抄録
膵癌は世界的に依然としてヒトでのもっとも致死的な癌の一つであり,その発生のメカニズムのさらなる解明とより効果的な治療法の開発が望まれている.膵管癌は膵癌の中でもっとも代表的な組織型であり,Kirsten rat sarcoma viral oncogene homolog(KRAS)やtumor suppressor protein p53(TP53)などにおける突然変異などの遺伝子異常が高頻度に認められることが特徴である.また,膵管癌ではいくつかの細胞内のシグナル伝達系の異常によりその発生や進展が誘導されることも知られている.それらの中でWingless/int1(WNT)シグナル伝達系は,胎児発生や細胞増殖,分化において主軸的な役割を演じており,その異常は膵臓を含む様々な臓器において腫瘍発生を惹起する.最近の研究では,WNTシグナル伝達系の異常が膵管癌患者の不良な予後と相関することも示されており,このシグナル伝達系は膵管癌の予後予測因子であると共に,今後の治療標的として有力な候補であることが示唆されている.本総説では,膵管癌においてWNTシグナル伝達系が臨床病理学的に意義深いことに焦点をあてて解説する.