PCF)の違いを調べることであり,さらにはこれらの患者におけるPCFの身体および呼吸関連因子を明確にすることである.肺活量計を用いて,嚥下障害を有する10名の脳血管障害患者(SPD),嚥下障害を有しない20名の脳血管障害患者(SP)と臨床や新聞で募集した性・年齢の一致する10名の健常コントロール群(HC)のPCFを測定し比較した.その結果,SPDのPCFは160.1 ± 68.7 l /minであり,SPの297.2 ± 114.2 l /min,HCの462.0±84.4 l /minと比べて有意に低下していた(one-way analysis of variance, ANOVA, Scheffeʼs test, P < 0.05).また,SPDの肺活量(vital capacity, VC)と予備吸気量(inspiratory reserve volume, IRV)は,HCのVCやIRVより減少していた.多変量回帰分析より,IRVと移動能力(Functional Ambulation Categories, FAC)のPCFに対する寄与率は,それぞれ50%と17%であることが分かった.呼吸機能特にIRVが,SPDのPCF維持に重要であることが示唆された.