Journal of UOEH
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膵島由来ホルモン産生腫瘍の一例
田岡 賢雄松島 敏夫尾関 恒雄膳所 富士男栗田 幸男
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1982 年 4 巻 1 号 p. 81-91

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抄録
われわれは膵島山来と思われるホルモン産生腫瘍のー例を経験した. 本例は79才の男子で吐・下血を主訴として緊急入院, 内視鏡により胃角後壁に2ヶ, 前庭部小彎に1ヶのU1-III多発性潰瘍を認めた. 血中ガストリン値は705.5pg/mlと高値で最初Zollinger-Ellison症候群を疑ったが, 胃液検査ではBAO 1.77mEq/hr, MAO17.64mEq/hrと正常であり本症候群は否定した. 一方, 血中の各種ホルモンを測定したところインスリン, グルカゴン, ACTH, PTHなどがいずれも高値を示し多発性内分泌腫瘍の疑いが強くなった. 入院後施行したセクレチン負荷試験は陽性を示しガストリノーマの存在を考えたが, 再度同試験を実施したところ次回には陰性となった. 入院後3カ月頃, 5年前胆のう炎の診断で施行された胆剔後手術はん痕部に栂指頭大の腫瘤が突出し, 外科にて腫瘤を摘出, 組織学的に未分化なislet cell carcinomaであることが確認された. 患者はその後肺・肝など他臓器に転移を生じ, 腫瘍による肝門部胆管への圧迫のためと思われる閉塞性黄疸も次第に高度となり, さらに大量の吐血を生じて第166病日に死亡した. 剖検による診断は膵頭部に発生したラ氏島腫瘍で組織学的には未分化腺癌であり, 肺・肝・左副腎・横行結腸部腸間膜ならびに原発巣周囲と大動脈周囲後腹膜にリンパ節転移を認めたが, 副甲状腺には全く変化はみられなかった. さらに本例では右肺上葉B3領域に浸潤型高分化扁平上皮癌の合併がみられ多重癌であることが判明した. 本例は剖検材料による数カ所の腫瘍組織からグルカゴン・セクレチン・ソマトスタチンなどが検出されており, 膵島由来の多種ホルモン産生腫瘍であると考えられた.
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© 1982 産業医科大学
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